遺産相続に関する権利・手続きのなかには、時効が設けられているものがあります。
時効がある権利とは何か、それぞれの権利の時効はいつ成立するのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、相続に関する時効の種類、各権利の時効などを解説します。
これから相続手続きをする方や、相続に関する時効を知りたい方はぜひ参考にしてください。
まずは、相続における時効・期限が具体的に何を指すのかを解説します。
消滅時効とは、一定期間権利が行使されないと、その権利が消滅する制度のことです。
たとえば、「遺留分侵害額請求権は侵害されたことを知った日から1年間、もしくは相続開始から10年間」などが消滅時効に該当します。
取得時効とは、財産を所有している状態が一定期間続いた場合、その財産の所有権を取得できる制度です。
具体的には、他人の土地を自分の土地だと勘違いしたまま長期間住み続けた場合、その土地の所有権を取得できることなどが挙げられます。
期限とは、あらかじめ決められた手続きの期限のことです。
「相続放棄は相続開始から3ヵ月後」「相続税の申告は相続開始の翌日から10ヵ月後」などが期限に該当します。
期限を過ぎた場合の扱いは、手続きによって異なります。
ここからは、相続に関する消滅時効の具体例を紹介します。
遺留分侵害額請求権とは、一定の相続人が最低限相続できる「遺留分」を侵害されたときに、遺産を多く受け取った方に対し遺留分相当額を支払うよう請求する権利のことです。
遺留分を侵害されたことを知った日から1年間、もしくは相続開始から10年間行使できます。
相続回復請求権は、相続人でない人が相続財産を占有している場合に、本来相続権を有する真正相続人が相続財産を返すよう請求する権利です。
相続権を侵害されていると知ってから5年間、もしくは相続開始から20年間行使できます。
時効を過ぎると消滅しますが、ほかの相続人が故意に相続開始を伝えなかった場合、時効は適用されません。
ほかの相続人から錯誤・詐欺・脅迫などを受けていた場合、遺産分割協議の内容を取り消すことができます。
遺産分割協議とは、遺産の分割方法を相続人全員で話し合うことです。
時効は、錯誤・詐欺・脅迫を受けたと気づいたときから5年間、もしくは遺産分割が行われてから20年間です。
遺産分割協議の取消権を行使する場合は、相続人全員に対して取り消したい旨を内容証明郵便などによって伝える必要があります。
債権とは、債権者が貸したお金を受け取る権利のことです。
被相続人が債権を持っていた場合、相続人が債権を相続します。
しかし、相続人が債権を行使できることを知った日から5年間、または10年間権利を行使しなかった場合は債権を回収できません。
また、ほかの相続人が被相続人の預貯金を私的に使い込んだ場合も、権利を行使できると知ってから5年以内、または10年以内であれば預貯金の返還を求められます。
この権利を「不当利得返還請求権」といい、民法上の債権にあたります。
相続税の還付請求権は、相続税を払い過ぎた場合にその差額の返還を求める権利で、
還付請求できるときから5年間行使できます。
相続税の還付請求権を行使するときは、相続税を納付した税務署で「更正の請求」という手続きをおこないます。
被相続人の代わりに相続人が確定申告をすることを「準確定申告」といいます。
準確定申告の内容に不備があり納税額が少なかった場合でも、申告期限の翌日から3〜5年たっていれば時効が成立していることがあります。
ただし、故意に過少申告をしたり嘘をついたりしていた場合は、時効が7年に延長されます。
相続財産が基礎控除額を超える場合、相続税を納めなければなりません。
通常、相続税の申告期限は相続開始の翌日から10ヵ月以内です。
しかし、なかには相続税を納付してから、新たな財産が見つかることもあるでしょう。
その場合、申告期限の翌日から5年たっていれば、時効が成立している可能性があります。
遺産を故意に隠していたなどの悪質な場合は、時効が7年になることもあります。
被相続人が生きている間に贈与を受けた場合、贈与税がかかることがあります。
贈与税がかかることを知らなかった場合や、贈与税を申告していなかった場合、申告期限から6年たっていれば時効が成立している可能性があります。
贈与されたことを故意に隠していたなどの悪質な場合には、時効が7年まで延長されます。
相続における取得時効は、占有開始、つまり住み始めてから20年間です。
自身にまったくの落ち度がなく、他人の土地・建物を自分のものだと勘違いしていたなどの「善意無過失」の場合は10年間に短縮されます。
ただし、長期間住み続けていれば必ず所有権を獲得できるわけではありません。
取得時効が成立するには、以下の要件を満たす必要があります。
相続に関する手続きの期限の具体例を4つ紹介します。
相続放棄や限定承認の申し立ては、相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内におこなう必要があります。
相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないことです。
限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することを指します。
なお、期限が成立するまでの3ヵ月間のことを「熟慮期間」といいます。
熟慮期間を過ぎると、相続放棄や限定承認ができなくなるため、注意が必要です。
準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内です。
期限までに申告しなかった場合、延滞税や無申告加算税がかかるため注意しましょう。
相続税の申告・納税期間は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内です。
10ヵ月以内に申告・納税をしなければならないため、忘れないよう注意しましょう。
期限に間に合わなかった場合、延滞税がかかることがあります。
相続登記の期限は、不動産取得を知った日または相続が開始した日から3年以内です。
2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、不動産を相続する人は期限内に必ず手続きをする必要があります。
相続登記をしなくても相続自体はできますが、10万円以下の過料が科されます。
また、第三者に権利を主張できないため、不動産の売買や担保の提供ができません。
相続に関する権利のなかには、時効が設けられていないものもあります。
ここでは、相続権と遺産分割請求権の2つを紹介します。
被相続人の遺産を相続する権利には時効がありません。
相続人であれば、相続開始から何年たっても遺産を相続することが可能です。
ただし、相続権があるのに相続開始を知らされなかった場合、相続回復請求権の時効が適用されることがあります。
遺産分割請求権は、ほかの相続人に対して遺産分割について協議することを求める権利です。
被相続人の財産は、遺産分割が終わるまでは相続人全員の共同財産となります。
いつまでに遺産分割をしなければならないといった決まりはないので、相続人全員のタイミングが合うときに遺産分割をすれば問題ありません。
ただし、遺産分割しないままだと、相続関係が複雑になりトラブルに発展するおそれがあります。
また、遺産分割しないと進められない手続きもあるため、時効がないとはいえ早めに遺産分割したほうがよいでしょう。
以下の権利は、時効の完成猶予や更新が可能です。
ここでは、時効の完成猶予・更新をする方法を紹介します。
時効の完成猶予とは、時効の完成を一時的に停止する手続きのことです。
2020年3月31日までの相続については「停止」の手続き、2020年4月1日以降の相続は完成猶予の手続きをとります。
時効の完成を停止・猶予できる場合については、以下をご覧ください。
【時効を停止できる場合】
【時効完成を猶予できる場合】
時効の更新とは、時効をゼロからカウントし直す手続きのことです。
2020年3月31日までの相続については「中断」の手続き、2020年4月1日以降の相続は更新の手続きをおこないます。
以下の場合に時効の中断・更新ができます。
【時効を中断できる場合】
【時効を更新できる場合】
相続に関する手続きには、それぞれ時効や期限が設けられています。
複雑な相続手続きをする場合、思った以上に時間がかかって期限に間に合わないリスクがあります。
手続きに少しでも不安があるなら、弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談・依頼すれば、相続手続きに必要な書類の収集・作成、手続きの代行などを任せられます。
相続に詳しい弁護士なら相続手続きに関する知識が豊富であるため、自分で進めるよりも相続をスムーズに進められるでしょう。
ぜひ一度相談してみてください。
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