親が亡くなるまでの間、介護をしていた方々にとって、ほかの兄弟よりも多く相続を受けられるのかどうか気になる方も多いでしょう。
本記事では、介護をしている場合に相続額がどのように影響されるのか、そして相続を多くもらう方法など、介護と相続の関係性について詳しく解説します。
親の死後、相続人となる子どもたちは親の財産を分け合います。
しかし、親の介護をしていた子どもは、ほかの子どもよりも多くの相続分を受け取ることができるのでしょうか?
実は、介護をしていたからといって、相続分が増えるということは原則ありません。
なぜなら、親の介護は親族間の扶養義務に該当するためです。
親族間には、互いに扶養する義務が法律で定められています。
この扶養義務には、生活費や医療費などの経済的な援助だけでなく、身体的・精神的な世話や看護も含まれます。
したがって、親の介護をすることは扶養義務の一環として当然おこなうべきことと考えられているため、介護をしたからといって相続分が増える特別な理由にはなりません。
ただし、介護をした子どもがほかの子どもよりも多くの相続分を受け取ることが例外的に認められる場合もあります。
それは、介護による「寄与分」と呼ばれる制度です。
この制度では、以下の要件を満たす場合に限り、介護をした子どもが相続分に加えて寄与分を受け取れます。
実際に、介護が特別の寄与として認められた事例も存在します。
ここでは、2つの事例を紹介します。
この事例は、被相続人の父親が亡くなったあと、長男と次男の間で遺産分割をめぐって争いになったものです。
父親は、自宅と土地を持っていましたが、その自宅には次男が住んでおり、父親の介護や家事をしていました。
長男は別居しており、父親との関係も良好ではありませんでした。
遺産分割では、長男と次男がそれぞれ半分ずつ相続することになりますが、次男は自分が父親の介護や家事をしていたことを理由に、寄与分として約1,182万円を請求したのです。
寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した場合に、その寄与の程度に応じて相続財産から支払われる金額のことを指します。
次男は20年以上にわたって父親と同居して扶養し、父親の認知症が悪化してから死亡するまでの10年間は常に父親に付添って療養看護をしていました。
裁判所は、次男が父親の介護や家事をしていたことは事実であると認め、このような療養看護は特別の寄与であると判断しました。
その際、もし父親が他人を付添婦として雇っていたら約1,971万円の費用がかかったと推定しましたが、次男が職業付添婦ではないことや、6年間ぐらいは父親の療養看護の傍ら、家族のための一般家事労働をする余裕もあったことを考慮し、上記金額の60%である約1,182万円を寄与分として認めることにしたのです。
このように、寄与分は一概に決められるものではなく、個々の事情によって変わります。
この事例は、被相続人の父親が亡くなったあと、長女と次男の間で遺産分割をめぐって争いになったものです。
遺産分割では、長女と次男がそれぞれ半分ずつ相続することになりますが、次男は自分が父親の介護や家事をしていたことを理由に、寄与分として約876万円を請求しました。
次男は平成元年から平成7年まで、父親の妻(次男の母親)が入院中に毎日病院に通ったり、父親の家事全般の世話をしたりしていたのです。
妻が死亡したあとは、次男の妻が昼食と夕食を作って父親に届けたり、日常的な世話をしたりしていました。
また、平成14年2月から父親に認知症の症状が出るようになったため、次男は父親の3度の食事を自宅でとらせたり、父親がほかの子を訪問するときは往復とも付き添ったりしていました。
このころから、父親は常時見守りが必要な状態となり、排便への対応も必要な状況だったため、裁判所は次男が父親の介護や家事をしていたことは事実であると認めたのです。
しかし、裁判所は平成14年以降の3年間について特別の寄与があったものと認めましたが、平成14年2月より以前の父親に対する日常生活上の世話は、親族間の扶養協力義務の範囲のものであるとして、特別の寄与を認めませんでした。
そして、次男の父親に対する身上監護については、親族による介護であることを考慮し、1日あたり8,000円程度と評価、その3年分(1年を365日として)として約876万円を寄与分として認めることにしたのです。
ここでは、親の介護をした相続人が遺産を多く受け取る方法について解説します。
親の介護をした相続人が遺産を多く受け取る方法として、被相続人に遺言書を書いてもらうことが挙げられます。
遺言書では、親の意思で介護をした相続人に遺産の割合や金額を指定できます。
公正証書で作成できれば、有効性が高くなるでしょう。
このように、遺言書は親の介護をした相続人にとって有利な方法です。
親の介護をした相続人は、法律上「寄与分」という制度で遺産を多くもらえる可能性があります。
しかし、寄与分を認めてもらうには、介護の内容や期間、費用などを客観的に証明する必要があります。
また、寄与分の主張は相続人間で争いになりやすく、裁判や調停になることもあります。
そこで、ほかの相続人に寄与分を認めてもらうことがあります。
これは、相続人間で話し合って、介護をした相続人に遺産の一部を譲ることです。
この場合、遺言書や公正証書などの書面で合意内容を明確にしなければなりません。
このように、ほかの相続人に寄与分を認めてもらうことは、親の介護をした相続人にとって有利な方法です。
ここでは、遺産分割協議で介護の寄与分を求める方法や手順を解説します。
寄与分に関する証拠としては、以下のようなものがあります。
【介護の寄与分を主張するのに有効な証拠】
寄与分に関する証拠は、遺産分割協議でほかの相続人に提示し、寄与分の金額や割合を主張します。
遺産分割協議で折り合いがつかない場合は、裁判所による調停や審判で寄与分を求められるでしょう。
その場合も、寄与分に関する証拠が重要です。
寄与分を計算するには、次のステップが必要です。
ステップごとに、詳細をそれぞれ解説します。
寄与行為は、大きく分けて以下の3つの類型に分類されます。
この中から、どの類型に合致するかを判断します。
続いて、類型の価値を評価します。
寄与行為の価値は、「寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情」を考慮して裁判所が裁量で決めます。
明確な基準はありませんが、一般的には以下のような方法で評価されます。
寄与者と非寄与者の相続分は、以下の式で計算します。
ただし、この計算方法はあくまで目安であり、実際には個別の事情や裁判所の判断によって異なる場合があります。
寄与分を主張する際は、具体的にどのような介護をおこなったかを示すことが重要です。
介護の種類(身体介助、日常生活援助、医療介護など)、期間、頻度、時間などの具体的な実績を詳細に記録しましょう。
証拠として、医療機関からの診断書や介護に立ち会った証人の証言などを提出することで、主張の信憑性が高まります。
遺産分割協議で協議が不成立になった場合、裁判手続きに移行する必要があります。
その際以下の手順を踏む必要があります。
裁判手続きは、協議よりも複雑で難解なので、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
寄与分の請求手続きを弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
それぞれのメリットを解説しましょう。
弁護士は専門的な知識を持っているため、次のような観点から寄与分を請求できるかどうか判断してもらえます。
弁護士は法律の専門家であり、相続法や民事法に関する深い知識を有しています。
寄与分の請求には法的な要件や条件があり、介護による寄与分を請求できるかどうかは、個別の状況によって異なります。
弁護士に依頼することで、専門的な観点から依頼者のケースを適切に判断し、寄与分を請求できる可能性を明確にしてもらえるでしょう。
弁護士は依頼者の個別の状況を詳細に分析し、証拠や介護の実績などの要素を考慮して寄与分請求の可能性を検討します。
また、寄与分請求以外にも適用可能な法的手段や補償を提案する場合もあります。
弁護士の専門的なアプローチにより、最適な戦略が立てられ、成功への道が開けるでしょう。
寄与分の請求には、介護の実績やその他の要件を証明するための適切な証拠が必要です。
弁護士は適切な証拠の収集と整理をサポートし、必要な情報を正確に文書化します。
これにより、寄与分の請求が強力な根拠を持って進められ、確実性が高まります。
寄与分の請求は家族や相続人との間で対立や紛争を引き起こすことがあります。
弁護士は感情的な要素を排除し、客観的な立場から交渉を代行します。
相手方と円滑な交渉ができれば、寄与分の請求が迅速に解決する可能性が高まるでしょう。
弁護士に寄与分の請求手続きを依頼することで、専門的なアドバイスと戦略に基づいた証拠の整理と収集がサポートされます。
適切な証拠と法的文書の提出により、寄与分の請求が成功する可能性が高まるでしょう。
また、感情に左右されない交渉力をもつ弁護士の存在は、対立の解決や円滑な請求プロセスの促進にもつながります。
遺産分割協議は、寄与分の請求手続きにおいて重要な段階であり、家族や相続人との間で感情的な対立や紛争が生じることがあります。
このような状況で、自分一人で対応するのは非常に難しいことがありますが、弁護士に依頼することで専門家が代理として対応してくれます。
弁護士は遺産分割協議に関する経験と専門知識を持っており、感情的な要素を排除して公正な解決策を提案するでしょう。
家族や相続人との交渉においても冷静かつ客観的に対応し、相手方との対話を円滑に進められるため、感情的な葛藤やトラブルを最小限に抑え、遺産分割協議がスムーズに進行することが期待できます。
弁護士が交渉の代理をおこない、法的な文書の作成や提出を代行してくれるため、より効果的に寄与分の請求に集中できます。
寄与分の請求は専門的な法的知識が必要な重要な手続きであり、寄与分に特化した弁護士が望ましいと考えられます。
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これにより、寄与分の請求に精通した弁護士を簡単に見つけられます。
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特別寄与料制度とは、2019年7月から適用された新しい相続法のひとつで、亡くなった方の介護などに尽くした親族が、相続人に対してその労務の対価として金銭を請求できる制度です。
この制度は、義理の親の介護をした嫁や婿など、相続権のない親族にも適用されます。
特別寄与料を請求するためには、介護などの寄与があったこと、その寄与が相続財産の維持や増加につながったこと、相続人との間に公平性が欠けることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
特別寄与料の額は裁判所が個別に判断しますが、寄与した期間や内容、相続財産の額や分割方法などを考慮して決められるのが一般的です。
特別寄与料制度は、義理の親の介護をした方にも相続の権利を認める画期的な制度ですが、導入されてまだ日が浅い制度のため、実際に請求する場合は専門家に相談する必要があるでしょう。
第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
介護は、相続人が亡くなった方に対しておこなった労務の一種とみなされます。
そのため、相続分の決定や分割の際に、介護をした相続人に対し、寄与分として相続財産の一部を多く受け取ることができるかもしれません。
ただし、寄与分を主張するためには、介護の内容や期間、相続財産の額や分割方法などを証明する必要があります。
また、ほかの相続人との合意や裁判所の判断にも左右されます。
介護で寄与分が認められるかどうかは、ケースバイケースですが、介護をしたことで相続財産の維持や増加に貢献したり、ほかの相続人と比べて不公平な結果にならないようにするためにも、寄与分を検討することは有効な手段といえるでしょう。
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