本来、孫は法定相続人にはなれないものの、祖父母と養子縁組することで法律上の親子関係が生じ、孫も相続人になることができます。
養子縁組による相続税対策は相続税の基礎控除額が上がるなどのメリットがある一方で、相続人間でのトラブルに発展しやすいなど、注意しなければならないデメリットもあります。
そこで今回は、孫と養子縁組をする際のメリット・デメリットや、養子縁組以外の選択肢などについてわかりやすく解説します。
養子縁組について正しく理解したうえで、相続準備を進めていきましょう。
「孫に相続させたい」と希望する場合、孫と養子縁組をする方法が有効な選択肢として挙げられます。
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祖父母が孫と養子縁組をすれば、孫は養子として法定相続権を取得します。
その結果、「可愛い孫に財産を譲りたい」という祖父・祖母の希望は実現されるでしょう。
そして、孫と養子縁組をすることは、税制面などでも次のようなメリットがあります。
法定相続人が1人増えると、基礎控除額がその分減少するため、相続税の節税効果が期待できます。
相続税の基礎控除額は【3,000万円+600万円×法定相続人】と決められています。
つまり、法定相続人が多いほど、相続税の基礎控除額が増えます。
そこで、孫と養子縁組をおこなうことによって、相続税の計算上は法定相続人として実子と同じ扱いを受けることができます。
ただし、養子縁組の方法による相続税の基礎控除額の拡充には上限が設けられている点に注意が必要です。
相続人に支給されるべきだった退職手当金や功労金、被相続人の死亡によって取得した生命保険金・損害保険金で保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象と扱われます。
ただし、生命保険金や死亡退職金などの全額が相続税の課税対象になるわけではありません。
それぞれ、【500万円×法定相続人の人数】の非課税枠が設けられています。
どちらも法定相続人の数により金額が変動するため、孫との養子縁組によって法定相続人の数が増えることで、その分相続税が課税されずに、受け取れる財産の額を増やすことができます。
孫と養子縁組をすれば相続税の節税効果が期待できる一方で、次のようなデメリットがある点にも注意が必要です。
養子縁組が相続税対策として悪用されるのを防止するために、祖父母と養子縁組をした孫には、相続税が2割加算されます。
2割加算とは、相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人になった孫を含む)および配偶者以外の人である場合に、相続税額の2割に相当する金額が加算する制度のことです。
つまり、祖父母が孫と養子縁組をした結果、孫が法律上の子どもとして法定相続人にはなりますが、相続税を算出する際には実子よりも2割分割増された金額を課税されるということです。
なお、孫ではない人物が被相続人の養子になったケースは2割加算の対象には含まれません。
そのため、「孫に遺産を残したいから」という理由で養子縁組をしたとしても、孫自身の相続税負担は重くなると理解しておきましょう。
祖父母が孫と養子縁組をした場合は、相続人同士のトラブルが生じる可能性が高まります。
たとえば、孫が養子の立場で子どもとして相続分を取得すると、ほかの実子の相続分割合がその分減ってしまいます。
「孫が養子になったせいで、想像していた財産を承継できないのは困る」と考えると、遺産分割協議でなかなか合意形成に至らなかったり、相続放棄を迫られたりしかねません。
また、被相続人の子ども(孫から見た親)・配偶者がすでに死亡していたようなケースでは、孫と養子縁組をすることによって、被相続人の兄弟姉妹が相続権を失うこともあります。
養子縁組という被相続人の采配ひとつで子ども・孫世代に遺産相続トラブルを押し付けることを避けたいなら、養子縁組をする前に念のため家族などの意向を確認したり、ほかの相続人に配慮をした遺言書を作成することが大切です。
祖父母である被相続人が死亡した時点で養子に迎えた孫が未成年者の場合には、遺産相続手続きが複雑化する点にも注意が必要です。
なぜなら、未成年者は自分自身だけで遺産分割協議に関与したり、不動産登記や預貯金の払い戻しなどの相続にかかる手続きを進めることができないからです。
そのため、養子である被相続人の孫が未成年者の場合、未成年者のために法的手続きを代わりにおこなう特別代理人の選任手続きが必要になります。
未成年後見人を選任する手順は、おおむね以下のとおりです。
1~5の手続きが終了するまで約3ヵ月程度の期間を要するのが一般的ですが、申し立てをする家庭裁判所の混雑状況によっては、これ以上かかることもあります。
もし未成年後見人の選任が必要な場合には、相続手続きの期限を考慮しながら余裕をもって手続きを開始するようにしましょう。
ここまで解説してきたように、祖父母が孫に財産を渡す手段として、養子縁組は有効な選択肢のひとつになり得ます。
しかし、孫を養子縁組にするとほかの相続人との関係性が悪化したり、孫自身が相続税の面で不利益を被ったりしかねません。
ここでは、養子縁組以外の方法で孫に財産を譲る方法を紹介します。
孫のために財産を残したいという希望を、もっとも手軽に実現できる方法が遺言書です。
遺言書には被相続人の考えや希望をそのまま記載できます。
「孫の〇〇に預貯金〇〇万円を相続させる」「土地・建物の権利を孫の〇〇に相続させる」というように、具体的な相続内容・相続割合を承継させる旨を明示した遺言書を作成すれば、祖父・祖母の希望は叶えられるでしょう。
ただし、遺言書の内容はどのようなものであってもよいというわけではありません。
たとえば、「孫に全財産を相続させる」というような、遺言書は養子縁組をした孫以外の法定相続人の遺留分を侵害するものです。
被相続人がどれだけ可愛い孫のために高額の財産を遺したいと考えたとしても、被相続人の死亡後にほかの相続人が遺留分侵害額請求権を行使して相続問題が深刻化するリスクも考えられます。
そのため、遺言書で孫に遺産を残す場合には遺留分を考慮しつつ、相続人間でのトラブルが起こらないように生前のうちに家族へ話すようにしましょう。
生前贈与とは、被相続人が存命中に自分の財産を他者に無償で譲ることです。
存命中に被相続人の財産を第三者に移転するものなので、相続発生時の相続税課税対象額を減らすことができます。
相続は被相続人が死亡したタイミングで自動的に生じますが、生前贈与は贈与者・受贈者との間で財産を移転する時期を自由に選べるというメリットも得られます。
たとえば、孫がマイホームを購入するとき、結婚や進学でまとまった資金が必要なときなど、孫のために資金を用立てるタイミングに生前贈与をすれば、「可愛い孫にお金を譲りたい」という希望が叶えられるでしょう。
なお、年間110万円を超える生前贈与をすると、受贈者に贈与税の申告・納付義務が課される点には注意が必要です。
贈与税率は相続税率より高いため、もし生前贈与を検討するのであれば、以下の非課税制度をうまく活用しながら、事前に贈与税をシミュレーションしたうえでの節税対策が大切です。
生命保険金の受取人を孫にしておけば、ご自身が亡くなったタイミングで、孫が死亡保険金を受け取ることができます。
生命保険金を利用して孫に財産を譲る方法には、以下のメリットがあります。
ただし、生命保険金を利用して法定相続人ではない孫に財産を譲る場合には、非課税枠が適用されないため孫が重い税負担を強いられる可能性がある点に注意が必要です。
また、被保険者が被相続人、受取人が孫、契約者が被相続人・孫以外の人物のケースでは、孫に贈与税が課税されます。
相続税・贈与税ともに申告・納付手続きを徒過すると延滞税などのペナルティが課されるので、生命保険金の受取人を孫にする場合には、その旨を孫へ必ず伝えておくようにしてください。
最後に、孫と養子縁組をして遺産を相続させる際の注意事項について解説します。
孫との養子縁組には、相続税対策や事業承継、家系を途絶えさせないためなどさまざまな事由が考えられますが、相続税対策を目的とした養子縁組は、税務署に否認されるおそれがあります。
税務署が相続税対策のみを目的とした養子縁組であると判断した場合には、孫を法定相続人として含めずに相続税の申告や計算をする必要があります。
ただし、これはあくまでも税務署の判断によるものであり、相続税対策を目的とした養子縁組とみなされないための対処法はありません。
そのため、相続税対策による養子縁組を検討しているのであれば、必ずしも認められるわけではないことは押さえておいたほうがよいでしょう。
「養子の人数が増えるほど相続税の節税効果を期待できるなら、養子縁組をフル活用すれば相続税を常に0円にできるのではないか」と考える方もいるかもしれませんが、これは誤りです。
なぜなら、相続税の基礎控除額の算定根拠である「法定相続人の数」に含めることができる養子の数には以下のような制限があります。
これらの制限を超える養子を迎えたとしても、相続税の基礎控除額を増やすことはできません。
なお、この制限はあくまでも相続税を計算する際のルールでしかなく、民法上は養子縁組できる人数に上限はありません。
「可愛い孫に遺産を譲りたい」という動機で養子縁組をしても、実際に相続が発生したタイミングで養子である孫が、必ずしも単純相続をしてくれるとは限りません。
たとえば、相続財産の中に被相続人が生前抱えた借金やローンが含まれている場合、単純相続をすると相続人側が損をする可能性があります。
このようなケースでは、相続人が限定承認・相続放棄を選択する可能性が高いでしょう。
以上を踏まえると、相続財産の中に高額の負債が含まれるような事案では、養子縁組の方法でプラスの財産を養子に受け渡すのは適切ではないと考えられます。
生前贈与や生命保険金を活用して孫に対して直接的に財産を引き渡すか、存命中に債務整理などの対策に踏み出してマイナス財産をなくしておくべきでしょう。
養子は第1順位の法定相続人と扱われるという点からも、孫に財産を譲る手段として養子縁組をするのは有効な選択肢のひとつといえます。
また、養子縁組制度をうまく活用すれば、相続税対策にもなる点も魅力的でしょう。
その一方で、孫と養子縁組をすることは、他の相続人との軋轢を生んで遺産分割協議を難航させたり、孫の相続税負担を重くするなどのデメリットが生じる点には注意をしなければいけません。
孫に財産を譲る方法には、養子縁組のほかにも遺言書の作成や生前贈与など、さまざまな方法があります。
本記事で紹介したメリット・デメリットそれぞれを踏まえたうえで、養子縁組をすることにどれだけ相続税の節税効果があるかを、慎重に判断する必要があるでしょう。
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