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公開日:2020.10.21  更新日:2023.3.27
取材記事

日本の任意後見制度に関する問題点とは?明治大学星野茂准教授にインタビュー

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遺産相続トラブルは依然として後を絶ちません。

相続にまつわる様々なトラブルの中でも、本人が認知症等で事理弁識能力が低下した場合の代理人に関するトラブルは発生しがちです。

事理弁識能力とは、本人が行った行為によって、何らかの法的責任が生じることを認識できる能力のことです。

今回は、日本の任意後見制度に関する問題点について、明治大学星野茂准教授にお話を伺いました。

以下、星野先生にお伺いした内容となります。

任意後見制度とは

任意後見制度は、旧来の禁治産制度に代わり、1999年の民法改正によって制定され、2000年4月1日より施行された制度です。

この制度は、人の事理弁識能力が低い状態が一定の期間継続するような場合に、本人の判断を他の者が補うことで、本人を法律的に支援する制度です。

具体的には、本人の判断能力がある間に、将来事理弁識能力が減退した場合に備えて、自分が選定した人に資産管理やその他将来必要となる手続き契約(老人ホームの入居手続きや介護サービスの契約等)を代理で行ってもらうことを公正証書で締結しておく制度となります。

この制度が成立するまでは、同様の処置の必要性が生じた際には民法上の委任契約により事理弁識能力が低下した人をサポートする契約を行うことが一般的でした。

イギリスのようなコモンローの国では委任契約によって、受任者に代理権を授与しても本人の事理弁識能力が減退すると委任契約自体が終了してしまいます。そこで特別法を制定して、本人の事理弁識能力が減退しても終了しない委任制度をつくったのです。

また、現在世界的な成年後見制度の流れでは、事理弁識能力が減退すると、法定権限が本人から全て他者に移行する「意思決定代理型」から本人の決定権限を保有した状態で他社が本人の意思決定を支援する「意思決定支援型」へとシフトしています

これらの背景には本人の法定権限が喪失することによる象徴的差別や社会的排除等をもたらす可能性を考慮されたことが背景にあります。

日本もイギリスにならい、事理弁識能力が低くなった際に、出来る限り本人の意思を尊重するために、任意後見制度が施行されました。

しかし、任意後見制度が施行されて20年が経ちますが、未だに本制度の利用率が低い状態にあります。

任意後見制度の利用率の伸び悩みには、構造的な根深い問題があります。

ここからは任意後見制度の抱える構造的な問題について、ご説明します。

任意後見制度には、以下の3つの利用形態があります。

・「即効型」

・「移行型」

・「将来型」

それぞれの利用形態に問題を孕んでいるため、任意後見制度は未だに世の中に浸透しているとは言えない状況が続いているのです。

それぞれの利用形態毎の問題点についてご紹介します。

「即効型」任意後見契約

「即効型」任意後見契約は、事理弁識能力が減退し始めてから、任意後見契約を締結するケースを指します。

「即効型」任意後見契約を検討する際には、すでに本人の事理弁識能力が減退し始めている状態であり、他人に任意後見制度を悪用される可能性があります。

「移行型」任意後見契約

「移行型」任意後見契約は本人の事理弁識能力が十分にある時点で委任契約を結び、将来的に事理弁識能力が減退した際に任意後見契約へと移行させる利用形態のことを指します。

このような場合、本人の事理弁識能力が減退しているにもかかわらず、委任契約を継続することによる悪用例が少なくありません。

任意後見契約に移行することにより監督人が付くことで、委任契約受任者の横領が発覚することを恐れて、このような行為に及ぶことがあります。

このように「即効型」と「移行型」においては、後見人による横領をはじめとした任意後見制度の悪用が行われるリスクを抱えることになります。

「将来型」任意後見契約

「将来型」任意後見契約は本人の事理弁識能力が減退した場合に備えて、あらかじめ任意後見契約のみを締結しておくことを指します(これが本来の形の任意後見契約です)

「将来型」は、委任契約を締結しない点で「移行型」と異なります。

委任契約を締結しないことにより、上述したような横領リスクを軽減することは出来ますが、任意後見人となる期間が不確定であることから、受任する人のモチベーションが低下します。

そのため、「将来型」任意後見契約も依然として、利用されることが少ないのが現状です。

このように日本の任意後見制度の抱える問題は非常に根深く、有効な解決方法について法学研究者の間でも議論の途上にあります。

上述したような問題を阻止するための解決法として、財産争いをしないことを当事者間で合意を取るという方法があります。

しかし、「財産争いを辞めましょう。」と合意を取ることは容易ではありません。

理想論ではありますが、現状の問題解決策として有効とは言えないでしょう。

また、近年の少子高齢化により、マンパワーが慢性的に不足している問題もあります。

それに伴い、親族関係者で面倒を見る余裕がないため、親族ではない第三者の専門職の方を後見人に指定するパターンが良くあります。

しかし、以前にもニュースで取り上げられたような弁護士等専門職による横領事件も発生しています。

専門職の方ですらも、横領する可能性があるのであれば、誰を信用してよいのか分からなくなりますよね。

日本でも後見人のマンパワー不足問題に対する対処法として、市民後見人の募集を行い、教育を行っていますが、これまでに後見人としての経験のない素人に一から教育を施すことになります。

後見人として必要な知識も複雑であるため、教育が難航しているのが現状です。

また、万が一横領された場合に、ボランティアとして募集している以上、誰が責任を取るのかも不明瞭です。

前述したような利用率が伸びない問題の他にも、後見人のマンパワーが不足している問題についてもまだ解決策を模索している途上であると言えますね。

このように任意後見制度やそれを取り巻く諸問題に対する有効な方策は未だ見つかっておりません。

これらの諸問題は容易に解決できないものばかりであり、未だ任意後見制度の利用率は低いままなのです。

民法上の委任契約や任意後見契約の活用を検討する場合には、これまでに説明してきたような問題を知ったうえで、家庭の状況に合った活用方法を検討しましょう

この記事の取材協力
明治大学 法学部
星野 茂 准教授
1983年明治大学法学部卒業。同大学院博士後期課程単位取得退学。明治大学法学部助手、専任講師を経て現職。日本青年後見法学会常任理事、日本精神保健福祉政策学会常任理事、ペット法学会理事等。

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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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