相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
相続と聞くと「手続きが複雑で税金も高そう…」というイメージから「何か楽に済ませる抜け道はないか」「税金を払わずに済む裏ワザはないか」と考えてしまう方もいるでしょう。
残念ながら、法律や税金のルールを無視して得をするような、魔法の抜け道や抜け穴は存在しません。
本記事では、法律の範囲内で賢く負担を軽減するテクニックと、絶対に手を出してはいけない間違った抜け道がもたらすリスクについて、一つひとつ丁寧に解説していきます。
結論からいうと、相続手続きや相続税の申告において、違法な抜け道や抜け穴は存在しません。
「抜け道」や「抜け穴」という表現がされますが、それらの行為は法制度をかいくぐった違法な行為であるケースがほとんどです。
また、日本の相続に関する法制度や税制は、長い年月をかけて非常に細かく、そして網羅的に作られています。
そのため、安易な考えでルールを破ろうとしても、かえって大きな不利益を被ることになるでしょう。
ただし、抜け道という言葉を手続きの負担や税金の支払いを、「合法的な範囲で賢く軽減するための知識や方法」と捉え直すことはできます。
危険な抜け道を探すのではなく、正しい知識を身につけて、安全かつ賢明に相続を乗り越えるための知識を身につけましょう。
相続における最も典型的で危険な抜け道の発想は、一部の遺産を隠すこと(遺産隠し)です。
しかし、これは抜け道ではなく、単なる違法行為にほかなりません。
軽い気持ちで始めた嘘が、次々と深刻な事態を引き起こす可能性があります。
ここでは、相続手続きの際に抜け道を利用するリスクについて詳しく見ていきましょう。
相続手続きや相続税の申告において、遺産隠しが発覚すると遺産分割協議のやり直しが必要となります。
遺産分割協議とは、誰がどの財産をどれだけ受け継ぐのかを、相続人全員で話し合って決める手続きです。
しかし、一部の相続人が財産を隠したまま遺産分割協議がおこなわれた場合、その合意は「嘘の情報」に基づいたものになります。
そのため、あとから隠し財産が見つかると、ほかの相続人は「騙されていた」として遺産分割協議の無効や取り消しを主張できます。
結果として、せっかくまとまった話し合いが全て白紙に戻り、ゼロから協議をやり直さなければならなくなります。
これは家族間の信頼関係を完全に破壊する行為であり、精神的にも金銭的にも大きな負担を強いられることになるでしょう。
遺産を隠すことは、税務署に対しても財産を隠すことであり、これは「脱税」という重大な犯罪行為です。
税務署は、KSK(国税総合管理)システムという巨大なデータベースで亡くなった方の資産状況を把握しており、遺産隠しは高い確率で発覚します。
脱税が発覚すると、本来納めるべきだった相続税に加えて、ペナルティとして「附帯税」と呼ばれる以下のような税金が課されます。
|
ペナルティの種類 |
どのような場合に課されるか |
税率の目安 |
|
延滞税 |
納税が期限に遅れた場合 |
年2.4%~8.7%(変動あり) |
|
過少申告加算税 |
申告した税額が本来より少なかった場合 |
10%~15% |
|
無申告加算税 |
期限内に申告しなかった場合 |
15%~30% |
|
重加算税 |
意図的に財産を隠した場合 |
35%~40% |
※上記の税率は一般的な目安であり、申告のタイミングや過去の加算税の有無などにより変動します。具体的な税率は、その年の国税庁の公表内容等をご確認ください。
遺産隠しによる脱税は、お金を追徴されるだけで済まない場合があります。
特に悪質だと判断されたケースでは、刑事事件として扱われ、厳しい罰則が科される可能性がある点に注意しましょう。
具体的に科せられる可能性がある罰則は、以下のとおりです。
これら以外にも年金受給の停止手続きをせず不正自給をすると、詐欺罪に問われることもあります。
さらに、遺言書を偽造するなどして遺産を隠した場合、相続人としての権利を全て失う相続欠格になる可能性もあるでしょう。
相続手続きや相続税申告において、抜け道はありません。
一方で法律で認められた方法、つまり合法的なテクニックは存在します。
これらのテクニックを知っているだけで、相続の負担を大きく軽減できる可能性があります。
ここでは、それぞれのテクニカルについて、詳しく見ていきましょう。
最も効果的な相続対策の多くは、亡くなる前、つまり「生前」から始めることができます。
1つ目は、毎年少しずつ財産を贈与していく暦年贈与です。
贈与税には年間110万円までの非課税枠があり、この範囲内であれば贈与税はかかりません。
例えば、子どもに毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、合計1,100万円の財産を非課税で渡すことができます。
これにより、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽くすることが可能です。
なお、このような暦年贈与については、2024年以降の贈与から、相続のときに「生前贈与を相続財産に持ち戻す期間」が最長7年まで段階的に延長される制度改正が行われています。
具体的な加算対象期間は、被相続人が亡くなった時期によって異なるため、実際に対策を行う際には税理士など専門家に確認することが重要です。
次に、生命保険の非課税枠を利用する方法です。
死亡保険金は相続税の対象になりますが、「500万円×法定相続人の数」で算出される金額までは特別な非課税枠が設けられています。
例えば、相続人が配偶者と子ども2人(合計3人)の場合、非課税枠は「500万円×3人=1,500万円」です。
この金額までは死亡保険金に相続税がかからないため、上手く活用することで節税につながります。
遺産分割を決めるにあたって、相続人全員が一つの場所に集まって話し合うのが難しいケースは少なくありません。
しかし、遺産分割協議は必ずしも全員が顔を合わせる必要はありません。
全員が顔を合わせずおこなう方法として、以下の2つがあります。
これらの方法を活用すれば、一見面倒に見える遺産分割協議も合法的にスムーズに進められるでしょう。
遺産の分け方を工夫することで、納める相続税の総額が大きく変わることがあります。
例えば、配偶者が相続する財産には「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のどちらか多い金額までは相続税がかからないという特別措置が設けられています。
仮に父親が亡くなった際、節税目的で母が全ての財産を相続すると、一次相続(父親の相続)においては相続税を大幅に節税できますが、二次相続(母親の相続)では子どもたちの税負担が非常に重くなる可能性があります。
そのため、二次相続のことも見据えたバランスのよい遺産分割をすること重要です。
また、亡くなった方が住んでいた330平方メートルまでの自宅の土地は、評価額を最大で80%も減額できる小規模宅地等の特例という制度があります。
例えば、5,000万円の土地なら、評価額1,000万円として相続税を計算できるため、税額が劇的に下がることがあります。
この特例は、配偶者や同居していた親族などが自宅を相続する場合に適用できます。
誰が自宅を相続するかで税額が大きく変わるため、非常に重要なポイントです。
このように、遺産の分割方法によっては、同じ遺産総額であっても相続税を節税できる可能性があります。
遺産分割協議では、不動産の分割方法について話がまとまらないケースも少なくありません。
しかし、不動産の遺産分割の話し合いが長引いている場合でも、不動産の名義変更(相続登記)を先におこなう方法があります。
それは、法定相続分で一旦登記をする方法です。
この方法では、法律で定められた相続割合に応じて相続人全員の共有名義として登記することで、相続人全員の同意のもとで不動産を売却することも可能になります。
最終的に協議がまとまったら、その内容で登記をやり直す必要がありますが、暫定的な措置として有効なテクニックです。
相続した実家が古く、取り壊すことが決まっている場合、建物についての相続登記を省略できます。
具体的には、建物を解体したあと相続登記をせずに建物がなくなったことを届け出る「建物滅失登記」を申請できます。
この手続きは相続人のうち1人から申請可能で、相続登記にかかる登録免許税も節約可能です。
ただし、建物の取り壊しには相続人全員の同意が必要で、土地については別途、相続登記が必要なことを忘れないでください。
ここまで、相続に関するさまざまテクニックを紹介しましたが、それでも「複雑で難しそう」と感じた方も多いかもしれません。
そんなときに頼りになるのが、弁護士、税理士、司法書士といった専門家です。
ここでは、相続手続きや相続税申告について専門家に相談するメリットを紹介します。
相続が発生すると、戸籍謄本集めや役所・銀行・法務局での申請など、さまざまな場所で手続きが必要です。
専門家に依頼すれば、こうした煩雑な手続きのほとんどを代行してもらえます。
時間と手間を大幅に節約できるだけでなく、慣れない手続きから生じる精神的なストレスからも解放されるでしょう。
相続手続きや税金の申告は、専門的な知識が求められます。
書類の書き方に不備があれば法的な効力が認められなかったり、特例の適用条件を間違えれば、数百万円単位で税額が変わってしまったりすることもあるのです。
その点、専門家は法律や税制のルールに則って、正確かつ確実に手続きを進めてくれます。
自分たちでは気づかなかった財産を見つけ出し、後々の申告漏れなどのトラブルを防いでくれることもあります。
専門家への依頼は、単なる「代行」ではなく、家族の利益を最大化するための「投資」と考えることができます。
その理由は、以下のとおりです。
どの専門家に相談すればよいかわからない場合でも、まずは信頼できる専門家を一人見つけることで、ほかの専門家と連携して問題を解決へと導いてもらえるでしょう。
ただし、費用が安いからといって行政書士や司法書士に依頼してしまうと、相続人間のトラブルになった場合に対処してもらうことができません。
そのため、相続人間のトラブルが発生しそうな場合には、全面的なサポートを得られる弁護士に相談しましょう。
本記事では、相続における抜け道の危険性と、代わりに知っておくべき合法的なテクニックを解説してきました。
結論として、遺産隠しのような安易な抜け道は、百害あって一利なしです。
最終的には家族関係の崩壊や重いペナルティという形で、何倍もの代償を支払うことになります。
本当に相続の負担を軽くする最善の方法は、抜け道を探すことではありません。
それは、生前のうちから計画的に対策を始め、法律で認められた有利な制度を正しく理解し、活用することです。
そして、少しでも不安があれば、専門家の力を借りることを検討しましょう。
正しい知識を身につけ、専門家と協力することが、家族にとって最も安全で確実な近道です。
本記事の内容は一般的な解説であり、個別案件についての法的・税務的アドバイスではありません。具体的な案件については専門家にご相談ください。
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