大切なご家族が亡くなった際、銀行口座が凍結され、引き落としなどができなくなります。
突然のことで、いつ、どのように口座が凍結されるのか、そしてその解除方法や事前準備について知らない方も多いでしょう。
相続手続きの一環として、口座凍結は避けては通れない問題です。
本記事では、故人の銀行口座が凍結されるタイミングや凍結解除の方法、そして凍結前にできる準備などについて解説します。
家族を亡くした悲しみのなかで、口座凍結という実務的な問題に直面するのは心苦しいことです。
しかし、正しい知識を持って対応することで少しでもストレスを軽減できるはずです。
本記事を読み、口座凍結に関する不安を解消し、スムーズな手続きを進められるようになりましょう。
口座の凍結とは、銀行が故人の死亡を確認した時点で、預金の出し入れをできなくする措置です。
これは、相続トラブルや不正な引き出しを防ぐためにおこなわれます。
口座が凍結されると、主に以下のような問題が発生します。
それぞれの内容について詳しく解説します。
口座が凍結されると、その口座からの引き出しや預け入れが一切できなくなります。
銀行は故人の口座の相続手続きが完了するまで、凍結を継続します。
引き出しができないと、葬儀費用や治療費などの急な支出が必要な際に困ることになります。
また、凍結中は給与振込や年金の受け取りも停止されるため、早めの対応が必要です。
口座が凍結されると、クレジットカードの引き落としや公共料金の支払いなど、口座からの自動引き落としも停止します。
そのため、口座凍結後に引き落としがおこなわれるはずの支払いが遅れたり、未払い状態になったりする可能性があります。
口座凍結のまま放置すると延滞料(遅延損害金)が発生し、電気・ガス・水道といったライフラインが停止するおそれもあるため、注意が必要です。
これを避けるためには、速やかにほかの口座での支払い手続きをおこなうか、口座凍結の解除に向けた手続きを進める必要があります。
銀行は、口座名義人の死亡を確認した時点で口座を凍結します。
銀行が死亡の事実を知る方法はいくつかあります。
金融機関が名義人の死亡を知るのは、ほとんどの場合、遺族からの連絡によるものです。
また、年金受給者の口座は、年金機構からの通知により即座に凍結されることもあります。
死亡届の提出だけでは銀行に情報は伝わらず、自動的に口座が凍結されるわけではありません。
また、基本的に銀行同士で口座名義人の死亡情報が共有されることはありません。
たとえば、A銀行に死亡の通知を行い口座が凍結されても、B銀行の口座には影響がありません。
ただし、同じ銀行内で甲支店と乙支店に口座を持っている場合、甲支店に死亡の連絡をすれば、乙支店の口座も自動的に凍結されます。
口座が凍結される主な理由は以下の2つです。
死亡後も自由に引き出せる状態では、不正利用や遺産分割の混乱が生じる可能性があるため、凍結の措置をとっています。
それぞれの理由について詳しく解説します。
口座を凍結する1つ目の理由は、故人の財産を明確にし、相続手続きの基礎となる遺産総額を確定するためです。
民法では、「亡くなった段階から法律上の相続が始まる」と定められています。(民法第882条)
亡くなった時点で自由に預金を引き出せる状態だと、相続開始時の正確な遺産額が把握できなくなります。
遺産分割協議や相続税の計算を適切におこなうため、凍結して預金の移動を制限しているのです。
口座を凍結する2つ目の理由は、特定の相続人が勝手に預金を引き出すことで、ほかの相続人との間でトラブルが発生するのを防ぐためです。
複数の相続人がいる場合、遺産分割協議が完了するまでは、預金は相続人全員の共有財産となります。
もし死亡後に自由に引き出せる状態だと、親族の誰かが無断で預金を引き出すリスクがあり、その結果、ほかの相続人との間でトラブルが生じることがあります。
銀行としては、正当な権利者に払戻しをする必要があり、遺産分割協議等により預金の相続を受けた者が確認できないと、預金に対する正当な権利者かどうか判断できません。
最悪の場合、損害賠償請求が発生することも考えられます。
こうしたトラブルを未然に防ぎ、遺産の公平な分配を確実におこなうため、銀行は口座を凍結し、正式な手続きを経てから財産を受け取れるようにしています。
口座凍結前に準備をしておくことで、凍結後の手続きをスムーズに進められます。
具体的には、以下のことをおこなうとよいでしょう。
それぞれの内容について詳しく解説します。
口座凍結後は、預金の全額の引き出しはできなくなります。
相続人全員の合意を得たうえで、葬儀費用や生活費を準備するために、ある程度の額を引き出しておきましょう。
さらに、口座が凍結されると、ATMで残高照会を行ったり、通帳記入をしたりすることもできなくなります。
銀行に連絡する前に必ず記帳を行い、現在の預金残高や定期的な入出金がないか、公共料金などの引き落とし口座になっていないかを確認しましょう。
オンライン専用口座で記帳できない場合は、取引履歴をダウンロードして保存しておくのがおすすめです。
相続手続きをスムーズに進めるためには、利用している銀行を洗い出し、必要な金融機関の数を減らすことも重要です。
複数の口座を持っていると、遺産分割協議で財産を確定するのが難しくなります。
また、凍結解除の手続きも全ての金融機関に依頼しなければならず、非常に手間がかかります。
複数の口座を持っている場合は、使っていない口座は解約し、メイン口座に集約させて手続きの負担を減らしましょう。
電気・ガス・水道・クレジットカード・携帯料金などの引き落とし先を別の口座に変更しておきましょう。
口座が凍結されると自動引き落としが停止するため、引き落とし口座を変更することで、未払いによるトラブルを防げます。
なお、亡くなった家族の口座がクレジットカードの引き落とし口座として指定されている場合は、カードの最終利用分が引き落とされてから銀行に死亡の連絡をすることで、余計な手間を省けます。
相続人が必要な手続きをスムーズに進められるように、通帳や印鑑の保管場所を把握しておくことも重要です。
相続手続きには、故人の金融資産や契約内容を確認する必要があり、通帳や印鑑はその確認に不可欠な書類であるためです。
保管場所が分からないと、手続きが遅れたり、紛失するリスクが生じたりする可能性があります。
そのため、以下のような重要な書類や物を一箇所にまとめておくとよいでしょう。
保管は、厳重にされてください。
また、いざ相続が発生した際に探し回らなくても済むよう、信頼できる家族に保管場所を伝えておくこともおすすめします。
口座凍結前に現金を引き出す際には、いくつか注意しなければならない点があります。
それぞれの内容について詳しく解説します。
安易に引き出してしまうと、後々トラブルになることもあるため、しっかりと理解しておきましょう。
故人の口座からお金を引き出す際は、基本的に相続人全員の合意を得てからにしましょう。
勝手に引き出すと、法律上「遺産の使い込み」と判断されることがあります。
ほかの相続人とのトラブルにつながり、あとで返還を求められる場合もあります。
また、正当な相続手続きをせずに引き出した場合、遺産の扱いが不透明になり、相続手続きが複雑になるリスクがあります。
後々のトラブルを防止するためにも、死亡後の預金引き出しはできるだけおこなわない方がよいでしょう。
どうしても引き出す必要がある場合には、使途を明確にし、相続人全員の了承を得ておくことが重要です。
故人の預金を引き出すと、「相続財産を処分した」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続は、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も承継します。
資産を一部でも受け取ると、相続を承認したと判断されることがあるため、相続放棄を考えている場合は、口座からの引き出しは慎重に検討しましょう。
口座凍結を解除する方法は、以下の2つです。
ただし、2の方法で進める場合は注意が必要です。
同じ銀行にすでに自分が口座を持っている場合、複数の口座を開設できないという理由で名義変更できない場合があります。
そのため、実務的には、1の解約払戻しを選択されることが多いです。
また、注意点として、以下のようなケースでは口座凍結の解除を避けたほうがよいでしょう。
解除手続きをおこなうと、相続の意思を示したとみなされ、その後に相続放棄ができなくなる可能性があります。
上記のケースでは、マイナスの財産も相続することになったり、手続き費用が残高を上回ったりすることがあるため、慎重に判断することが重要です。
口座凍結を解除する方法について、詳しく解説します。
銀行口座の解約とは、亡くなった人の口座を完全に閉鎖し、口座内の残高を相続人に払い戻す手続きです。
解約払戻しの場合、相続人に口座残高が分配されます。
手続きの流れは以下のとおりです。
名義変更は、亡くなった方の銀行口座を相続人の名義に変更する手続きです。
故人が名義人となっている銀行口座は、遺言書または遺産分割協議で取得することになった相続人が申請すれば、名義変更によって口座を引き継ぐことができます。
手続きの流れは以下のとおりです。
口座凍結の解除手続きに必要な書類は、遺言がある場合と遺産分割協議をした場合で異なります。
一般的には、以下の書類が必要です。
ただし、相続状況や取引銀行の規定などによっても異なるため、必ず事前に対象の銀行へ問い合わせてください。
相続手続きに必要な書類が揃い、手続きがスムーズに進めば、金融機関の審査を経て2〜3週間で解除されるのが一般的です。
ただし、相続人が複数いる場合や遺産分割協議が必要な場合、手続きが長引き、1ヵ月以上かかることもあります。
また、金融機関ごとに手続きの進行速度が異なり、不備があるとさらに時間がかかるため、事前にできる準備をしておくことが重要です。
口座凍結の解除手続きにかかる費用は、一般的には数千円で済みます。
内訳としては、必要書類の取得費用が主で、以下のとおりです。
相続人が多い場合は、必要書類の費用がかさむため、費用が増えることもあります。
また、弁護士や司法書士に手続きを依頼する場合、報酬として数万円〜数十万円の費用がかかります。
葬儀費用などで、すぐに現金が必要な場合は、相続手続き前でも一部の金額を引き出せる「払戻し制度」が役立ちます。
この制度は、亡くなった方の預金(相続預金)が遺産分割の対象となる場合に、遺産分割が終了する前でも、各相続人が一定の範囲で預金の払戻しを受けられる仕組みです。
2019年の民法改正により導入されました。
(民法第909条の2に基づく「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」)
払戻し制度には、以下の2つの方法があり、それぞれ上限額や利用条件が異なります。
それぞれの方法について、詳しく解説します。
家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けられる方法です。
裁判所を通さないため比較的スムーズに払戻しが受けられますが、払い戻せる金額には上限があります。
上限額については、「相続開始時の預金残高×1/3×払戻しを受ける相続人の法定相続分」または「150万円」のどちらか少ない方となります。
たとえば、口座残高が300万円で法定相続分が1/2であれば、300万円(相続開始時の預金残高)×1/3×1/2(法定相続分)=50万円まで引き出せます。
メリット |
デメリット |
・裁判所を通さないため、比較的スムーズに払戻しが受けられる ・手続きが複雑ではない |
・払い戻せる金額に上限がある ・各金融機関に対して同じ手続きをしなければならない |
銀行で直接申請する際に必要な書類は、一般的に以下のとおりです。
ただし、実際の運用は各銀行で細かい要件や必要書類が異なることがあるので、必ず事前に対象の銀行へ問い合わせましょう。
家庭裁判所に申立てをして、家庭裁判所の判断により払戻しが受けられる方法です。
家庭裁判所にて仮払い制度の利用を申し立てて手続きを済ませたのち、銀行窓口にて払戻しを申請します。
引き出す金額に上限がないところがメリットですが、払戻しを受けるまでに時間がかかり、手続きが煩雑であることがデメリットです。
また、利用するには以下の条件を満たす必要があります。
メリット |
デメリット |
・払いだせる金額に上限がない |
・払戻しを受けるまでに時間がかかる ・銀行に直接申請する方法に比べて手続きが煩雑 |
家庭裁判所に申し立てる際に必要な書類は、一般的に以下のとおりです。
なお、こちらも実際の運用は各銀行で細かい要件や必要書類が異なることがあるので、必ず事前に対象の銀行へ問い合わせましょう。
銀行の手続きや相続財産の整理をスムーズに進めるためには、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのが有効です。
相続手続きは非常に複雑で、必要書類や手続きの流れを誤ると、時間がかかるだけでなく、手続きが遅れる可能性もあります。
専門家に相談することで、以下のようなメリットがあります。
このように、専門家に依頼することで、相続手続きがより円滑に進むだけでなく、精神的な負担も軽減されるでしょう。
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さらに、初回相談無料や電話・オンライン相談可能な弁護士も豊富に登録されており、気軽に相談を始められます。
特に、相続人間でトラブルが起こった場合や法的に複雑なケースでは、弁護士に相談することで法的観点からの解決策を得られます。
たとえ相続がスムーズに進んでいる場合でも、専門的なアドバイスを得ることで将来のリスクを回避できるメリットがあります。
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最後に、口座凍結に関して、よくある質問とその回答をまとめました。
気になる質問があれば、ぜひ回答をチェックしてみてください。
口座の凍結は、相続人が正式な相続手続きを完了するまで解除されません。
必要書類を提出し、金融機関の審査を経て手続きが完了するまで凍結が続きます。
一般的な期間の目安は以下のとおりです。
相続手続きを早めに進めないと、凍結解除までの期間が長くなる可能性があります。早めの対応が重要です。
口座が凍結されたかどうかを確認する方法はいくつかあります。
口座が凍結された場合は、早めに金融機関へ連絡し、相続手続きを進めるようにしましょう。
本記事では、故人の銀行口座が凍結されるタイミングと凍結解除の方法、そして凍結前にできる準備などについて解説しました。
銀行口座の凍結は、相続手続きにおいて避けて通れない問題です。
しかし、凍結のタイミングや対応方法について理解しておくことで、不安を軽減し、スムーズな手続きを進められます。
また、必要に応じて専門家のサポートを受けることで、状況に応じたより適切な対応が可能となります。
本記事で得た知識を活かし、口座凍結に関する具体的な準備を今から始めましょう。
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