被相続人が死亡して遺産相続が発生しても、裁判所や市役所などの公的機関からの連絡はありません。
しかし、遺産相続の発生後は遺産分割協議をしたり、不動産や金融機関の名義変更手続きなどをするなど、原則として相続人全員が手続きに関与しなければいけません。
そのため、遺産相続が発生した場合、自ら被相続人が死亡した事実に触れることはなくても、ほかの相続人から連絡が来ることが通常です。
ただし、ほかの相続人と疎遠な状況では、被相続人が死亡してすぐに連絡がない場合や、連絡がくるまでに相当の時間を要する場合があります。
相続手続きには期限が設けられているものも少なくないので、遺産相続の連絡がないまま放置すると、連絡をもらえなかった相続人自身にデメリットが生じかねません。
そこで本記事では、遺産相続の連絡がない状況を放置するデメリットや連絡なしの状態に追い込まれたときの対処法を解説します。
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まずは、遺産相続の連絡が誰から来るのかについて解説します。
遺産相続の連絡は、被相続人の配偶者や子どもなどの相続人や近親者などから来ることが多くあります。
たとえば、病院や自宅で被相続人が亡くなった場合、故人を看取った家族などが相続人に対して葬儀等の連絡をしてくれるのが通常でしょう。
離婚や養子縁組などが原因で被相続人との関係性が希薄になっているケースでは、被相続人が死亡してもすぐに配偶者や子どもなどから連絡がこないということも少なくありません。
このようなケースでは、相続手続きを進める中心役である代表相続人(相続人代表者)から、後日電話や手紙などで遺産相続について連絡がくることが一般的です。
なお、代表相続人の選出方法について特別な決まりはありません。
そのため、被相続人の配偶者や長男長女、相続人から依頼を受けた弁護士が、相続人代表者として連絡をしてくる可能性もあります。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を担う人物のことで、相続財産の管理をはじめとした遺言の執行に必要な行為を全て遂行する権利と義務があります(民法第1007条第1項)。
遺言執行者には、その職務を執行する際、相続人に対する通知義務が課されています(民法第1007条第2項)。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
被相続人が死亡して葬儀の日程を知らせる際や、相続手続きを開始するタイミングで、遺言執行者をはじめ親族などから遺産相続についての連絡があるのが一般的です。
それでは、遺産相続の連絡がない状態だと、連絡をもらえなかった相続人にはどのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか。
ここでは、遺産相続の連絡なし状態を放置することで起こりうる5つのデメリットを紹介します。
遺産相続の連絡がない状態だと、そもそも遺産分割に関する話し合いなどに関与することは不可能です。
しかし、遺産分割協議や各種法的手続きは、相続人全員の同意がなければ進めることができません。
そのため、遺産相続の連絡なし状態の相続人が存在すると、遺産を分割する手続きが一切進まず、どの相続人も相続財産を取得できないままになってしまいます。
たとえば、被相続人名義の不動産は被相続人のもののままなので、有効活用して収益化することができないまま、固定資産税などの維持管理コストが発生し続けます。
また、民放909条の2の預貯金債権の行使以外では、被相続人名義の預貯金口座からお金を引き出すこともできません。
相続には、単純承認・限定承認・相続放棄の3種類があり、相続人はいずれかを選択することになります。
単純承認 | 相続人が、被相続人の土地の所有権等の権利や借金等の義務を全て受け継ぐ相続方法 |
---|---|
限定承認 | 被相続人の債務がどの程度あるか不明で、場合によっては財産が残る可能性があるようなケースなどで、相続人が相続によって取得したプラスの財産の限度で、被相続人の債務の負担を承継する相続方法 |
相続放棄 | プラスの財産もマイナスの財産も全て承継を拒否すること |
相続財産の中に預貯金や不動産などのプラスの資産を大幅に超過する多額の借金が含まれている場合、単純承認をしてしまうと、相続人は相続をきっかけに借金の返済義務を負担しなければいけなくなります。
そのため、遺産相続にマイナスの財産が含まれる場合には、相続放棄もしくは限定承認を選択する必要があります。
ただし、限定承認および相続放棄については、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内(熟慮期間)」という期限が設けられている点に注意が必要です(民法第915条第1項)。
この期間内に各種手続きを怠った場合は、単純承認したものとみなされます(民法第921条第2号)。
相続や遺贈によって取得した財産、および相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産が、相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納付手続きを履践しなければいけません。
ただし、相続税の申告・納付手続きは、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に済ませる必要があります。
この期間内に相続税関係の手続きを終えなければ、高額な相続税に加えて、ペナルティとして延滞税・無申告加算税などが課されます。
また、相続税制度には、「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」「配偶者の税額の軽減(配偶者控除)」などの各種税制優遇措置が用意されていますが、これらの特例制度の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに遺産分割手続きが終了していなければいけないなどの期限が設けられている点に注意が必要です。
遺産相続の連絡なしの状態が長期化して相続税の申告・納付手続きまでに遺産分割協議などが終わらなければ、特例制度の適用を受けることができなくなる可能性があります。
被相続人が死亡すると、被相続人名義の預貯金などは、遺産分割手続きが終了するまでは使えなくなるのがルールです。
しかし、遺族や被相続人の近親者の中に悪意をもった人物がいると、法定相続人などに遺産相続の旨を連絡する前に、被相続人名義の財産を勝手に処分されるリスクが生じかねません。
たとえば、被相続人名義のクレジットカードを勝手に使用したり、ATMを操作して預貯金を引き出したりされると、知らない間に相続財産が費消されてしまうでしょう。
また、勝手に不動産の登記変更手続きをされると、土地・建物が第三者に売却されかねません。
なお、相続財産の使い込みが発覚すれば、あとから損害賠償請求・不当利得返還請求などの法的措置を採ることは可能です。
しかし、使い込みをした人物から金銭を回収するには相当の労力・時間を要しますし、使い込みをした人物に十分な資力がなければ強制執行さえも無意味になりかねません。
このようなリスクを考慮すると、遺産相続の連絡なしの状態が続いたときには、できるだけ早いタイミングで相続状況を把握するための措置に踏み出すべきだと考えられます。
遺産相続の連絡なしの状態が続くと、相続をめぐるさまざまな手続きの期間制限にかかるリスクが生じます。
ただし、相続放棄、限定承認、相続税の申告・納付期限、準確定申告などの相続関係手続の起算点は「相続開始を知った日」が基準とされるので、遺産相続の連絡が一切ない状態で被相続人が死亡した事実さえ知ることができなかったのなら、各種手続きに制限がかかることはありません。
しかし、遺留分侵害額請求権についてだけは注意が必要です。
なぜなら、遺留分侵害額請求権には以下2種類の消滅時効期間が定められているからです(民法第1048条)。
つまり、遺産相続の連絡なしの状態が10年以上続くと、本来相続人として確実に承継できたはずの遺留分が侵害されたとしても、もはや遺留分侵害額請求権の行使によって遺留分を回復することができなくなってしまうということです。
遺産分割協議や金融機関における諸手続きを進めるために、どこかのタイミングで遺産相続の連絡が来ることがほとんどではあるものの、相続人間の関係性や状況によっては、遺産相続の連絡が遅れてしまうことも考えられます。
ここでは、遺産相続の連絡がなくて心配なときにとるべき対応について、タイミング別に解説します。
親族と長年のあいだ疎遠になっているなど、相続が発生したかどうかがわからない場合、以下の方法で確認することができます。
被相続人が死亡すると、戸籍謄本に死亡日が記載されます。
被相続人の本籍地がわかっているなら、本籍地の市区町村役場を訪問するか、郵送によって戸籍謄本を取得してください。
なお、被相続人の本籍地が不明な場合には、本籍地の記載がある住民票の除票を請求すれば、被相続人の本籍地がわかります。
このとき、「戸籍の筆頭者、世帯主、続柄」も住民票の除票に記載するように申し出る必要があります。
これらの情報は、のちに戸籍の取得申請などをする際に必要となります。
なお、住民票や戸籍謄本の入手方法については、各自治体のホームページなどで確認してください。
もし自身で調べるのが難しい場合には、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄をしたようなケースの場合、相続人が相続放棄をしたことで、ほかの相続人への連絡を失念してしまうケースも少なくありません。
このような事態が考えられるのであれば、裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を申請することで相続人の誰かが相続放棄などをしていないかどうかを教えてもらえます。
もし相続放棄をした相続人がいたのであれば、それは相続が発生しているということになります。
また、本来であれば相続人でなく、相続順位がご自身より上の相続人が相続放棄をしていれば、のちにご自身へ順番がまわってくる可能性もあります。
被相続人が死亡した事実を把握したのにもかかわらず、代表相続人をはじめとした相続人から遺産相続に関して連絡のない状態が続いているなら、自分からほかの相続人に連絡をするようにしてください。
たとえば、ほかの相続人とけんかをして連絡をしにくい状態だとしても、遺産相続に関する手続きを放置したままだと損をするのはあなた自身です。
電話番号や住所がわかっているのなら、相続手続きについて速やかに確認しましょう。
もし連絡先がわからないときには、住民票や戸籍謄本から調査する方法も検討するべきでしょう。
被相続人の戸籍から調査対象の相続人の最新の戸籍をたどり、そこに記載されている本籍地で戸籍の附票などを取得すれば連絡先を確認できます。
最後に、万が一遺産相続の連絡なしの状態で勝手に分割手続きを進められてしまったときの対処法を紹介します。
なお、相続人全員の同意がない状態で遺産分割協議が進められるような状況は、相続人間で何かしらのトラブルの存在や、関係性が良好ではないなどの問題を抱えていることが多くあります。
ご自身が他の相続人にコンタクトを取ろうとすると交渉が難航する危険性が高いので、可能な限り相続トラブルに強い弁護士に相談・依頼をして、今後の手続きの進め方などについて事前にアドバイスを求めることをおすすめします。
遺産分割協議は相続人全員の合意があればやり直しが可能です。
ですから、遺産相続の連絡なしで勝手に遺産の分割方法を決定されてしまったときには、ほかの相続人と交渉をして、遺産分割再協議について打診をしてください。
そもそも、相続人全員の同意がない遺産分割協議は無効です。
もし、ご自身を抜いた状態で遺産分割協議が進められ、その遺産分割協議書をもとに遺産分割や相続手続きをしたとしても、あとから無効を訴えれば、遺産分割協議のやり直しや、ご自身の遺産取得分を請求することができます。
ほかの相続人が遺産分割協議のやり直しに同意をしてくれた場合には、話し合いから排除されていた相続人を含む全員で相続財産の分割方法などについて再度協議をすることになります。
しかし、悪意をもってほかの相続人を話し合いから排除していた事案や、遺産の使い込みの発覚をおそれて相続人全員への連絡を拒んでいたような事案では、遺産分割再協議が円滑に進まない可能性が高いと考えられます。
そこで、遺産分割再協議が順調に進まないときには、相手方住所地の家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てることを検討しましょう。
遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員が相続人全員の意見を聴取したり証拠書類などを確認したりしながら、当事者の合意形成をサポートしてくれます。
なお、遺産分割調停手続きで合意形成に至らなかったとしても、その後、自動的に遺産分割審判手続きに移行するので、遺産分割についての最終判断を獲得することは可能です。
遺産分割再協議をどこまで粘り強く継続するか、遺産分割調停を申し立てるべきか、遺産分割調停でどのような主張をするべきかなど、当事者だけでは判断しにくい点が少なくありません。
遺産分割再協議が円滑に進まない気配を少しでも察知した段階で、遺産相続問題に強い弁護士に相談をすれば、幅広い選択肢から今後の対応方法を検討できるでしょう。
一部の相続人の同意を欠いた遺産分割協議は無効ですが、悪意をもって一部相続人に連絡をしなかったような事案では、遺産分割再協議を求めても応じてくれない可能性も少なくありません。
そこで、遺産分割再協議を拒否された事案や、一部相続人を排除した遺産分割協議に基づいてすでに遺産が分割されたり第三者に財産が移転してしまったような事案では、遺産分割協議無効確認訴訟を提起することになります。
遺産分割協議無効確認訴訟手続きを有利に進めるには、口頭弁論期日において説得力のある証拠書類を提出したり、証人尋問に丁寧に対応したりしなければなりません。
また、すでに遺産が分割されて相続権が侵害されたようなケースでは、遺産分割協議無効確認訴訟と合わせて相続回復請求権を行使するなどのテクニカルな判断も不可欠です。
そのため、遺産相続の連絡がなく、かつ遺産分割協議無効確認訴訟を提起せざるを得ないような状況なら、最初から弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
「誰からも連絡はないけれども、すでに被相続人が死亡しているのではないか疑問を感じている」「遺産相続が発生したはずなのに、誰からも連絡がなくて不信感を抱いている」といった状況であれば、念のために弁護士へ相談するのがおすすめです。
遺産相続を扱う弁護士は、個別の事案の状況を丁寧に分析したうえで、遺産相続が発生したか否かを確認してくれたり、勝手に進められた遺産分割手続きへの対処法を検討してくれたりするでしょう。
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