ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ) > 相続マガジン > その他 > 健康寿命を伸ばす食事について跡見学園女子大学の石渡教授に取材しました!(後半)
公開日:2020.10.26  更新日:2023.3.27

健康寿命を伸ばす食事について跡見学園女子大学の石渡教授に取材しました!(後半)

%e7%9f%b3%e6%b8%a1%e5%85%88%e7%94%9f %e3%82%b5%e3%83%a0%e3%83%8d%e5%be%8c%e5%8d%8a

跡見学園女子大学マネジメント学部生活環境マネジメント学科の石渡尚子先生にインタビューをさせていただきました。

本取材のテーマは「健康寿命を伸ばすための食事」。

石渡先生の研究されている大豆の効果に始まり、共食の思わぬ効果やクオリティ・オブ・デスなど幅広く、そして興味深いお話をたくさん伺いました。

前半では主に石渡先生の研究内容や取り組みについて、後半は健康な食習慣やクオリティ・オブ・デスについてのお話です。

前半はこちら

健康に生きるために取り組むべきこと

酒井:健康に生きるための食習慣について教えてください。

石渡:健康を維持するスキルとして「自分の食生活を自分でコントロールできるか」が大きく影響すると思います。

私は栄養学科出身ですが、幸いなことに、その道の権威と言われる先生方に指導していただきました。学生時代、その先生に「同じ年の若い子は不規則な食生活をしていても健康だし、別に肌がボロボロなわけでもない。私はちゃんと食事に気を付けているのに差がないなんて」と嘆きました。

その先生に「60年近く栄養の研究を続けてきて、良かったと思うことはありますか?」と聞くと、「石渡君、元気なときはね、わからないんだよ」と。元気なときは多少食生活が悪かろうが良かろうが差が出ないけれど、問題は体調を崩した時だとおっしゃるのです。

さらに先生は、「具合が悪くなったときに、それまできちんとした食事をしてきた人であれば自分で持ち直すことができるし、そうでない人は一旦具合が悪くなったら自分で持ち直すのは難しい」と。「なんだ、病気にならないとわからないのか」と若い頃はちょっとガッカリしましたが(笑)。今ならわかります。おかげさまで、病気知らずのまま50代半ばまで来ました。

酒井:ここでようやく差が出てきたんですね。

石渡:おそらく、このくらいの年齢になると高脂血症や糖尿病などの生活習慣病が引っかかってきますよね。「あぁ、先生がおっしゃっていたのはこれだ!」って。学生たちからは「先生はぜんぜん休講にしない。健康すぎ!」って言われてます(笑)

実家では80代半ばの父と80歳近い母が2人で暮らしていますが、栄養学を学んだ母は、食生活を自分なりにコントロールできているから、この年齢でも一病息災で自立した生活ができるんですよね。

酒井:やっぱり持ち直せるパワーがあるんですね。

石渡:親を見ていると、自分たちの体調に応じて食事内容を調整できるスキルの大切さを実感しますね。毎日100点の食事をしてとは言わないけれど、2,3日ぐらいのスパンで「これは摂りすぎたな」とか「あれを食べてないな」と調整できると良いですね。

健康的な食事の摂り方

酒井:個人的な感覚で言うと、大豆は普段の食事に取り入れづらいイメージがあるんですけど、おすすめの方法はありますか?

石渡:確かに若い世代はそう思うかもしれませんね。でも、大豆製品ってバリエーションが多いんですよ。お豆腐・納豆・厚揚げ・油揚げ・おから…とか、いろいろな加工品があるので、工夫次第で和洋中どんな料理にも合わせることができます。あと、茹でた大豆が実はすごく便利で、お肉代わりに使えるんです。私はミートソースにひき肉だけでなく茹で大豆も同量加えます。そうすると動物性の脂肪は半分になりますよね。大豆はうま味や甘味があるから、美味しさもアップするし、食物繊維もたっぷりで食べ応えもあるし。

酒井:なるほど!良いことづくめなんですね。

石渡:そうなんです。サラダに乗せても美味しいし、なんかこのお料理もの足りないというときは、とりあえず茹でた大豆を加えてみると良いですよ。私の場合、おやつも黒豆甘納豆やきな粉のお菓子で、どれほど好きなんだと(笑)

酒井:ちなみに高齢者にはどのように勧めていますか?

石渡:タンパク質を摂るときは、どうしても動物性の食品を選びがちだけれど、大豆も「畑の肉」と言われるくらいタンパク質がたっぷり含まれています。お肉やお魚に匹敵するぐらいアミノ酸のバランスも良いので、毎日のメニューに取り入れてほしいですね。特にタンパク質は動物性と植物性の両方を摂ることをお勧めしています。

酒井:動物性と植物性の両方を摂るように勧めているんですね。

石渡:タンパク質は20種類のアミノ酸がランダムに組み合わさって、お肉やお魚、大豆のタンパク質になっているのですが、お肉やお魚に含まれているアミノ酸と、大豆に含まれているアミノ酸はちょっとバランスが違うんです。だからそれぞれを組み合わせると、20種類がバランスよく摂れるんです。

人間の身体も20種類のアミノ酸を材料にして、髪の毛や皮膚、筋肉、内臓、酵素、血液成分など、様々なパーツを作っています。いくら新陳代謝の良い体でも材料であるアミノ酸(タンパク質)がバランスよく揃っていないと作り直しができないのです。なにか1種類でも不足する部品があれば、機械が組み立てられないのと同じです。だから動物性のタンパク質ばかり摂ってると、植物性タンパク質に含まれているアミノ酸が不足しがちになるので組み合わせが大事なんです。

あと、大豆製品には味の濃いものはなくて、お値段も高くないから、ちょっと意識すれば今の食生活に加えることができると思います。

酒井:なるほど。確かにそう言われると意識次第では全然摂れそうですね。

石渡:そうです。これまで大豆製品を加えていなかったメニューにちょっとプラスしてみると、意外な美味しさに驚くことがあるかもしれません。

酒井君は自分でお料理しますか?そうであれば、一度、蒸し大豆や煮大豆を買ってきて、つまんでみてください。「意外にコクがあって美味い」ということがわかるはず。ちなみに今はご家族と同居ですか?

酒井:1人暮らしです。

石渡:それなら、レトルトのカレーやミートソースのお世話になっていますよね。そのときに、茹でた大豆を加えてみてください。市販のレトルト食品には男子が満足するほどお肉がはいっていないでしょう。そこに大豆を加えると、美味しくなるだけでなく、ボリュームもアップして満足感が高まるはずです。

酒井:本当にいいですね…!節約にもなりますね。

石渡:水煮や蒸し大豆は1袋100円程度なので、お手軽ですよね。例えば、タンパク質の具が入っていないサラダに大豆を入れたりすると、「あれ?なんでサラダがこんなに美味いんだろう。あっ、大豆ね!」みたいな、嬉しい驚きがあるはずです(笑)

酒井:ありがとうございます。ぜひ試してみます!

高齢者の食生活の注意点

石渡:実は、高齢者ほどタンパク質を意識的に摂ってほしいんです。血液検査に「アルブミン」という項目があるんですが、これはたんぱく質の一種で、その人の栄養状態を反映しています。これが低くなると免疫力が低下したり、筋肉が付きにくくなったりするので、放っておくと徐々に衰えていきます。

だから「いかに血中アルブミンを高く保てるか」ということは、高齢になったら一大事。あと、これは誤解している方が多いのですが、「20代30代と70代以上の健康常識は別」ということは誰でも理解できるのだけれど、なんとなく「50代60代と70代以降は一緒」と思いますよね。

中年になると高血圧・高脂血症・糖尿病に気を付けてと言われるから、それをそのまま70代でも信じている人が多いのではないでしょうか。そうすると、これが栄養不足につながり、老化を進める原因になってしまうのです。

50代ぐらいまでは、自分に必要なエネルギーを超えてエネルギーを摂ると、肥満になり生活習慣病のリスクが高まります。一方で高齢になると、若い頃に比べてエネルギーを作り出す力が弱くなるので、必要量より少し多めのエネルギーを摂ることが求められます。そのため、中年の健康常識を律義に守り続けて、油やお肉を控えた食事をしていると低栄養になります。

高齢になって食事を節制していると、常にエネルギー不足になるので、何とかこれを補おうと体は自分の部品を壊してエネルギーを供給しようとします。特にわかりやすいのが筋肉です。筋肉が目に見えて衰えてくると、歩行が困難になります。そうすると外に出なくなる、買い物も行けない。食欲もなくなる。食欲がないからまた動けなくなる。こういう負のスパイラルに入ってしまいます。これをフレイル(筋力や活動が低下している状態)と呼びますが、最終的には寝たきりになる可能性もあります。その負のスパイラルを止めるためにも低栄養にならないような食べ方が重要です。

そうは言っても、消化吸収能力が落ちてきているところに、無理して詰め込むことはいけません。1種類を大量に食べるのではなく、少しずつでいいからおかずの種類を増やすこと。特にタンパク質は意識的にいろいろな種類を摂りたいですね。高齢になったら、日常的に「ひと口ふた口余分に食べる」という努力をしつつ、「あれもこれもちょこちょこ食べる」ことを心掛けてほしい。

酒井:なるほど。そういう努力が必要になるんですよね。

孤食と共食の違いとは?

酒井:石渡先生は孤食と共食の違いについても研究されていますが、それぞれの違いはどのように出てきますか?

石渡:孤食になると、同じものを繰り返し食べがちです。特に高齢者はもったいないという気持ちから、買ってきたものや作ったものを最後まで食べ続ける。そうすると食事の多様性を保つのが難しいんですよね。このように、摂取する食品のバリエーションを増やしにくいというのが一つ目の問題。もう一つは食欲の問題です。一見、1人で黙々と食べた方がたくさん食べられそうでしょう?

酒井:はい。そんな気がします。

石渡:これについて、誰かとおしゃべりしながら食べる方がたくさん食べられるというデータがちゃんとあるんですね。おしゃべりしながら食事をすると長い時間食べ続けられるし、複数のメニューを食べることもできる。となると、誰かと共食することで「あれもこれも、いつもより少し余分に食べられる」はずです。

あとはお家から共食の場に出てくるという、身体的、社会的なプラス面もあります。高齢者の場合、身近な生活圏で、決まったルートを行き来することが多いのですが、学生たちと一緒に食事をするために、日頃乗らないバスに乗ったり、生活圏外を歩いたりして会場まで来るわけです。さらに、何度もお食事会で顔を合わせる高齢者とお友達になれる。

実際、独居の男性ばかりを集めてお食事会を開催したこともありますが、はじめは参加者同士、あまりお話しないんです。それでも会を重ねると、「俺このあとコーヒー飲んでくんだけど、誰か行かない?」と声をかける人があれば、「時間あるから行こうかな」という人が一人二人と増えていき・・・。最初はお互いあんなに愛想なく接していたのにどういうこと?みたいな(笑)。

酒井:結局のところ、人とのつながりを求めていたんですかね?

石渡:きっと一緒に食べたり話したりしているうちに、学生と話すのとは違った楽しさが同年代にあることに気が付いたんでしょうね。共食によって少しずつ社会に開くチャネルが増えるという感じでしょうか。共食にはすごく多面的な良さがあるんですよね。傍からは共食の場の楽しみしか想像できないかもしれませんが、実際に共食会を主催してみると、そこから派生するものは思っているよりはるかに大きいことがわかるんです。

酒井:なるほど…。自分もそこまで考えが及んでなかったですね。

石渡:食事を提供するだけのお食事会だと、どうしても参加者はお客様になっちゃうでしょう。それに比べて私たちのお食事会は、お互いに作ったものを共に食べることで学生も高齢者も同じスタンスでテーブルを囲むことができる。実際は「俺が作った味噌汁美味いだろ?」とか「それ細かく切れてるだろう?」とか自慢されるんですが(笑)

酒井:なるほど。そこに繋がってるんですね。

石渡:「今日は少し熱あるんだ」と言いながら参加した高齢者に、心配して帰宅を勧めると「いやいや、ここいた方が元気になるから」っておっしゃって。仕方なく、調理室が見渡せる場所に椅子を置いて、寂しくないようちょくちょくお声をかけていたら、食後には熱が下がってましたから。

酒井:えー!本当に元気になったんですね。

石渡:すべてのメニューをちゃんと食べて帰りました。いらしたときは、「食欲もないんだよ」とか仰っていましたが、帰りは笑顔で「もう治った」と(笑)

酒井:そんなことあるんですね…!

石渡:共食は健康余命の延伸にも役立つに違いありません。チャンスがあったら、ぜひ皆さんにも共食会に参加してほしいですね。

各自治体による共食への取り組み

酒井:自治体でもそういった取り組みは行っていますか?

石渡:ほとんどが一緒に作らないお食事会のようですね。怪我や火傷のリスクを考えて、調理はしないのかもしれません。一番の問題は衛生面でしょうか。

それは主催側が責任を持たないといけないことなので、十二分な準備が必要です。ゼミのお食事会では、朝8時半に学生たちが会場入りしてまずは掃除して、その後にお皿から鍋、包丁まで使うものを全部消毒します。

私達のお食事会に来て健康になってほしいのに、もしそういう理由で体調を崩されたら目的を達することができません。まずはそのリスクをできる限り排除するために、学生たちは使用する器具のすべてを消毒してから下ごしらえに入ります。

酒井:確かにそこまではやりたくないって人が多そうですよね。

石渡:学生たちには、「自分以外の人にお食事を提供することは、その人の命にもかかわる行為なんだ」ということを口を酸っぱくして言います。そのおかげか、「自分たちがいい加減な準備をして万が一事故が起こったら、先生が職を失っちゃう」と言って真剣に取り組んでくれます。

酒井:学生としても辞めさせられないですよね。

今後の共食への取り組み

酒井:これから共食についてどのような取り組みをされる予定でしょうか?

石渡:実は自治体からは「子供食堂もやってください」と頼まれるのですが・・・。申し訳ないけれど、学生がお子さんたちと一緒に調理をするのは難しいですね。

酒井:子供の方が難しいんですか。

石渡:子供の場合、調理経験がほとんどないので、包丁の扱い方とか、熱湯の危険性がわからず、高齢者よりもはるかに怪我や事故のリスクが高くなります。

それでも、何とか地域からのリクエストにお応えしたいので、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきたら、高齢者・大学生・小学生という3世代が交流できる新たな食育プロジェクトに挑戦する予定です。

現代の子供や大学生の場合、日常身の回りに高齢者がいないから、高齢者が何に困っていてどうしてあげればいいか想像もつかない。けれども、そういう人たちと付き合うことで、「そうなるとあのおじいちゃんおばあちゃんはどうなっちゃうんだろう?」と考えられるようになる。

酒井:自分事になるんですね。

石渡:そうですね。複数の世代が交流することで、それぞれの視野が広がり、社会の一員としての役割に気づくことができるのではないでしょうか。

最後に伝えたいこと

酒井:最後にメッセージをお願いします。

石渡:高齢者を対象とした講演会でお話をさせていただくこともあるのですが、そういうときも「どうやったら長生きできますか?」という質問が必ず出ます。日本人にとって死はタブーなものなのかもしれません。けれども、私たちは生まれ落ちたときから間違いなく死に向かって歩んでいるので、その到着地までゆっくり歩いていけるように、「クオリティ・オブ・ライフ」と同様「クオリティ・オブ・デス」も考えて欲しい。50過ぎたら「どう準備していこうかな」と。さらに上の人たちは「若いころの常識では駄目。少しでも下り坂を緩くするための工夫をしよう」と。

酒井:確かにその考え方はあまり語られないですよね。

石渡:だから私はクオリティ・オブ・ライフを口にするときには、必ずクオリティ・オブ・デスをセットで言うように心がけています。「生き方も大事だけど死に方も大事ですよ」と。酒井君のベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)ではこの問題は避けられないでしょう。

酒井:はい。特にそういう考え方ってこれからもっと重要になると思うので、今こうやって取材させていただいたり、また別の専門家に聞いたりなんかを今どんどん進めているところですね。

石渡:最近、死に関する書籍が増えてきましたね。

酒井:やっぱり元々みんな話したかったとか、関心が強かったってことなんですかね。

石渡:関心はあったけれど口にしにくかったのかもしれません。それを様々な著者が文字にしてくれたことで、少しずつですがクオリティ・オブ・デスを考える機会が増えてきています。これはクオリティ・オブ・ライフを考えることにもつながります。この2つは裏表一体ですよね。

酒井:死に対する見方も今どんどん変わっているところってことですね。今回は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

SNSで記事をシェアする

ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
Icon column white カテゴリからマガジンを探す
弁護士の方はこちら