親が認知症などの病気や加齢などによって判断能力が低下してくると、心配になるのが財産の管理方法です。
不動産や預貯金など「これまでは親本人が管理できていたけど、このままだと不安...」という状況の方もいるのではないでしょうか?
そこで本記事では、親の財産の管理方法について、おすすめの方法や財産管理についてのよくあるトラブルを紹介します。
ぜひ参考に「親の財産管理に良い方法はあるの?」という悩みを解決してください。
親が認知症になる・高齢になるなどによって判断能力が衰えた結果、どのような財産トラブルが起きるのでしょうか。
ここでは、親の財産管理についてよくあるトラブルを紹介します。
親の判断能力が低下すると、不必要なものを購入したり詐欺に引っかかったりしてトラブルとなることがあります。
認知症・高齢によって認知機能が低下すると、記憶力・判断力・注意力などが低下します。
その結果、買ったものを忘れてしまい何度も購入してしまう、どのくらい必要か認識できず大量に購入してしまう、といったことが発生するのです。
また、認知症などによって判断能力が低下している人を狙って、悪質な業者が訪問販売をするなどして、高額な契約をする事例も多発しています。
銀行側が判断の低下を認知した場合、銀行口座が凍結される可能性があります。
こうなってしまうと、暗証番号を知っている身内にATMに行ってもらっても、お金をおろすことができません。
また、法律上の正当な代理人の契約をしても、その契約自体が意思能力がないとして民法3条の2で無効とされる可能性が高く、権限を取得できません。
結果的に親のお金をおろすことができず、適切な手続きができるまでは、周囲の人に援助してもらうなどによって生活をせざるをえなくなる可能性があるのです。
認知症などによって親の判断能力が低下すると、不動産などの財産の処分ができなくなります。
認知症などで物事の是非弁別が判断できなくなっている場合には、民法3条の2で契約自体が無効となってしまいます。
そのため、不動産などの財産を処分して、老人ホームなどに住まいを移そうとしても、これらの契約ができません。
本人の判断能力が低下している以上、当然遺言書の作成などの相続対策も困難となります。
親が亡くなったあと、財産は相続人のもとにわたります。
遺産分割協議で相続人が揉めないため、財産の移転をスムーズにおこなうための生前対策には、遺言書の作成や生前贈与などがありますが、認知症となり意思能力や遺言能力が無いとされると利用ができなくなるのです。
将来的な親の財産管理を適切におこなうために検討しておくべき方法としては、次の4つがあります。
名称 |
概要 |
法定後見 |
判断能力が低下した人に対して、その低下の度合いに応じて成年後見人などをつけて、財産管理や療養看護のために必要な行為をおこなう |
任意後見 |
自分の判断能力が将来低下したときのために、後見人となってもらう人とあらかじめ任意後見契約をしておき、判断能力が低下したときに任意後見人に財産管理や療養看護をしてもらう |
家族信託 |
あらかじめ所有している財産を家族に託して、管理・処分を任せる信託契約を結ぶもの |
代理人指名制度 |
銀行において本人に判断能力があるうちに代理人をあらかじめ指名することで定められた限度額で出金を認める |
財産管理委任契約 |
自分の財産の管理について委任する契約 |
認知症などで判断能力が低下した親の財産を管理する場合は、法定後見を検討しましょう。
すでに認知症になっている場合や高齢で判断能力に乏しいなどの場合に、親の財産管理をするための制度が法定後見です。
民法では、意思能力のない人の取引を無効としていますが、判断能力がない人でも財産を管理し、療養看護をするためにサポートする人を就けて各種取引ができるようにしています。
以下では、法定後見のメリットや注意点を解説します。
法定後見は本人の判断能力の程度によって、後見・保佐・補助の3つに分かれます。
このうち、「後見」は未成年後見人と区別する意味で、成年後見とも呼ばれます。
法定後見の種類 |
対象になる人 |
サポート内容 |
後見(成年後見) |
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条) |
成年後見人が本人(成年被後見人)に代理して法律行為をおこなう |
保佐 |
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法11条) |
保佐人が本人(被保佐人)に、民法13条所定の行為について同意権を与え、同意を得ずにした行為を取り消すことができる。 代理権を保佐人に与えることもできる |
補助 |
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者(民法15条) |
民法13条所定の行為について補助人の同意を必要として同意を得ずにした行為を取り消したり、代理権を保佐人に与えることができる。 |
法定後見の種類によって、後見人がおこなえるサポート内容が異なるため、本人の判断能力に応じたサポートが可能です。
なお、事理を弁識する能力とは、自分がおこなった契約などの法律行為の結果がどうなるかを認識する能力のことをいいます。
判断能力の衰えが、法定後見のどの種類に該当するかについては、一般的に長谷川式評価スケール・認知機能検査(MMSE)の点数が用いられ、長谷川式評価スケールでは10点以下・認知機能検査では14点以下である場合には後見の対象である「事理を弁識する能力を欠く常況にある」といえ、後見となるとされています。
法定後見は判断能力が低下したタイミングで自動的に始まるわけではく、裁判所による後見開始の審判等を受ける必要があります。
後見開始の審判等は、家庭裁判所に対する申立てが必要となります。
成年後見人には、多くのケースで親族が就任することが多いです。
ただし、誰が成年後見人になるかについては法律の定めはなく、家庭裁判所が被後見人に最適な人を後見人として選任することになります。
後見人は、単に財産管理をするだけではなく、判断能力が低下した本人の看護療養もする必要があることから、親族が成年後見人になることが多いです。
実務上では、申立ての段階で成年後見人の候補者を立てて申し立て、成年後見人として就任します。
しかし、親族であっても未成年者であったり破産手続きの最中であるような場合には、民法の欠格事由にあたり、親族であっても成年後見人になれません。
また、本人に複雑な問題がある場合や、財産関係が複雑である場合には、弁護士などに成年後見人になってもらったほうがよいケースもあります。
現在は判断能力がしっかりしている場合でも、将来的に親の判断能力が低下して、財産管理が必要となったときに向けて備えておきたい方もいるのではないでしょうか。
ここでは、将来的な判断能力の低下に備えるための3つの方法を紹介します。
任意後見制度は、判断能力が十分なうちに任意後見人となってもらう人を見つけて契約をしておき、判断能力が不十分になった段階で契約をした任意後見人の後見事務が開始される制度です。
法定後見では、本人が判断能力を失ったあとに申立てがおこなわれるので、後見人となる人を本人が選ぶことができず、権限も法律で定められた範囲に限られます。
一方、任意後見人を自分で選ぶことができるほか、サポート内容も事前に任意後見契約によって定めることができます。
任意後見制度で選任される任意後見人には、本人がおこなった契約についての取消権が無い点に注意が必要です。
法定後見の場合には、そもそも本人には日常生活に関する行為以外は単独でおこなえませんし、保佐・補助の場合には保佐人・補助人に取消権が認められています。
本人が不適切な契約行為などをおこなってしまった場合に、取消をすることで財産を取り戻すことができますが、任意後見人には取消権が認められていません。
そのため、どうしても取消権を行使しなければならないときには、法定後見の申し立てが必要となります。
任意後見人には親族もなることができます。
しかし、任意後見制度を利用する場合には、任意後見人の事務を監督する立場である、任意後見監督人が選任されます。
任意後見監督人には、弁護士などの専門職が家庭裁判所によって選任され、報酬が必要となるので注意が必要です。
家族信託とは、あらかじめ所有している財産を家族に託して、管理・処分を任せる信託契約を結ぶことをいいます。
財産の管理・処分を託された親族が財産を管理することで、本人が判断能力を失った後も財産の管理・処分をすることができます。
家族信託では、信託契約に基づいて財産の管理をおこなうことができますが、本人に代わって療養・監護に関する契約をおこなう権限まで付与するわけではありません。
そのため、本人に代わって病院や介護老人ホームの契約をするなど、療養・看護に関する契約を、受託者がおこなえるわけではない点に注意が必要です。
金融機関の口座から代理で出金ができる制度のことを、代理人指名制度と呼びます。
銀行口座に預金を預けている場合、預金をしている人は銀行との契約に従って、銀行口座から出金することができます。
しかし、この権限はあくまで本人にのみ認められたものです。
たとえばキャッシュカードと暗証番号を知っている親族がいるような場合、事実上その親族が銀行口座から出金をすることになりますが、その親族には権限がありません。
代理人として出金をする場合、法律上は個別に代理権を付与する必要があり、代理権を付与するためには本人に判断能力があり、意思能力があるといえる場合でなければなりません。
認知症で判断能力を失い、意思能力を失ったあとは出金する権限がないことになりますが、これでは銀行口座からお金を出金できなくなり、本人が生活に困ることがあります。
このような場合に備えて、銀行などの金融機関で、判断能力があるうちに代理人を指名しておき、判断能力を失ったあとも代理人に出金を認めるのが、代理人指名制度です。
代理人指名制度は、あくまで銀行との合意で出金についての例外を認めるものにすぎず、銀行からの出金以外の行為についての権限を与えるものではない点に注意が必要です。
自分の財産の管理を委任する契約が、財産管理委任契約です。
財産管理委任契約では、判断能力の低下のみならず、たとえば体調がすぐれず長期間入院するような場合に、財産の管理を委任することも可能です。
委任する内容は、契約内容で自由に決められるので、その人の状況に応じた契約を結べます。
しかし、財産管理委任契約に基づいて銀行預金の出金をしようとしても、本人の意思能力を確認できない場合は出金に応じてもらえない可能性があるなど、契約内容をきちんと履行できないリスクがあることに注意が必要です。
また、法定後見における裁判所の監督や、任意後見における裁判所・任意後見監督人の監督のように、代理人を監督する権限を持つ人がいません。
そのため、判断能力・意思能力を失ったあとに、代理人が不適切な行為をおこなっても、法定後見の申立てをおこなって契約を解除するしかない点についても注意しましょう。
親の財産管理をする方法についての注意点としては次のとおりです。
親の財産を管理する目的で、親の口座から出金しておいて、子などの銀行口座に資金を移動することがあります。
こうすれば、親の口座からの出金について、法律上の問題が解決できるようにも思えます。
しかし、親の口座から出金をして子の口座に入金をしているという資金移動は、外から見ると金銭の贈与をおこなったとみなされることがあるので注意しましょう。
さらに、贈与税の基礎控除額である、年間110万円以上の贈与をおこなっている場合、贈与税の申告が必要となります。
無申告の場合は、税務署から税務調査を受け、延滞税・無申告加算税・重加算税の対象となるリスクがあることも覚えておきましょう。
判断能力低下後には、基本的に法定後見しか使えなくなることも覚えておきましょう。
たとえば精神疾患などで、一時的に判断能力を失っているにすぎない場合は、病気が治れば判断能力を回復します。
しかし、認知症や加齢により判断能力を失った場合には、治療によって症状が進行するのを遅らせたりすることはできても、回復することはありません。
そのため、新たな契約をしたり、財産を管理したりするには、法定後見が必要不可欠となるケースがあるのです。
親の財産管理についての相談先には、以下のようなものが挙げられます。
預金のある金融機関や、信託銀行などには、親の財産管理について相談することが可能です。
金融機関や信託銀行では、財産管理についての相談を受け付けており、代理人指名制度や家族信託などについてのアドバイスをはじめ、相続全般についての助言を受けることができます。
詳しくは、各金融機関のホームページで確認しましょう。
市区町村では住民の困りごとに対するさまざまな相談を受け付けており、高齢者の生活についての財産や介護についての相談を受けることができます。
本人の状態に応じて必要となる介護についての相談や、適切な法的サポートの制度についての相談をすることができます。
詳しくは、各自治体のホームページで確認しましょう。
高齢者の法定後見・任意後見・家族信託などの法的な問題については、弁護士に相談することをおすすめします。
本人が判断能力を失った場合の対応や、将来的に判断能力を失ったときのための対策には、家庭裁判所への申し立てなどの法的手続きが欠かせません。
弁護士に相談することで、これらについての適切な対応を確認できるでしょう。
また、相続対策も一緒に考えられるのもうれしいポイントです。
本記事では、親が判断能力を失った後の財産管理についての方法について解説しました。
親が判断能力を失った場合、不必要な支出や詐欺被害にあったり、財産管理や療養介護のための適切な契約ができなくなったりといった不都合が生じます。
すでに判断能力を失った場合や、将来の判断能力の消失に対する対応方法をもう一度確認しましょう。
どのような方法が適切かは、弁護士に相談しながら考えることをおすすめします。
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