財産を贈与した事実は当事者しか知らないため、「黙っていれば税務署にばれない」と考えてしまうケースが少なくありません。
しかし、一方では以下のような疑問や不安もあるのではないでしょうか。
贈与税の無申告は法律違反になってしまうため、税務署にばれると追徴課税のペナルティが科されます。
最悪の場合は刑事罰に問われるので、一定額を超える財産をもらったときは、必ず贈与税の申告・納税を済ませておきましょう。
ここでは、贈与が税務署にばれるケースや、贈与税の節税方法をわかりやすく解説していきます。
国税庁が公表する令和3年の実地調査によると、贈与税の無申告は調査件数全体の83.1%になっており、対前年比は約126%です。
贈与税は自己申告になるため、「黙っていれば誰にもバレない」と考えてしまいがちですが、調査結果をみると、無申告はほぼ確実にばれています。
また、税務署にばれた贈与財産のうち、約70%は現金や預貯金なので、現金手渡しであっても税務署の目はごまかせません。
現金や預貯金贈与は特別な手続きが必要なく、簡単に移転できてしまうため、税務署のチェックも特に厳しくなっています。
なお、いくら贈与すると申告が必要になるのかわからない方は、以下を参考にしてください。
贈与者から受け取った現金・預貯金などが110万円を超えると、贈与税申告と納税が必要です。
贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、1月1日から12月31日までに基礎控除を超える贈与を受けたときは、110万円を超えた部分の課税価格に贈与税がかかります。
税額の計算方法は「課税価格×税率-控除額」になっており、400万円の贈与であれば、贈与税は以下のようになります。
税率は一般贈与税率と特例贈与税率の2種類があるので、国税庁ホームページの「贈与税の速算表」を参照してください。
また、贈与税が発生したときは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に申告・納税が必要です。
税務署は高額な財産の購入や移転、譲渡などの情報を把握しており、納税者情報も専用システムで管理しているため、無申告の贈与も高確率でばれます。
具体的には以下のようなケースが該当するので、基礎控除110万円を超えていたときは、必ず申告・納税をおこなってください。
高額なブランド品や宝石類を一括払いで購入した場合、本人の収入と見合わない購入価格だったときは、資金の出どころが疑われます。
購入資金の提供者がいれば、現金を移転させた事実を確認するため、双方の預金口座が税務調査の対象になるでしょう。
税務署は名義人の承諾がなくても金融機関へ照会できるので、「税務調査のお尋ね」の通知や電話連絡があったときは、すでに過去の口座情報を押さえています。
また、ほとんどの金融機関は過去10年分の取引履歴をデータ保存しているため、贈与税の無申告から数年経っている場合でも、税務調査の対象になる可能性があるでしょう。
金やプラチナなどの貴金属を売却した場合、1回分の買取価格が消費税込みで200万円を超えていたときは、買取業者から税務署に支払調書が提出されます。
支払調書だけで税務調査がおこなわれるわけではありませんが、売却した人の所得と貴金属類の価格が見合わない場合、現物の贈与や購入資金の贈与を疑われるでしょう。
高額な保険金や解約返戻金を受け取ったときも、保険会社が税務署へ支払調書を提出します。
生命保険の場合は以下のようなケースで支払調書が提出されるため、贈与の事実は確実にばれてしまいます。
死亡保険金は相続税の課税対象になる「みなし相続財産」ですが、被保険者・保険料負担者・保険金の受取人がそれぞれ異なっていたときは、受取人に贈与税が課税されます。
不動産を登記したときや、登記申請時に登録免許税を支払ったときは、法務局から税務署へ登記情報が通知されます。
贈与で不動産を取得した場合、情報がすべて税務署に伝わっているので、無申告は確実にばれるでしょう。
また、無申告のまま数ヵ月や1年が経ち、「ばれていない」と思い込むケースもありますが、税務調査が後回しになっているだけかもしれません。
現金と異なり不動産は隠しようがないため、すぐに税務調査をおこなわなくても、無申告の事実を確実に押さえることができます。
不動産にかかる贈与税は高額になるケースがほとんどなので、すぐに申告・納税しなかったときは、後述する追徴課税も高額になるでしょう。
金融機関で海外送金をおこなった場合、1回の送金額が100万円を超えるときは、金融機関から税務署へ国外送金等調書が提出されます。
国外送金等調書には贈与者と受贈者の住所氏名が記載されるので、贈与の事実はすべて税務署が把握しています。
海外にいる人が国内財産を受け取った場合でも、基礎控除を超えたときは必ず贈与税がかかるので注意してください。
なお、子どもの生活資金や留学費の送金であれば、贈与税の課税対象にはなりません。
ネットオークションでは高額な出品や落札があるため、税務署のチェックがかなり厳しくなっています。
高額なブランドウォッチなどの出品であれば、現物または購入資金の贈与を疑われ、落札者も資金の出どころを疑われてしまうでしょう。
贈与税の無申告が疑われる場合、税務署はオークションの運営会社に照会できるので、匿名で参加してもばれてしまいます。
贈与の無申告は相続の発生でばれるケースもあります。
相続財産が一定額を超えたときは相続税申告をおこないますが、被相続人の生活水準からみて相続税が低かった場合、税務署は生前贈与の無申告を疑います。
贈与が銀行振込であれば、金融機関への照会で簡単にばれてしまうでしょう。
また、現金贈与であっても、もともとは預金口座から引き出しているため、過去の入出金履歴から贈与がばれます。
被相続人の口座から出金があり、その直後に相続人が高級外車などを購入していれば、自ら無申告をアピールしている状況になります。
現金や預貯金、不動産などを直接渡していなくても、間接的に贈与となっている場合があるので注意が必要です。
以下のようなケースは贈与とみなされ、税務調査の対象になる可能性があります。
不動産の名義を親から子どもに変更した場合、子どもが対価を支払っていなければ、不動産の評価額分が贈与とみなされ、贈与税の課税対象になります。
子どもが所有権を登記すると法務局から税務署に通知されるので、贈与税を納めていなかったときは確実にばれるでしょう。
また、親の家の増改築やリフォーム費用を子どもが負担し、親が子どもに対価を支払っていなかった場合、子どもから親への贈与とみなされます。
親が子どもの借金を肩代わりしたり、子どもの税金を代わりに支払ったりすると、親から子どもへの贈与とみなされます。
子どもは実質的に金銭をもらった状態になるため、基礎控除を超えていたときは申告・納税が必要です。
親子または夫婦で不動産を購入したときも、みなし贈与が発生する場合があるので注意してください。
たとえば、親と子が2,000万円ずつ出資して4,000万円の不動産を購入した場合、一般的には共有持分の割合を2分の1ずつに設定します。
しかし、親の持分割合を4分の1、子どもを4分の3にすると、子どもは持分割合4分の1を無償で受け取ったことになり、贈与とみなされてしまいます。
不動産を共同購入するときは、出資額と持分割合のバランスに注意してください。
不動産の譲渡に贈与税はかかりませんが、一般的な市場価格よりも著しく低い金額で譲渡したときは、市場価格との差額分が贈与とみなされます。
市場価格が5,000万円程度、譲渡価格が2,000万円であれば、差額の3,000万円が課税対象になるため、贈与税の申告・納税が必要です。
低額かどうかの線引きは明確にされていませんが、評価額の8割以上で譲渡していれば、みなし贈与には該当しないものとされています。
ただし、あくまでも税務署の判断になるため、場合によっては贈与とみなされる可能性もあるでしょう。
家族間で不動産を譲渡する場合、譲渡価格の設定に迷ったときは弁護士に相談してください。
贈与税の無申告が税務署にばれた場合、ペナルティとして以下のように追徴課税されます。
追徴課税は贈与税の本税に加算されるうえに、悪質な場合は刑事罰も科されるので注意してください。
贈与税の申告期限は翌年の3月15日になっており、期限までに申告しなかったときは翌日の3月16日から延滞税が発生します。
令和5年12月31日までの延滞税割合は以下のようになっているので、遅くとも2ヵ月以内には期限後申告を済ませてください。
延滞税割合は年ごとに変更されますが、税務署から納付書が送付されるので、自分で税額を計算する必要はありません。
贈与税の申告期限日までに申告しなかったときは、以下の税率で無申告加算税が発生します。
過去5年以内に無申告加算税や重加算税が課されており、税務調査の指摘によって無申告がばれたときは、50万円以下の税率が25%、50万円超の部分が30%になります。
重加算税はもっとも重いペナルティになっており、贈与税を免れる目的で意図的に申告しなかった場合、または過少申告したときに以下の税率で課税されます。
なお、申告期限が2017年以降の贈与について、過去5年間に無申告加算税や重加算税が課されていると、過少申告の重加算税は税率45%、無申告の場合は税率50%が適用されます。
贈与税の無申告や過少申告は脱税行為になるため、悪質性が高い場合は刑事罰が科される可能性があります。
故意の脱税でなければ1年以下の懲役または50万円以下の罰金、意図した脱税の場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金刑に処されます。
たとえうっかりでも前科が付いてしまうので、「贈与税の無申告は必ずばれる」と認識しておきましょう。
贈与税には時効が適用されるので、一定期間ばれなければ納税を免れます。
原則的な時効は以下のようになっていますが、場合によっては延長される可能性があるので注意してください。
贈与税の時効は申告期限日が起算点となり、原則6年で時効が完成します。
ただし、財産を隠して税務署の目をごまかすなど、悪質な脱税行為だったときは7年に延長されます。
追徴課税も高額になってしまうので、少しでも早く申告・納税を済ませておきましょう。
贈与税の基礎控除や特例措置を活用すると、税負担の軽い贈与が可能になり、場合によっては非課税になるケースもあります。
生活費や教育費は扶養義務の範囲になるため、贈与税は課税されません。
ただし、贈与された財産を貯蓄や投資に回す、またはギャンブルや車の購入費に充てるなど、生活費や教育費以外に使った場合は贈与税がかかります。
子どもや孫に仕送りするときは、扶養の義務範囲であることを伝えておきましょう。
暦年贈与とは、1年間で受けた贈与額を合計し、以下の基礎控除を超えたときに申告・納税する贈与方式です。
高額な贈与には向いていませんが、時間をかけると1,000万円以上の財産でも非課税贈与できるので、節税効果は大きいでしょう。
ただし、毎年同じに日に同じ金額を贈与すると、定期贈与にみなされる場合があるので注意してください。
最初からまとまった財産を渡すつもりがあり、贈与税を回避するために分割したとみなされると、贈与した財産の全額が課税対象になります。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母が18歳以上の子どもや孫に贈与するとき、2,500万円の特別控除を適用できる制度です。
特別控除は分割して利用できるので、1回の贈与で使い切る必要がなく、2,500万円を超えた部分は一律20%の贈与税率が適用されます。
ただし、相続時精算課税制度によって贈与した場合、贈与額はすべて相続財産に加算するため、非課税贈与した部分も将来的には相続税の課税対象になります。
相続税対策としての効果は期待できませんが、贈与税の節税効果は大きいので、子どもや孫へ高額な生前贈与をしたいときに活用できるでしょう。
なお、令和5年の税制改正により、2024年1月1日以降は相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が新設されます。
暦年贈与との併用できませんが、新設される基礎控除は特別控除2,500万円と別枠になっているので、今後は相続時精算課税制度が主流になる可能性もあるでしょう。
子どもや孫、配偶者に贈与する場合、教育資金やマイホーム資金、住居の確保などが目的であれば、以下の特例贈与を活用できます。
教育資金や結婚・子育て資金の特例贈与を活用するときは、専用口座を開設して贈与者が入金し、領収書と引き換えに子どもや孫が教育資金などを引き出すことになります。
専用口座の開設に対応していない金融機関もあるので、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
贈与税は申告納税方式になっており、納税通知書が届かないため、「ばれていないだろう」と思われがちです。
しかし、税務署には預金口座などの調査権限があり、本人の承諾がなくても過去の入出金を調べているケースがあります。
贈与税の無申告はペナルティが厳しいので、贈与にあたるかどうかの判断に迷ったときは、できるだけ早めに弁護士へ相談してください。
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