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公開日:2020.10.26 
取材記事

高齢者の住宅選びはどうすればいいのか?|大正大学宮崎教授に取材

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現在の日本では高齢化が進んでおり、およそ4人に1人が高齢者(65歳以上)となっています。

 

それに伴い、近年における平均寿命の延伸や国の政策等に起因して、高齢者が介護を想定した住宅選びを行うことが今後重要となってきました。

 

今回は高齢者の住宅選びについて大正大学宮崎教授に取材してきました。

 

当記事はその取材記事となります。

高齢者の住宅選びは困難になっている

アシロ取材班

高齢者が住居選びで困惑するようになった裏にはどのような背景があるのでしょうか。

 

引用元:「平均寿命の推移」内閣府

 

大正大学宮崎教授顔写真
宮崎様

まず平均寿命の変化が、高齢者の住居に悩みを抱えるようになった問題の根底にあると思います。

 

上記のデータを見ると分かる通り、平均寿命は延び続けており、80歳を超える時代となりつつあります。

平均寿命が延びたことにより、約35~40年間もの高齢期を過ごす必要性が生まれました。


高齢期の長期化により、高齢者が虚弱化していき、ベッドの上での生活を余儀なくされるケースも増えております。

 

「自分は介護を必要とする時期は少ないだろう。」と考えて、介護が必要になる将来のことをあまり検討せずに、30~40代で住居を決めてしまう方も少なくありません。

 

その後、介護が必要になった際に、介護に向かない住居であることが原因となり、持ち家から離れざるを得ない状況に陥ることも少なくありません。

 

また、親と子供どもが同居するのが当たり前の時代ではなくなったことも一因です。

 

日本において、現状施行されている各制度において65歳以上を高齢者と分類されていることが多いことから、65歳以上の方を高齢者と今回は想定してお話させて頂ければと思います。

 

65歳以上の高齢者の方が子供どもの頃は、両親と子供どもが同居することが、一般的な時代でした。


しかし、近年、子供どもが結婚したら新しい住居を求めて暮らすことが一般的になりました。

 

そのため高齢になった際に、子どもが老親の介護をしてくれると考えていたが、別居することによって、将来への不安を募らせる高齢者の方も増えつつあります。

アシロ取材班

昨今、高齢者の居住選びの問題が噴出するようになった原因についてお聞かせください。

大正大学 宮崎教授 顔写真
宮崎様

約20年前までは、高齢者の介護が必要となった際、同居している家族が介護をして、症状が悪化した場合は病院に入院することが一般的でした。

 

その後、国の政策として、高齢者の長期入院が難しくなりました。

 

その結果、在宅介護を余儀なくされる高齢者が増加したことも原因の1つと考えられます。

どのような住宅を選べばよいのか

 

 

アシロ取材班

では高齢者が住居選びの際に、着目すべき点はどのような要素なのでしょうか。

大正大学宮崎教授顔写真
宮崎様

居住地選びと住宅選びの2つの観点からお話します。


まずは居住地選びについてです。
居住地選びは、訪問医療や看護、在宅系のサービスの充実度によりエリアを選ぶことが重要となります。


また、在宅系のサービスにおいては買い物支援や掃除、一人暮らしの場合は、病院への付き添いサービス等も重要です。

 

次に、住宅選びです。
将来的に車いすを家の中でも利用することを考慮して住宅を選ぶことが重要です。

 

介護が必要となった高齢者の方が、家の中を車いすで移動することが出来ない環境であったために、在宅で介護をすることができず、持ち家を手放さざるを得なくなるケースは少なくありません。

 

在宅介護を可能とする住居を求めるためには、現在居住している家が売却できないと、資金不足で引っ越しできないこともあります。

 

高齢者の方が、新しい家に移り住む場合には、車いすでの移動に十分配慮された住宅を選ぶべきでしょう。

アシロ取材班

住宅選びにおいて、具体的にはどのような点を心がけるべきなのでしょうか。

大正大学宮崎教授顔写真
宮崎様

具体的には以下のような点を考慮した住宅選びを行うことをお勧めします。

  • 玄関の間口が車いすの幅よりも広いこと。
  • トイレの出入り口、間取りが、車いすの出入りに不便しないこと。
  • 段差が全体的に少ないこと。
  • 階段に手すりが設置してあり、勾配が急でないこと。
  • 手すりの取り付けができる強度の壁であること。
  • 扉が引き戸であること。
  • 要介護者の居室を確保でき、介護者が横になって休むことが出来るスペースがあること。
  • トイレや洗面所が要介護者の居室の近くにあること。

上記の条件を出来るだけ満たした住居選びを行うことで、介護者の肉体的負担は大幅に軽減されます。

 

結果として、自宅での介護を実現出来る可能性が高まるのです。


住宅メーカーの販売する住宅の中には、これらの点を十分考慮された設計の住宅もありますので、一度内見して上記の条件について確認するのも良いかもしれません。

 

ただし、都市部ではそもそも敷地が狭いケースが多々あります。
住宅が狭い場合は、説明した条件を満たすことが難しいこともあります。


その場合は、改めて居住地選びから検討する必要があるでしょう。

高齢者の住宅における近年の問題

 

 

アシロ取材班

高齢者の住居について、近年問題となっている点についてお聞かせください。

大正大学宮崎教授顔写真
宮崎様

子供が親と同居する意思の有無について、親の意思との齟齬が生まれるケースが散見されます。

 

親は介護が必要となった時には、子どもが同居して介護にあたってくれると思っているが、子どもは親と同居する意思はなく、トラブルに発展することはよくあるケースです。

 

このような事態を未然に防ぐために、子どもに親と同居する意思の有無について確認をあらかじめ行っておく必要があります。

 

また、親と子ども供がそれぞれに持ち家、持ちマンションを構えた場合、将来的に空き家となるリスクも考慮すべきでしょう。

 

現在の高齢者に該当する1970~80年代のサラリーマンにとって、庭付きの一軒家に居住することは憧れの的でした。

 

庭付き一軒家を購入した人が、年月が過ぎ、自身の高齢化や虚弱化により、広い家、駅から遠いなど適した居住環境ではないことから不便さを感じます。


高齢者にとって、自身の保有する一軒家が売却できなければ、移住する資金が手元にありません。

この記事の取材協力
大正大学 社会共生学部 社会福祉学科
宮崎 牧子 教授
現在、大正大学では高齢者福祉を中心に教えています。介護が必要となった際に、ご本人、家族として困らないためにはどうすればよいのか、多くの人に自分自身の問題として考えてもらえるような情報提供をしています。

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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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