相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
ほかの相続人が遺産分割協議書への実印押印を拒んでおり、遺産分割協議が進まないことに不安を感じていませんか?
相続人が実印を押してくれない場合、相続が進められず相続財産を受け取れなかったり、活用できなかったりといったリスクがあります。
また、権利関係が複雑になることによって問題が長期化する可能性や、期限内に相続放棄・相続税申告ができなくなるおそれがあるため、早期に対処する必要があるでしょう。
そこで本記事では、実印を押さない相続人がいる場合のリスクや対処法をわかりやすく解説します。
最後まで読めば、相続手続きの停滞を回避し、安全に遺産分割を進める方法がわかるはずです。
遺産分割協議の際、一部の相続人が協議書への押印を拒むことがあります。
このような場合、以下のリスクが発生する可能性があります。
それぞれのリスクについて、詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議書への押印が揃わないと、法務局や金融機関で正式な書類として取り扱ってもらえません。
たとえ協議の内容に合意している場合でも、押印がなければ協議が成立していないとみなされるためです。
そのため、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しができず、相続財産を得ることができません。
また、注意したいのは亡くなった人の預貯金を5年もしくは10年以上そのままにしておくと、休眠口座として扱われる可能性があることです。
休眠口座とは、預貯金の入出金などの取引が10年以上おこなわれていない口座のことです。
金融機関から預金保険機構に移されて最終的に公益活動の資金として使われます。
さらに、金融機関によっては、休眠中に手数料がかかる場合もあります。
なお、休眠口座になっても払い戻し手続き自体は可能です。
ただし、払い戻しには遺産分割協議書を求められるのが一般的であるため、全員の印鑑が揃った遺産分割協議書が提示できない場合、払い戻しは難しいでしょう。
金融機関が時効を主張するケースは少ないものの、通常5年で預金債権自体が消滅時効にかかるため、早期に印鑑を集めて協議を成立させることが重要です。
一部の相続人が遺産分割協議書に押印してくれないと、相続財産が活用できません。
例えば、不動産を売却する場合、不動産の名義をいったん相続人に変更してから買主への所有権移転登記をおこないますが、不動産を法定相続分以外の持ち分で登記する場合、相続人全員の署名+実印押印済みの遺産分割協議書とそれぞれの印鑑証明書が必要です。
そのため、実印を押さない相続人がいる場合はそもそも相続登記がおこなえず、当然売却もできないのです。
なお、遺言書がある場合や、法定相続分どおりに相続登記を申請するときは、遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議が成立しないまま時間が経てば、権利関係が複雑化して相続問題が長期化する可能性があります。
例えば、一部の相続人が押印を渋っている間に、すでに押印した相続人が亡くなったとします。
この場合、その協議は成立しておらず、亡くなった相続人の権利はその相続人へと引き継がれるため、亡くなった相続人の相続人を新たに協議に加えなければなりません。
そして、新たに加わった相続人が同意してくれればまだよいですが、納得してくれなければさらに問題が増えてしまいまうでしょう。
このようなトラブルを防ぐためには、早めに全員の押印を揃えて協議を成立させることが大切です。
どうしても押印してくれない相続人がいるときは早めに弁護士に相談し、代わりに交渉してもらうことを検討しましょう。
一部の相続人が実印を押してくれず手続きが止まっているうちに、相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまう可能性があります。
相続放棄の手続きには、自分のための相続が開始したことを知ったときから3ヵ月という期限があり、それを過ぎると相続放棄ができなくなります。
相続放棄は各相続人がそれぞれの意思で選択でき、相続放棄をしたあとは相続人ではなくなるため、相続放棄をするつもりならそもそも遺産分割協議に参加する必要はありません。
しかし、周囲がもめているうちに期限が過ぎてしまう可能性もあります。
相続放棄ができなくなると、プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐ「単純承認」を選択したことになり、被相続人に多額の借金がある場合は借金を背負わなければならなくなります。
相続放棄は手続きできる期間が短いため、相続放棄の意思があるなら協議とは関係なく早めに全ての相続財産を把握し、期限内に手続きをおこないましょう。
相続人全員の実印が揃わないまま時間が経つと、相続税の申告期限に間に合わなくなるおそれがあります。
相続税の申告・納付には、相続発生から10ヵ月以内という期限が設けられており、期限内に申告・納付できないと、無申告加算税や延滞税が課される場合があります。
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無申告加算税 |
期限までに申告しなかった場合に、その税額や申告のタイミングに応じて5〜30%の追加税が課される。 |
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延滞税 |
期限の翌日から完済まで、日数に応じて課される税金。 |
そのほか、相続税を軽減できる以下の特例が利用できなくなります。
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配偶者の税額の軽減 |
配偶者が取得した相続財産について、「1億6,000万円」または「法定相続分」まで相続税がかからない特例。 |
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小規模宅地等の特例 |
住居または事業用として利用していた宅地の評価額が、最大80%減額される特例。 |
申告・納付期限までに遺産分割協議が完了しそうにないときは、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくのがおすすめです。
申告期限後3年以内の分割見込み書とは、期限までに遺産分割協議がまとまらない場合に、今後3年以内に分割できる見込みがあることを税務署に届け出るための書類です。
この書類を税務署に提出しておけば、遺産分割協議が成立した際、期限後でも配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例といった税優遇を受けられます。
特例の詳細については、国税庁のホームページを確認してください。
遺産分割協議書に実印を押してくれない相続人がいる場合は、以下の方法で対処してみてください。
それぞれの対処法について、詳しく見ていきましょう。
実印を押してくれない相続人がいる場合、まずは相続人同士で再度しっかり話し合いましょう。
押印を拒む人の多くは、以下のような不満を抱えています。
内容への不満だけでなく、家族間の確執や一方的に話を進められる不満、印鑑を押す不安などが理由になることも珍しくありません。
感情的にならないよう、押印を拒む人の気持ちを根気よく聞きましょう。
それでも相手の気持ちが動かないなら、法定相続分に従って分けるのもひとつの方法です。
法定相続分とは、民法第900条で定められた相続人ごとの取り分のことです。
法定相続分通りの相続であれば不公平感を感じにくく、相続人全員が納得して遺産を分けやすくなります。
なお、法定相続分で分けるなら、遺産分割協議書を作成しなくても構いません。
ただし、金融機関では金融機関所定の相続手続依頼書を求められることがあり、相続手続依頼書に実印の押印が必要になるのが一般的です。
依頼書への押印も難しければ、専門家に相談するしかないでしょう。
金融機関ごとに求められる書類は異なるため、必要書類については各金融機関に確認することをおすすめします。
遺産の分割方法については、以下の記事を参考にしてください。
次に、相続財産の全容がわかる資料を共有しましょう。
押印を拒んでいる相続人は、相続財産を把握できていないだけかもしれません。
また、「本当に遺産はこれだけなのか」と不信感を抱いているケースもあるでしょう。
相続財産の内容がわかる資料には、例えば以下のものがあります。
上記のような書類を集め、漏れなく共有できるようにしましょう。
なお、預貯金の通帳や取引履歴は、過去5年を目安に用意しておくのが望ましいです。
生前の大きな資金移動や不審なお金の流れがないかが一目でわかり、押印を拒んでいる相続人の不信感を解消しやすくなります。
当事者で解決できなければ、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法もあります。
遺産分割調停とは、調停委員を介して話し合う手続きです。
当事者が顔を合わせずに済むため、当事者だけで協議するよりも落ち着いた話し合いができる可能性があります。
ただし、調停を申し立てても相手が納得しなかったり、押印したくない気持ちが変わらなかったりする場合は、調停でも解決できません。
その場合は自動的に遺産分割審判に移行します。
あらためて審判を申し立てる必要はなく、調停の記録や提出した資料はそのまま審判手続きに引き継がれ、裁判官が内容を審理・判断します。
なお、調停は自分でも申立てが可能です。
自分で申し立てる際は、以下の書類を準備して裁判所で手続きおこないましょう。
書類の収集が困難なときや相手との対立が激しいときは、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
話し合いで解決できそうにないときは、弁護士への相談・依頼を検討しましょう。
相続問題を得意としている弁護士に依頼すれば、状況に応じた解決策を提案してもらえます。
また、弁護士に交渉を代わってもらうことで調停や審判に発展する前に解決しやすくなるでしょう。
特に、直接の交渉が難しい場合や複雑なケースでは、弁護士のアドバイスや代理交渉が大きな支えになるはずです。
ほかにも、弁護士は調停の際に同行したり、審判の手続きを代理したりといったことが可能です。
調停は原則として本人が出席する必要がありますが、調停委員とのやりとりや主張、資料の提出など、全面的にサポートしてくれます。
さらに審判では、弁護士が代理人として本人に代わって裁判所での主張・対応をおこなえるため、本人の出頭を求められない限り裁判所に出頭することなく手続きを完了できます。
相談するだけでも状況の整理や今後の見通しがつきやすくなるため、迷ったときは早めの相談がおすすめです。
実印を押してくれないからといって、以下の行為はおこなわないよう注意しましょう。
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
遺産分割協議書を実際と異なる内容で作成したり、他人の実印を無断で使用したりする行為は法律違反です。
例えば、相続人の署名や押印を偽造した場合、有印私文書偽造罪(刑法第159条第1項)に該当し、3ヵ月以上5年以下の拘禁刑という重い刑罰が科される可能性があります。
さらに、偽造した協議書で相続登記を申請すると公正証書等原本不実記載罪(刑法第157条第1項)、預金口座の名義変更をおこない預金を引き出すと、詐欺罪(刑法第246条第1項)にも問われるおそれがあります。
公正証書等原本不実記載罪は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、詐欺罪は10年以下の拘禁刑と、いずれも重い刑罰が定められているため、絶対におこなわないようにしましょう。
実印を押してくれないからといって、脅迫したり嫌がらせをしたりすることは絶対にやめましょう。
例えば、「押印しないと遺産を一切渡さない」「生活できないようにしてやる」などと脅して押印させようとすると、脅迫罪(刑法第222条)や強要罪(刑法第223条)に問われる可能性があります。
また、無理に押印させた相続人から遺産分割協議無効確認訴訟を提起され、協議が無効になることも考えられます。
早く遺産分割協議を成立させたい、実印を押してもらいたいという気持ちはあるでしょう。
しかし、強引な手段に出てしまうと取り返しのつかないことになるおそれがあるため、慎重な判断を心がけ、手に負えないと感じたら弁護士を頼るようにしましょう。
ここからは、遺産分割協議書の押印についてよくある質問を紹介します。
似たような疑問をお持ちの方は、ここで解消しておきましょう。
遺産分割協議書への押印が認印であっても協議内容が事実なら法律上は有効です。
しかし、相続登記の申請や金融機関での預貯金の払い出しなど、多くの手続きで実印+印鑑証明書を求められます。
認印で押印すると、あとから実印で押し直さなければならなくなったり、本人が同意したと証明できずトラブルに発展したりするおそれがあります。
例外的に、相続登記や金融機関での手続きが不要なケースでは認印の押印でも問題にならないことがありますが、将来的なトラブルを予防するためにも、はじめから実印で押印しておくのが望ましいでしょう。
印鑑証明書の添付は必ずしも必要ではありませんが、以下の手続きをおこなう際は相続人全員の印鑑証明書を求められます。
印鑑証明書を求められる理由は、遺産分割協議書の内容が本当に相続人全員の意思に基づくものであり、本人が署名・押印したことを証明するためです。
ただし、上記の手続きをおこなう場合でも、例外的に印鑑証明書が不要になることがあります。
例えば、法定相続分通りに相続登記する場合や、家庭裁判所が交付する調停調書・審判書を提出するときは、印鑑証明書は必要ありません。
また、相続人が海外に居住しているケースなら署名証明書、刑務所収監者であれば指印と刑務所長の証明で代用できる場合があります。
手続きごとに取り扱いが異なるため、手続きの際は事前に確認するようにしてください。
印鑑証明書をほかの相続人に渡したくなければ、手続きを弁護士や司法書士に依頼しましょう。
依頼した専門家に直接渡せば、不正利用やトラブルを防ぎやすくなります。
そのほか、ほかの相続人に委ねるのではなく、自分が代表になる方法もあります。
負担は増えますが、自分自身で手続きを進めることでトラブルのリスクを減らせるでしょう。
印鑑証明書を求められたときは、どのような手続きに使用するのか、何のために必要なのかを明確にし、納得できた場合にのみ提出することが大切です。
何の説明もなく印鑑証明書と実印を要求してきたときは気軽に応じず、専門家に相談するようにしましょう。
実印を押さない相続人がいる場合のリスクや対処法について解説しました。
実印を押さない相続人がいると、相続を進められず相続財産を受け取れなかったり活用できなかったりといったリスクがあります。
また、手続きが滞っている間に現在の相続人が亡くなって世代交代する可能性や、期限内に相続放棄や相続税申告ができなくなるおそれがあるため、早期に対処する必要があります。
相続人同士でしっかり話し合い、説明不足が原因であれば相続財産の全容がわかる資料を共有するようにしましょう。
当事者だけで解決できなければ調停の申立てや、弁護士への相談・依頼を検討してください。
くれぐれも、焦って遺産分割協議書を偽造・捏造したり、実印を押さない相続人を脅迫したりといったことはしないようにしましょう。
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