近年、少額で始められることを理由に投資信託の購入者が増加しつつあります。
それにともない、家族が死亡した際に所持していた財産に投資信託が含まれており、どのように扱えばよいのかよくわからないという疑問の声も聞かれるようになりました。
そこで本記事では、投資信託を相続する方法について紹介します。
投資信託を相続する際に必要な手続きや、注意しなければならないことについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
投資信託とは金融商品のひとつで、資産運用の専門家が複数の投資家から資金を集め、運用することによって得た利益を出資した投資家へ分配します。
投資信託を購入していた場合、資産運用の結果得た利益を受け取ることができる「受益権」と呼ばれる権利を持っていると認識されます。
また、この受益権には財産価値があるため、投資信託は遺産分割の際の対象となります。
投資信託は遺産分割の対象になりますが、「当然分割」はおこなわれないことに注意が必要です。
当然分割とは、遺産分割などを経ることなく、法律で定められた相続の割合(法定相続分)を用いて、相続人間で財産を分割することを指します。
投資信託は、口数を単位としている特性上、明確な分割がおこなえない可能性が存在します。
また、利益を得る権利だけでなく資産を委託した者に対する監督的機能を有する権利も含まれているため、当然分割の対象にはなりません。
そのため、投資信託は遺言書で相続する人物が定められていればその人が、それ以外の場合は遺産分割協議によって相続する人を決めなくてはいけません。
遺産相続の対象に投資信託が含まれている場合は、以下に挙げたいずれかの方法を用いて相続をおこないます。
投資信託の相続について遺言書で指定がある場合は、指定された人が相続することになります。
ただし、遺言書の内容に従って遺産相続をおこなうのであれば、ほかの相続人の遺留分を侵害していないかどうかを確認する必要があります。
遺留分とは、法律で定められた各相続人がもつ最低限の相続割合のことです。
遺言書においては遺留分を無視した相続内容を定めることが可能ですが、相続をおこなった結果、遺留分を侵害していた場合には、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺言書がない場合は、相続人間で遺産分割協議をおこない、投資信託を含めた財産を誰が相続するかを決めます。
なお、遺産分割協議をおこなう場合には、相続人全員が参加し合意を得る必要があります。
遺産を分割する方法には、現物分割・代償分割・換価分割などがあります。
ただし、投資信託を相続する際には代償分割を利用することがすすめられます。
代償分割は分割が難しい財産を相続した人が、その評価額に応じて代償金を支払うことで調整する分割方法です。
口数単位で分割せずに1商品丸ごと相続し、代償分割によって調整することで手続きの際の手間を減らすことができます。
遺産分割協議をおこなったものの、遺産分割の方針がまとまらない場合には、遺産分割調停を利用して解決を図ります。
遺産分割協議は家庭裁判所に申し立てることで利用できる手続きで、調停委員が相続人の間に入りそれぞれの事情を聞き、お互いが合意するための解決策やアドバイスを提供します。
もし調停でも合意が得られない場合は、審判へ自動的に移行します。
遺産分割審判では、相続人それぞれの主張を検討したうえで裁判所が遺産分割の内容を定めます。
遺産分割協議をおこなう際、投資信託の分割方法には、現物分割・代償分割・換価分割の3つがあります。
以下では、それぞれの方法について解説をおこなっていきます。
現物分割は、投資信託や株、不動産など財産を一つひとつ相続人それぞれに振り分けて分割する方法を指します。
現物分割は財産を分割すること自体は簡単におこなえますが、状況によっては公平な分配をおこなうことが難しい点に注意が必要です。
代償分割は、投資信託や株、不動産など財産それぞれを相続する人を定め、相続しない相続人に対して代償金を支払う分割方法を指します。
相続財産を公平に分割できるという点はメリットといえる一方で、相続する人は代償金を支払う必要があるため、相応の資金力がない場合には適していない方法といえます。
換価分割は、分割しにくい財産を相続前に売却してしまい、売却によって得た金銭を相続人の間で分割する方法です。
なお、投資信託は金融機関の手続きうえ、換価分割をおこなうことができません。
これは、被相続人が亡くなると口座が凍結されるため、被相続人が所有する投資信託を売却して現金化することができないためです。
そのため、被相続人が所有する投資信託を現金化できるのは、名義変更手続きの完了後、相続人の口座へ移管されてからとなります。
投資信託を相続する際の手続きは、おおむね以下のとおりです。
あわせて必要になる書類について解説するので、ぜひ参考にしてください。
まずは投資信託の口座を管理している金融機関を特定し、被相続人が亡くなった旨を連絡します。
投資信託の口座を管理している金融機関には、信託銀行や証券会社などがあります。
運用報告書や取引残高報告書が届いている場合は、記載がある金融機関で手続きをおこないます。
オンラインで投資信託を購入している場合は、メールから確認する方法や、投資信託の分配金や償還金などの入金履歴から金融機関を特定するという方法もあります。
また、金融機関に連絡をする際にあわせて確認しておきたいのが投資信託の残高です。
遺産分割をおこなう際に、投資信託がどのくらいの価値を有しているかの情報が必要となります。
投資信託を誰がどのように分割するのかが定まったら、金融機関に必要書類を提出します。
必要書類は、遺産分割の内容を定めた方法によって異なります。
被相続人が自筆証書遺言を作成している場合、家庭裁判所で検認をおこなう必要があります。(公正証書遺言の場合、検認は不要です。)
被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所での申立て後、数日で検認期日の通知がきます。
検認済証明書の発行まで1カ月以上必要なので、余裕をもって進めておきましょう。
遺言書がある場合の必要書類は以下のとおりです。
なお、遺言執行者の有無によって必要となる書類が一部異なります。
【遺言執行者がいる場合】
【遺言執行者がいない場合】
遺言書がない場合、法定相続人で遺産分配に関する遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。
投資信託の評価額が他の財産より著しく高い場合、それぞれの取得分に差が生じるため、投資信託を共有相続にすることもあります。
ただし、共有相続にすると解約などの手続きに手間がかかるため、取得分が少ない相続人に現金を支払い差をなくす代償分割を選択しても良いでしょう。
遺産分割協議をおこなった場合の必要書類は、以下のとおりです。
投資信託を相続した場合、名義などを変更するのではなく、相続した相続人の口座に投資信託が移されることになります。
その際に、もし投資信託の口座がなかった場合は、新たに口座を開設する必要があります。
最後に、投資信託の相続における注意点を紹介します。
投資信託の価値は毎日変動するため、相続の発生時から相続後売却をおこなう際には価値が大きく変動していたということも珍しくありません。
手続きのタイミングによって価値が変動することを踏まえたうえで、相続の有無を検討するようにしてください。
投資信託を相続する際には、特定の相続人が一旦相続し、現金化してから分配することに相続人全員の得られるのであれば、換価分割を利用することができます。
投資信託を換価分割するためには、まず代表者となる相続人を1人決め、当該相続人の口座に投資信託を移動させます。
その後、その相続人が投資信託を売却し換価分割をおこないます。
なお、代表者となる相続人が投資信託を管理する金融機関の口座を持っていない場合は、新たに口座を開設します。
被相続人が投資信託を取得した当時より、売却時の価値のほうが高くなっていた場合、利益となる差額に20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の譲渡所得税が科せられます。
また、譲渡取得税が発生することにより確定申告が必要となるケースもあるのであわせて確認しておきましょう。
投資信託を含め、財産を相続した際には相続税の申告が必要となります。
相続税を申告する際には、相続財産がどのくらいの価値を持っているか評価をしなくてはいけません。
投資信託の評価額は、相続が発生した時点での価格を参照することを覚えておきましょう。
代償金の支払いは贈与ではないことから、基本的に贈与税はかからないものの、遺産分割協議書へ記載しなければなりません。
この記載が漏れていると、贈与とみなされて贈与税がかかる場合があるため注意が必要です。
代償金を贈与とみなされないためには、代償財産の種類や金額、支払い期限などを遺産分割協議書に記載しましょう。
被相続人の投資信託口座を解約する際に、解約違約金がかかるケースがあります。
必ず解約違約金がかかるわけではありませんが、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。
投資信託を相続する場合は、遺産の分割方法や手続きについて多くの注意点があります。
そのため、もし判断に迷うようであれば、投資信託の金融機関の窓口への問い合わせや専門家への相談を検討しましょう。
また、その他の財産の相続や遺産分割協議について相談したいのであれば、相続問題に強い弁護士に相談し、法的な知見に基づくアドバイスを提供してもらうようにしてください。
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