近年では金(ゴールド)の価値が高騰しており、資産運用の一環として金を購入する方が増えています。
亡くなった方が金を所有していた場合は、金も相続税の課税対象となります。
金について相続税の申告を怠ると、税務調査の際にその事実を指摘され、多額の追徴課税を受けるおそれがあるので十分ご注意ください。
本記事では、金の相続が税務署にバレないと考えるのは危険である理由や、金を相続する際の注意点などを解説します。
金を相続したことを隠していても、税務署にバレてしまう可能性は高いと考えられます。
もしバレると多額の追徴課税を受けるおそれがあるので、最初から正直に相続税の申告をしましょう。
金を相続したことが税務署にバレてしまう可能性が高いのは、主に以下の理由によります。
金は価値が高く、少量でも高額となります。
その上、現物で保管されている金は発見されにくいため、脱税目的で購入されるケースも多いようです。
税務署は、脱税に使われやすい金の購入履歴を絶えず調査しています。
そのため、金を購入した事実を隠そうとしても、税務署の調査によってその事実を突き止められてしまう可能性が高いです。
特に近年は金の価値が高騰しているため、税務調査を通じて課税対象の金を発見すれば、税務署は大きな徴収成果を挙げることができます。
従来にも増して、税務署に対して金を隠そうとすることはリスクの高い行為と考えるべきでしょう。
貴金属店から200万円を超える金地金や金貨などを購入する際には、貴金属店において「取引時確認」をおこなうことが義務付けられています(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条・別表、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令7条1項6号)。
取引時確認の目的は、犯罪による収益の移転を防止するために、高額のお金の流れを把握できるようにすることです。
本人特定事項の確認(=本人確認)や、取引をおこなう目的の確認などがなされます。
金の購入時における取引時確認の記録は、貴金属店において7年間保存することが義務付けられています(犯罪による収益の移転防止に関する法律6条2項)。
したがって、税務署が貴金属店に対して反面調査(=調査対象者の取引先などに対しておこなわれる調査)をすれば、200万円を超える金を購入した事実は容易に判明するでしょう。
貴金属店が200万円を超える金地金または金貨を国内において販売した際には、その代金の支払いが確定した日の属する月の翌月末日までに、税務署長へ支払調書を提出することが義務付けられています(所得税法225条1項14号、所得税法施行令350条の7)。
支払調書には、金地金または金貨の購入者の氏名・住所・電話番号・個人番号などが記載されます。
そのため、200万円を超える金地金または金貨を購入した事実は、税務調査の前の段階でも税務署は容易に把握できます。
税務署は、税金の申告・納付が正しくおこなわれているかどうかを調査するため、国民の預貯金の入出金履歴を確認することができます。
金を購入するために銀行口座から振り込みをしたり、金を売却した際に代金が銀行口座へ入金されたりした場合には、その履歴を税務署は確認できます。
金の売買が税務申告へ反映されていなければ、税務署は脱税の疑いを持ち、税務調査に乗り出す可能性が高いです。
税務署は、税務申告が正しくおこなわれていないという疑いを持った場合には、納税者に対して税務調査をおこないます。
税務調査は、「簡易な接触」か「実地調査」のいずれかの方法でおこなわれます。
簡易な接触の場合は、文書や電話などでの確認が求められるか、または税務署での面談を通じて質問を受けるだけです。
これに対して実地調査の場合は、納税者の自宅などへ税務調査官が訪問します。
高額の申告漏れが疑われる場合は、実地調査がおこなわれるケースが多いです。
実地調査では、納税者が保有する資料が徹底的に調べられるほか、自宅内の金庫などについても開けるように求められます。
税務調査官からのさまざまな質問を搔い潜り、金を隠し通すことは非常に難しいです。
高額資産である金を相続する際には、特に以下の各点に注意しましょう。
相続した金を売却した際に利益が生じたときは、その利益に対して所得税および住民税が課されます。
金の売却によって得た利益は、原則として譲渡所得に当たり、給与所得などのほかの所得と合算した上で総合課税がなされます。
毎年3月15日までにおこなう確定申告において、金の売却による譲渡所得を申告しなければなりません。
※金投資口座や金貯蓄口座などにおいて保有していた金を売却した場合は、一律20.315%(所得税および復興所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉分離課税となります。
源泉分離課税の場合は、源泉徴収だけで課税が終了するので、確定申告は不要です。
金の売却による譲渡所得の計算方法は、国税庁のウェブサイトをご参照ください。
金の取引相場は日々変動しています。
近年では金相場は上昇傾向にありますが、ずっとその傾向が続くとは限りません。
相続した金をそのまま保有していると、相場が崩れて価値が暴落してしまうおそれもあります。
できる限り適切なタイミングで売却できるように、情報収集を怠らないようにしましょう。
適切に相続税の申告・納付がなされなかった場合、税務署は納税者に修正申告を促します。
修正申告がなされない場合は「更正」または「決定」をおこない、正しい相続税の納付を義務付けることが可能です。
税務署が更正・決定をおこなうことができるのは、下表の期限が経過するまでです(所得税法70条)。
申告書が提出されている場合 |
申告期限の翌日から起算して3年 |
申告書が提出されていない場合 |
申告期限の翌日から起算して5年 |
偽りその他不正の行為により税額を免れ、または税額の還付を受けた場合 |
上記のかかわらず、申告期限の翌日から起算して7年 |
税務調査を受けることなく上記の期間が経過すれば、相続した金について、相続税の納税義務を免れることができます。
しかし税務署は、税務調査の必要性が高いと考えられる事案について、厳密にスケジュール管理をおこなっています。
そのため、期間の経過によって相続税の納税義務を免れることは難しいです。
時間が経ってから修正申告をおこなうと、延滞税の金額も高額になってしまいます。
金を相続したら、当初の段階で正しく相続税の申告をおこないましょう。
相続した金について、正しく相続性の申告をしないと、以下のペナルティを課されるおそれがあります。
期限内(=相続の発生を知った日の翌日から起算して10ヵ月以内)に相続税の申告をした場合において、修正申告または更正処分により税額が増えたときは、原則として過少申告加算税が課されます。
過少申告加算税の金額は、新たに納めることになった本税の10%に相当する額です。
ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のうちいずれか多い金額を超えている場合は、超過部分の税率が15%となります。
なお、過少申告をしたことについて正当な理由がある場合や、更正を予知しない(≒税務調査の連絡を受けない)段階で修正申告をした場合には、過少申告加算税は課されません。
期限経過後に相続税の申告をした場合や、相続税の申告をしていない状態で税額の決定処分を受けた場合には、原則として無申告加算税が課されます。
無申告加算税の金額は、納付すべき本税の15%に相当する額です。
ただし、50万円を超え300万円以下の部分の税率は20%、300万円を超える部分の税率は30%となります。
なお、申告をしなかったことについて正当な理由がある場合や、法定申告期限から1ヵ月以内に自主的な期限後申告および税額の納付がなされた場合には、無申告加算税は課されません。
また、更正や決定を予知しない(≒税務調査の連絡を受けない)段階で期限後申告をした場合には、無申告加算税の税率が5%に軽減されます。
偽りその他不正の行為により税額を免れた場合(≒脱税)には、過少申告加算税または無申告加算税に代えて重加算税が課されます。
重加算税の金額は、過少申告の場合は新たに納めることになった本税の35%に相当する額、無申告の場合は納付すべき本税の40%に相当する額です。
ただし、過去5年以内に無申告加算税(更正・決定予知によるものに限る)または重加算税を課されたことがあるときは、税率が10%加算されます。
相続税の納付が法定納期限(=相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月後)に遅れると、その翌日から完納する日までにわたって延滞税が発生します。
延滞税の額の計算式は、以下のとおりです。
※延滞税の割合は、1年ごとに改定されることがあります。
相続税の課税対象となるのは、金地金(インゴット・ゴールドバー・延べ棒)や金貨だけではありません。
そのほかにも、以下のような金が相続税の課税対象となります。
祭具は、日常礼拝の用に供しているものは相続税の課税対象となりませんが、商品・骨董品・投資の対象として所有するものは相続税の課税対象となります(相続税法12条1項2号、相続税法基本通達12-2)。
金製の高価な祭具は、投資の対象として所有しているものとみなされることが多く、税務調査で発見されると多額の追徴課税を受けるおそれがあるので注意が必要です。
金を含む相続財産等に対して課される相続税額の計算方法を紹介します。
相続税額を計算するに当たっては、課税対象となる各財産の相続税評価額を求める必要があります。
金の相続税評価額は相続発生時の時価です。
原則として、被相続人が亡くなった日における貴金属店の買取価格を基準に、グラム数を掛けて金の相続税評価額を求めます。
土曜・日曜・祝日には、金の価格公表がなされません。
被相続人が亡くなった日が土曜・日曜・祝日である場合は、その前後の最も近い日の価格の平均値を金の相続税評価額とします。
(例)
被相続人が日曜に亡くなった場合において、その直前の金曜における金価格が1グラム当たり1万2,500円、直後の月曜における金価格が1グラム当たり1万2,600円だった場合
→金の相続税評価額は、1グラム当たり1万2,550円
相続税は、個々の財産ではなく、相続財産等の総額に対して課されます。
したがって、金の相続税評価額を他の課税対象財産と合算した上で、各相続人に課される相続税の額を計算します。
各相続人の相続税額を計算する際のステップは以下の5段階です。
相続税の課税対象となる財産の相続税評価額を合算して、その総額を求めます。
相続税の課税対象となる主な財産は、以下のとおりです。
金も、以下のいずれかに該当する場合は相続税の課税対象となります。
①相続財産 |
②みなし相続財産 |
③相続開始前7年間に受けた生前贈与 |
④相続時精算課税が適用される贈与 |
なお、相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が設けられています。
上記の各財産の相続税評価額を合算した額から基礎控除額を引いた金額が、課税財産総額となります。
課税財産総額を、法定相続分に応じて各法定相続人に振り分けます。
(例)
課税財産総額が1億2,000万円で、法定相続人が配偶者Aと子B・Cの計3人である場合
法定相続分に応ずる取得金額は、
A:6,000万円
B:3,000万円
C:3,000万円
法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額に、下記の計算式および下表の税率および控除額を適用して、法定相続人ごとの税額を計算します。
法定相続人ごとの税額=法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
1,000万円超から3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
5,000万円超から1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円超から2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
2億円超から3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
3億円超から6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
(例)
法定相続分に応ずる取得金額がA:6,000万円、B:3,000万円、C:3,000万円の場合
法定相続人ごとの税額は、
A:1,100万円(=6,000万円×30%-700万円)
B:400万円(=3,000万円×15%-50万円)
C:400万円(=3,000万円×15%-50万円)
上記の方法で求めた法定相続人ごとの税額を合算して、相続税の総額を求めます。
(例)
法定相続人ごとの税額がA:1,100万円、B:400万円、C:400万円の場合
相続税の総額
=1,100万円+400万円+400万円
=1,900万円
相続税の総額を、実際に課税対象財産を取得する割合に応じて、相続人や受遺者に割り振ります。
(例)
相続税の総額が1,900万円で、実際に課税対象財産を取得する割合が以下のとおりである場合
A(配偶者):4分の1
B(子):2分の1
C(子):8分の1
D(孫):8分の1
各相続人の税額は、
A:475万円
B:950万円
C:237万5,000円
D:237万5,000円
最後に、以下の加算や控除を適用して、最終的な各相続人の相続税額を求めます。
被相続人の一親等の血族およびその代襲相続人、ならびに配偶者以外の人に対して課される相続税額は2割加算されます。
配偶者に対して課される相続税は、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで非課税となります。
相続発生時に未成年者(=18歳未満)であった人は、満18歳になるまでの年数1年につき10万円の税額控除を受けられます。
引ききれない場合は、扶養義務者が残額の税額控除を受けられます。
相続発生時に障害者であった人は、満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)の税額控除を受けられます。
引ききれない場合は、扶養義務者が残額の税額控除を受けられます。
相続税の課税対象財産について、すでに贈与税を納付している場合には、その額に相当する税額控除を受けられます。
相続開始前10年以内に、被相続人が相続や遺贈などによって財産を取得し、相続税の課税を受けていた場合は、一定額の相次相続控除を受けられます。
金を相続した事実を、税務署に対して隠し通すのは難しいです。
税務調査で隠していた金が発見されると多額の追徴課税を受けるおそれがあるので、当初から正しく相続税の申告をおこないましょう。
金の相続に関しては、遺産分割協議で揉めてしまうことがあるほか、相続税の申告方法も非常に複雑です。
そのため、弁護士や税理士のサポートを受けることをおすすめします。
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