土地や家などの不動産を相続する際は、相続登記をおこなう必要があります。
しかし、相続登記は何度も経験するものではないので、実際にどの程度の費用負担が生じるのか、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、相続登記にかかる費用の目安や具体的な計算方法などを解説します。
費用負担を抑えるコツや専門家に依頼したほうがよいケースなども紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
相続登記とは、相続財産である不動産の登録名義を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。
不動産の登録名義は自動的には変更されないため、不動産の所在地を管轄している法務局にて必要書類を提出し、申請手続きをおこなう必要があります。
なお、2024年4月1日から相続登記は義務化されており、「相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内」に手続きをおこなわなければいけません。
手続きの期限を過ぎてしまった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
ここでは、相続登記にかかる費用の項目・内訳について解説します。
項目 | 費用 |
---|---|
不動産の調査費用 | 1,000円~2,000円程度 |
必要書類の取得費用 | 5,000円~3万円程度 |
登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% |
司法書士の依頼費用 | 5万円~15万円程度 |
相続する不動産の価値などによっても金額は変わりますが、場合によっては高額な費用負担が生じることもあり、まずはおおよその目安だけでも把握しておきましょう。
相続登記にかかる費用のひとつが、不動産の調査費用です。
1,000円~2,000円程度を目安に考えておくとよいでしょう。
相続登記をおこなう際は、不動産情報を調査するために登記簿謄本を取得する必要があります。
そして、登記が完了したあとにも正しく情報が更新されているかを確認するために、登記簿謄本を再取得するケースが一般的です。
つまり、相続登記する不動産ごとに、登記簿謄本の発行手数料600円が2回分発生することになります。
また、被相続人が所有していた不動産を把握できていない場合は、被相続人名義の不動産を全て調査しなければなりません。
毎年市区町村から送付される固定資産税の納付書があれば特定できますが、納付書がない場合は固定資産評価証明書を300円~400円で発行したり、名寄帳を200円~300円で閲覧したりする必要があります。
相続登記の申請をおこなう際は、戸籍謄本・印鑑証明書・固定資産評価証明書・住民票などの書類が必要で、それぞれの取得費用は以下のとおりです。
項目 | 費用 |
---|---|
戸籍謄本 | 1通450円 |
除籍謄本 | 1通750円 |
改製原戸籍謄本 | 1通750円 |
戸籍の附票の写し | 1通200円~300円程度 ※自治体によって異なる |
印鑑証明書 | 1通200円~300円程度 ※自治体によって異なる |
固定資産評価証明書 | 1通200円~400円程度 ※自治体によって異なる |
住民票の写し | 1通200円~300円程度 ※自治体によって異なる |
なお、相続では「遺産分割協議による相続」「法定相続分による相続」「遺言書による相続」などの相続方法があり、相続方法ごとに必要書類が異なります。
各ケースの必要書類をまとめると以下のとおりです。
遺産分割協議によって相続する場合 | 法定相続分によって相続する場合 | 遺言書によって相続する場合 | |
---|---|---|---|
登記申請書 | 〇 | 〇 | 〇 |
不動産の固定資産評価証明書 | 〇 | 〇 | 〇 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 〇 | 〇 | ※被相続人の死亡時の戸籍のみ |
被相続人の住民票除票または戸籍の附票 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続人全員の戸籍謄本 | 〇 | 〇 | - |
相続人全員の印鑑証明書 | 〇 | - | - |
不動産取得者の戸籍謄本 | - | - | 〇 |
不動産取得者の住民票 | 〇 | 〇 | 〇 |
遺産分割協議書 | 〇 | - | - |
遺言書 | - | - | 〇 |
相続登記の申請をおこなう際は、登録免許税がかかります。
ここでは、登録免許税の計算方法や計算例などを解説します。
登録免許税は以下のような流れで計算します。
まずは、固定資産評価証明書に記載されている不動産の評価額を確認しましょう。
評価額の1,000円未満は切り捨てます。
次に、税率をかけて登録免許税を算出します。
登録免許税の税率は複数ありますが、相続による所有権移転登記の税率は0.4%です。
たとえば、評価額が1,000万円の不動産を相続する場合は、1,000万円×0.4%=4万円を支払います。
100円未満の端数が生じた際は切り捨てます。
なお、登録免許税の支払い方法は、現金納付・印紙納付・キャッシュレス納付の中から選択するのが一般的です。
以下では、登録免許税の計算方法をケースごとに解説します。
土地と建物を相続するケースでは、それぞれの固定資産税評価額を合計し、0.4%の税率をかけて計算します。
たとえば、固定資産税評価額が1,111万1,111円の土地と222万2,222円の建物を相続登記する場合、計算手順は以下のようになります。
マンションなどの敷地権付区分建物を相続登記する場合は、敷地全体の固定資産税評価額に敷地割合をかけて、自身の持分に対する評価額を算出します。
たとえば、以下のような条件でマンションの一室と敷地を相続するケースを考えてみましょう。
この場合、登録免許税は以下のように計算します。
不動産が共有名義になっているケースでは、固定資産税評価額に持分割合をかけて、自身の持分に応じた課税価格を算出します。
たとえば、評価額が1,000万円、被相続人の持分が2分の1の土地を相続登記する場合、1,000万円×1/2=500万円が課税価格となります。
したがって、500万円×0.4%=2万円の登録免許税を支払うことになります。
司法書士に相続登記の手続きを依頼する場合には、報酬として5万円~15万円程度かかります。
ただし、事務所によって金額にはバラつきがあるため、依頼前には見積もりを出してもらって費用総額を確認しておきましょう。
相続登記は自力でも可能ですが、必要書類を準備したり、必要事項を漏れなく記入したりなど、法律に基づいて煩雑な手続きをこなしていかなければなりません。
場合によっては、必要書類を揃えるだけで膨大な手間や時間がかかってしまうこともあります。
司法書士なら必要な手続きを代行してくれて、手間なくスムーズな相続登記が望めます。
特に以下のようなケースでは書類不足や記入ミスなどが起こるおそれがあるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
ここでは、相続登記でかかる費用についてケースごとに解説します。
ただし、相続状況や依頼先事務所などによっても金額は変動するため、あくまでも一例として参考程度に留めてください。
上記のようなケースで被相続人の不動産の相続登記をおこなった場合、費用の計算例としては以下のとおりです。
項目 | 費用 | ||
---|---|---|---|
不動産の調査費用 | 2,000円 | ||
必要書類の取得費用 | 戸籍謄本×3 | 1,350円 | 5,100円 |
除籍謄本×1 | 750円 | ||
改製原戸籍謄本×2 | 1,500円 | ||
戸籍の附票の写し×1 | 300円 | ||
印鑑証明書×3 | 900円 | ||
住民票の写し×1 | 300円 | ||
登録免許税 (1,000万円+2,000万円)×0.4% |
12万円 | ||
合計 | 12万7,100円 |
上記と同様のケースで司法書士に相続登記を依頼した場合、費用の計算例としては以下のとおりです。
項目 | 費用 | ||
---|---|---|---|
不動産の調査費用 | 2,000円 | ||
必要書類の取得費用 |
戸籍謄本×3 | 1,350円 | 5,100円 |
除籍謄本×1 | 750円 | ||
改製原戸籍謄本×2 | 1,500円 | ||
戸籍の附票の写し×1 | 300円 | ||
印鑑証明書×3 | 900円 | ||
住民票の写し×1 | 300円 | ||
登録免許税 (1,000万円+2,000万円)×0.4% |
12万円 | ||
司法書士の依頼費用 | 10万円 | ||
合計 | 22万7,100円 |
相続登記で発生する必要書類の取得費用・登録免許税・司法書士費用に関しては、不動産所得・譲渡所得を申告する際に必要経費として計上できます。
具体的には「被相続人の不動産を相続して自分が賃貸人になった」「相続した不動産を売却した」などのケースが該当します。
経費として計上する際は、必要書類の取得費用と登録免許税については「租税公課」、司法書士費用については「支払手数料」とするのが一般的です。
ただし、不動産が複数あって一部だけを売却する場合や、相続人が複数いて権利関係が複雑な場合などは高度な知識が求められることもあり、そのような場合は相続に強い税理士に相談することをおすすめします。
やり方次第では、相続登記にかかる費用を安く抑えることも可能です。
ここでは、費用を抑える3つのコツを解説します。
相続登記にかかる費用を安く抑えたいのであれば、自分で手続きをおこなうのが有効です。
司法書士などの専門家に依頼すると5万円~15万円程度の報酬を支払う必要がありますが、自分で対応すれば不動産の調査費用・必要書類の取得費用・登録免許税の支払いだけで済みます。
ただし、専門家のサポート無しでおこなうと書類不足や記入ミスなどが起きるリスクがあるため、自分で対応してみて難しそうであれば速やかに相談しましょう。
専門家に頼る場合でも、自分では対応できない部分のみを代行してもらうことで費用を安く済ませられる可能性があります。
登録免許税には免税措置があり、条件を満たしていれば税負担が軽減されます。
まず、不動産の価額が100万円以下の土地に関しては、免税措置が適用されます。
共有名義の土地を相続する場合でも、自身の持分が100万円以下なら登録免許税を支払う必要はありません。
また、土地を相続した人が相続登記をしないまま死亡した場合も免税措置が適用されます。
たとえば「父から土地を相続した母が相続登記前に亡くなり、父名義の土地を自分が相続することになった」というようなケースが該当します。
この場合、父から母への相続登記については免税となり、母から自分への相続登記は通常どおり登録免許税がかかります。
なお、免税措置の適用を受けるためにはそれぞれ以下のような申請手続きが必要です。
相続登記にかかる費用をできる限り安く抑えたいのであれば、相続に関する無料相談会を活用するのも有効です。
無料相談会は、法務局・司法書士会・土地家屋調査士会などが主体となって随時開催されています。
相続登記に関する豊富な知識と経験をもつ専門家に相談すれば、「自力での手続きが可能かどうか」「免税措置の適用を受けられるかどうか」など、有効なアドバイスがもらえる可能性があります。
気になる方は、最寄りの法務局や司法書士会などに無料相談会について問い合わせてみてください。
最後に、相続登記の費用に関するよくある質問について解説します。
相続登記の費用を誰が支払うのかは、法律で定められているものではないので、個々の事情にあわせて柔軟に判断しましょう。
とはいえ、実際には不動産の取得者が費用を負担するのが一般的です。
複数人で不動産を取得する場合は、相続人同士で話し合って負担割合を決定するのが通常です。
不動産の価値によっては費用が高額になることもあり、誰がどの程度負担するのかは、遺産分割協議などの際にしっかり相談して決めることが大切です。
相続によって不動産を取得した場合、不動産取得税は課されません。
不動産取得税は、購入・贈与・建築などによって不動産を取得した際に課税されるものです。
相続は形式的に所有権が移転するだけなので、不動産取得税の課税対象からは外れます。
不動産を相続する際、相続人同士でトラブルが生じるケースも少なくありません。
特に、相続登記は手間や時間がかかるだけでなく費用負担も生じるため、誰が手続きするか、誰が費用を支払うのかで揉めてしまうこともあります。
トラブルなくスムーズに不動産を相続するためにも、まずは司法書士に相談してみてください。
司法書士なら、豊富な知識や経験に基づいて手続きの進め方を的確にアドバイスしてくれますし、相続登記の代行なども依頼できます。
初回の相談には無料で対応してくれる事務所も多くあるので、トラブルが起きる前にできるだけ早く相談しましょう。
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