土地や家などの不動産を相続する際は、相続登記をおこなう必要があります。
しかし、相続登記は何度も経験するものではないので、実際にどの程度の費用負担が生じるのか、不安に感じている方も多いのではないしょうか。
そこで本記事では、相続登記にかかる費用の目安や具体的な計算方法などを解説します。
費用負担を抑えるコツや専門家に依頼すべきかどうかの判断基準も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
まず、相続登記にかかる費用の項目と大まかな内訳を解説します。
相続する不動産の価値などによっても異なりますが、高額な費用負担が生じるケースもあるので、目安だけでも早めに把握しておくことが大切です。
相続登記にかかる費用のひとつが、不動産の調査費用です。
1,000円~2,000円程度を目安に考えておくとよいでしょう。
相続登記を申請する際は、不動産情報を調査するために登記簿謄本を取得する必要があります。
そして、登記が完了したあとにも正しく情報が更新されているかを確認するために、登記簿謄本を再取得するケースが一般的です。
つまり、相続登記する不動産ごとに、登記簿謄本の発行手数料600円が2回分発生することになります。
また、被相続人が所有していた不動産を把握できていない場合は、被相続人名義の不動産を全て調査しなければなりません。
毎年市区町村から送付される固定資産税の納付書があれば特定できますが、納付書がない場合は固定資産税評価証明書を300円~400円で発行したり、名寄帳を200円~300円で閲覧したりする必要があります。
相続登記の申請をおこなう際は、戸籍謄本・印鑑証明書・固定資産評価証明書・住民票の提出が必要です。
それぞれの取得費用や取得方法を詳しく見ていきましょう。
相続登記を申請する際は、被相続人と相続人全員の戸籍謄本を提出しなければなりません。
遺産の相続方法は大きく分けて、法定相続・遺産分割協議・遺言の3つがあり、基本的に被相続人の戸籍謄本は、「出生から死亡までの全ての戸籍謄本」が必要になります。
最終の除籍謄本で出生・死亡を証明すればよいわけではなく、出生時に作成されたものや、法改正・結婚にあわせて新たに作成されたものなど、死亡するまでの戸籍を全て取得しなければなりません。
そのため、個人差はあるものの5通程度は取得することになるでしょう。
一方、相続人の戸籍謄本は、相続方法によって以下のような違いがあります。
戸籍謄本1通当たりの取得費用は、450円または750円です。
現在も効力がある戸籍謄本は1通450円ですが、結婚・死亡などで戸籍上に誰もいなくなったことを証明する「除籍謄本」や、法改正による改製以前に使われていた古い様式の「改製原戸籍」などを取得する際は1通750円かかります。
遺産分割協議によって不動産の相続をおこなう場合は、相続人全員の印鑑証明が必要です。
印鑑証明書の発行は役所の窓口やコンビニ交付サービスで受け付けられており、300円程度の手数料がかかります。
なお、相続登記では印鑑証明書の有効期限が設けられていないため、数年以上前に発行したものでも利用可能です。
相続登記の手続きを進めるためには、固定資産評価証明書の提出も必要になります。
固定資産評価証明書とは、固定資産税が課税される資産の評価額を証明する書類のことです。
相続登記をおこなう際は、固定資産税評価額の0.4%にあたる登録免許税を納付することになるため、納付額の算定根拠として、固定資産評価証明書の添付を求められます。
固定資産評価証明書の発行は役所の窓口で受け付けられており、1通あたり200円~400円程度の手数料が必要です。
この固定資産評価証明書は、毎年送られてくる課税明細書を代わりにすることもできます。
相続登記をおこなう際は、不動産の取得者と被相続人の住民票も提出しなければなりません。
本籍地が記載された戸籍の附票を代わりに提出することも認められています。
住民票の発行手数料は自治体によって差がありますが、一般的には300円程度です。
コンビニ交付サービスのほうが役所の窓口よりも安く発行できることがあるので、有効に活用しましょう。
建物や土地を相続登記する際は、登録免許税を支払うことになります。
ここでは、登録免許税を計算する際の流れを詳しく見ていきましょう。
まずは、固定資産評価証明書に記載されている不動産の評価額を確認しましょう。
登録免許税は、固定資産税評価額に規定の税率をかけて算出するためです。
なお、評価額の1,000円未満は切り捨てとして取り扱います。
評価額が確認できたら、税率をかけて登録免許税を算出します。
登録免許税の税率は複数ありますが、相続による所有権移転登記の税率は0.4%です。
たとえば、評価額が1,000万円の不動産を相続する場合は、4万円(1,000万円×0.4%)」を支払います。
算出した登録免許税に100円未満の端数が生じた際は、切り捨てとしてください。
なお、登録免許税の支払い方法は、現金納付・印紙納付・キャッシュレス納付のなかから選択するケースが一般的です。
相続登記の手続きが複雑になる場合や時間に余裕がない場合は、司法書士などの専門家に依頼するのもひとつの方法といえます。
司法書士に依頼する場合には、10万円前後の報酬を支払うケースが一般的です。
ただし、相続する不動産や相続人の数などによっては報酬が加算されることもあります。
そのため、報酬規程に関する説明を受けたり、見積書をとったりしたうえで、実際に依頼するかどうかを判断することが大切です。
相続登記の登録免許税を計算する際は、いくつかのポイントがあります。
3つのケースに分けて、計算ポイントをわかりやすく解説するので参考にしてみてください。
不動産が2筆以上あるケースでは、それぞれの固定資産税評価額を合計した額に0.4%の税率をかけてください。
たとえば、固定資産税評価額が1,111万1,111円の土地と222万2,222円の建物を相続登記する場合、計算手順は以下のようになります。
マンションなどの敷地権付区分建物を相続登記する場合は、まず敷地全体の固定資産税評価額に敷地割合をかけて、自身の持分に対する評価額を算出しなければなりません。
たとえば、以下のような条件でマンションの一室と敷地を相続するケースを考えてみましょう。
この場合、登録免許税は次のとおり算出します。
不動産が共有名義になっているケースでは、まず固定資産税評価額に持分割合を掛けて、自身の持分に応じた課税価額を算出しましょう。
たとえば、評価額が1,000万円、被相続人の持分が2分の1の土地を相続登記する場合は、1,000万円×1/2=500万円が課税価額です。
よって、500万円×0.4%=2万円の登録免許税を支払うことになります。
やり方次第では、相続登記にかかる費用を安く抑えることも可能です。
ここでは、費用を抑える3つのコツを解説するので、ぜひ実践してみてください。
相続登記にかかる費用を安く抑えたいのであれば、自分で手続きすることを検討してみてください。
司法書士などの専門家に依頼すると10万円前後の報酬を支払う必要がありますが、自分で手続きしてしまえば、書類の取得費用と登録免許税の支払い程度に支出を抑えられます。
手続きを進める中で不明な点が生じた場合は、法務局に相談したり、司法書士の無料相談を活用したりしてみるとよいでしょう。
提出する際も法務局の窓口に直接持参すれば、その場で軽微な誤りを指摘してもらえることがあります。
また、専門家を頼る場合でも、自力では対応できない部分のみを代行してもらい、少しでも報酬額を抑えることが大切です。
登録免許税の免税措置を利用することも、相続登記にかかる費用を抑えるためのコツといえるでしょう。
まず、土地の評価額が100万円以下であれば、免税措置が適用されます。
共有名義の土地を相続する場合でも、自身の持分が100万円以下なら登録免許税を支払う必要はありません。
また、土地を相続した人が相続登記をしないまま死亡した場合も免税措置が利用できます。
たとえば、父から土地を相続した母が相続登記前に亡くなり、父名義の土地を自身が相続することになったケースなどが挙げられるでしょう。
通常なら、母が負担すべきだった登録免許税も支払う必要がありますが、期間限定で免税措置を受けられます。
相続登記をしないまま死亡した場合の免税措置を希望する場合は、申請書に「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」と、評価額が100万円以下の免税措置を希望する場合は、申請書に「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」と記載するようにしてください。
なお、上記の免税措置は令和7年3月31日まで適用される予定です。
相続登記にかかる費用をできる限り抑えたいのであれば、無料相談会などを有効に活用することも大切です。
無料相談会は、法務局・司法書士会・土地家屋調査士会などが主体となって随時開催されています。
相続登記に関する豊富な知識と経験をもつ専門家に相談すれば、自力での手続きが可能かどうかのアドバイスを受けたり、免税措置の利用可否を判断してもらったりできるかもしれません。
気になる方は、最寄りの法務局や司法書士会などに無料相談会の開催予定を問い合わせてみてください。
相続登記は自分でおこなうこともできますが、費用を支払ってでも司法書士に依頼したほうがよいケースもあります。
ここでは、相続登記を司法書士に依頼すべきかどうかの判断基準を3つ解説するので、参考にしてみてください。
相続登記をおこなう十分な時間を確保できない場合は、司法書士に依頼すべきといえるでしょう。
2024年4月以降、相続登記の申請は義務化され、「相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内」に申請しなければならないことになります。
遺産分割協議をおこなう場合は、遺産分割協議が成立した日から3年以内が申請期限です。
正当な理由なく申請を怠れば、10万円以下の過料が科されることもあるため、時間的余裕がない場合は無理せず、司法書士に依頼するのが賢明な判断といえます。
司法書士への依頼を検討する際は、相続登記が必要な不動産の数も考慮しなければなりません。
相続する不動産の数が多ければ多いほど、手続きの負担は大きくなります。
場合によっては、必要書類を揃えるだけで、膨大な手間と時間がかかってしまうこともあるでしょう。
また、共有名義のマンションなど権利関係が複雑な不動産を相続する際も専門的な知識が求められやすいので、専門家に依頼することをおすすめします。
登記申請書の作成や補正などが負担に感じられる場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。
登記申請書の作成にあたっては書類を準備したり、必要事項を漏れなく記入したりと、法律に基づいて煩雑な手続きをこなしていかなければなりません。
また、提出すれば終わりというわけではなく、不備が見つかった場合は法務局からの指示に従って補正をおこなう必要があります。
事務作業が苦手な方や、平日の日中に何度も法務局を訪れる余裕がない方は、はじめから司法書士に一任しておくようにしましょう。
相続登記を円滑に進めるためには、事前に流れを理解しておくことが大切です。
ここでは、自分で相続登記をするときの大まかな流れを詳しく見ていきましょう。
まずは、相続登記の登録申請書や提出書類などを用意することから始めましょう。
相続登記に必要な書類は以下のとおりです。
|
遺産分割協議によって相続する場合 |
法定相続によって相続する場合 |
遺言書によって相続する場合 |
登記申請書 |
〇 |
〇 |
〇 |
不動産の固定資産評価証明書 |
〇 |
〇 |
〇 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 |
〇 |
〇 |
- ※被相続人の死亡時の戸籍のみ |
被相続人の住民票除票または戸籍の附票 |
〇 |
〇 |
〇 |
相続人全員の戸籍謄本 |
〇 |
〇 |
- |
相続人全員の印鑑証明書 |
〇 |
- |
- |
不動産取得者の戸籍謄本 |
- |
- |
〇 |
不動産取得者の住民票 |
〇 |
〇 |
〇 |
遺産分割協議書 |
〇 |
- |
- |
遺言書 |
- |
- |
〇 |
登記申請書は法務局のホームページ、戸籍関係書類や住民票は役所の窓口などで入手できます。
なお、不動産の取得者以外が登記申請をする場合は委任状、必要戸籍謄本一式の原本還付を希望する場合は相続関係説明図、登記完了後の書類を郵送で受け取りたい場合は切手を貼った返信用封筒もあわせて提出してください。
登記申請書や戸籍関係書類などの必要書類が準備できたら、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
主な提出方法は、法務局の窓口への持参または郵送です。
郵送で送付する場合は、封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と記載しておきましょう。
なお、相続登記をおこなう際は登録免許税の納付が必要です。
そのため、書類を提出する前に最寄りの郵便局などで収入印紙を購入し、申請書に貼付しておくようにしてください。
必要書類を提出したあとは、法務局で相続登記の審査や登記済がおこなわれます。
最終的に登記が完了するまでの期間は、1週間~10日程度を目安に考えておくとよいでしょう。
ただし、申請書に不備が見つかった場合は、差し戻しを受けてしまいます。
訂正した申請書は郵送での提出が認められず、直接窓口に持参しなければならないので注意してください。
法務局での登記が完了すると、登記完了証や登記識別情報通知書が交付されるので確実に受け取りましょう。
窓口で受け取る際は、登記申請書に押印した印鑑や身分証明書が必要です。
申請時に返信用封筒を同封していた場合は、郵送で送付されます。
最後に、相続登記などの費用に関するよくある質問を紹介します。
疑問を抱えたままにしていると、手続きがスムーズに進まなくなるおそれがあるので早めに解消しておきましょう。
相続登記の費用を誰が支払うのかは、法律で定められているものではないので、個々の事情にあわせて柔軟に判断するようにしてください。
とはいえ、実際には不動産の取得者が費用を負担するケースが一般的です。
複数人で不動産を取得する場合は、相続人同士で話し合い、負担割合などを決めていくことになるでしょう。
不動産の価値によっては相続登記の費用も高額になるので、誰がどの程度負担するのかは、遺産分割協議などの機会を利用してしっかりと相談しておくことが大切です。
相続によって不動産を取得した場合、不動産取得税は課されません。
不動産取得税は、購入・贈与・建築などによって不動産を取得した際に課税されるものです。
相続は形式的に所有権が移転するだけなので、不動産取得税の課税対象からは外れます。
不動産を相続する際は、相続人同士でトラブルが生じるケースも少なくありません。
特に相続登記は手間と時間がかかるうえ、費用負担も生じるため、誰が手続きするか、誰が費用を支払うのかで揉めてしまうこともあるでしょう。
そのため、不動産を相続する場合は、まず司法書士や弁護士に相談してみてください。
専門家に相談すれば、豊富な知識と経験に基づき、相続人全員が納得できる方法を提案してもらえるはずです。
場合によっては、相続登記を代行してもらうのもよいでしょう。
初回の相談には無料で対応しているケースも多いので、トラブルが起きる前にできるだけ早く相談してみることをおすすめします。
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