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公開日:2020.11.19  更新日:2024.1.26

高齢者が生き生きと生活するための知識~生活の質を阻害する疾病とは?~

2019年の平均寿命は男性が81.4年、女性が87.45年となり、男女ともに過去最高を記録しています(※1)。寿命が延びるのは大変うれしいことですが、本当に意識しなければならないのは健康寿命だといえるでしょう。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされおり、2016年においては男性が72.14年、女性が74.79年となっています(※2)。

健康寿命と平均寿命の差の期間中は、日常生活に制限を受けながら生きていかなければなりません。自分の思うような生活ができない状態では、幸福を感じることは少ないでしょう。そのため、高齢期になってもイキイキと充実した人生を送るには、健康寿命を延ばすことが重要になるのです。

では、健康寿命を延ばすためにはどういったことに注意すればよいのでしょうか。

この記事では、高齢期の生き方を考える重要性、QOL(生活の質)を向上させるためにできること、高齢期のQOLを下げる可能性がある疾病などについて解説します。

(※1)参考:令和元年簡易生命表|厚生労働省
(※2)参考:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会|厚生労働省

高齢期の生き方を考える重要性

高齢期の生き方を考えておくことは重要です。特に、「生きがい」と健康に関係があることは、さまざまな研究によって明らかになっています。目的意識を持ち、人生や物事にポジティブに取り組んでいる人は、循環器疾患などでの死亡率が低いことや生命予後に大きな影響を与えることが分かっているのです。

どういったメカニズムなのかは未だに解明はされていませんが、「病は気から」ということわざがあるように、生きがいをもって毎日をイキイキと生活することは健康上重要なことだといえるでしょう。

また、生きがいは健康だけでなく、人生をより豊かにしてくれるものでもあります。生きがいをもっていることで、人生を前向きに、明るく生きる活力になるのです。

高齢者がQOL(生活の質)を向上させるためには

高齢者のQOL

QOLとはQuality of Lifeの略で、日本語では「生活の質」や「人生の質」と訳されることが多く、生きていく上の満足度を表す指標です。1994年にはWHOがQOLを「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しています。簡単に言い換えれば、「高齢者本人の主観的な幸福感」とも表現できるでしょう。

高齢になり介護が必要になった場合、以前の生活とは環境が異なってしまうことも少なくありません。生活範囲が狭くなったり人と接する機会が少なくなったりしてしまうことも多くなってしまいます。そのような状態になったとしても、高齢者本人が自分らしい生活をできるように注力するのがQOLの考え方です。

QOLを向上させるには、「より良く生きるにはどうすればよいか」という点にフォーカスします。そのために、まずはリハビリや経済支援、生活環境などを整備して、高齢者の方が快適に生活できる体制をサポートします。そして高齢者自身に生きがいを見出してもらい、自分らしい生き方をしてもらうといったことが挙げられます。

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高齢期のQOLを阻害する要因となりかねない疾病3選

高齢期に要介護状態となり、QOLを阻害するものはたくさんありますが、その多くは病気やケガです。認知症はよく知られているかと思いますが、そのほかにも骨折や関節疾患、糖尿病などが挙げられます。ここでは、QOLを下げる要因となる代表的な3つの疾病について確認してみましょう。

認知症

認知症とは、脳細胞の機能的低下や脳細胞の死滅によって記憶障害や時間・場所が分からなくなる見当識障害、実行機能障害、判断力障害などのほか、徘徊、暴言、妄想、抑うつなどの症状がある疾病です。

65歳以上の認知症高齢者数と有病率の推計では、2012年では467万人と約7人に1人の有病率であるのが、2025年には約5人に1人になるとされています

認知症有病率

引用:高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向|内閣府

認知症は老化による物忘れと混合しやすいですが、次のような違いがあります。

項目

老化の物忘れ

認知症

原因

生理的な老化

脳細胞の死滅など

物忘れ

体験したことの一部を忘れる。ヒントを与えられると思い出す

体験したことをすべて忘れる。ヒントを与えられても思い出せない

症状の進行

進行はあまり見られない

徐々に進行する

自覚

物忘れがあることを自覚する

物忘れの自覚がない

判断力

低下しない

低下する

日常生活

支障なし

支障あり

現在、認知症を根本的に治療する方法はなく、早期に発見し適切な治療を行うことで、症状をやわらげ進行を遅くすることが可能であるとされています。

アルツハイマー型認知症

ベータたんぱくやタウたんぱくなどが原因で脳細胞が死滅し、脳が委縮することを原因とするタイプの認知症です。記憶をつかさどる海馬と呼ばれる部分を中心に、脳全体に委縮が見られます。

物忘れなどから始まり、時間を経るにつれて緩やかに進行します。新しく経験したことを記憶できない、日付や時間を判断できない、今いる場所が分からない、家族の顔が分からないなど、認知機能の低下が主な症状です。

その他、妄想や抑うつ、無関心、興奮などの心理症状がでることもあります。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が壊れることを原因とする認知症です。はっきりとした原因は分かっておらず、さまざまな症状が見られます。

周囲の人に配慮ができなくなったり、自分の思った通りに行動し周囲の状況を気に掛けなかったりといったことが代表的な症状です。その他、こだわりが強くなる、毎日同じ時間に同じ行動をとるといったことも見られます。進行すると意欲や活動の低下が見られ、配慮に欠けた行動は目立たなくなります。

他の認知症よりも若年でかかることが多いと言われており、ほとんどの方が70歳ごろまでの発病であるとされています。前頭葉・側頭葉の神経細胞が壊れる原因は分かっておらず、一部には遺伝子が関係しているケースも見られます。

レビー小体型認知症

脳の神経細胞内にレビー小体というたんぱく質が蓄積することを原因とする認知症です。レビー小体型認知症では、通常脳のはっきりとした委縮は見られません。

認知機能障害や認知機能の変動、幻覚が見える、睡眠時に異常行動をするなどのさまざまな症状が見られます。調子が良い時と悪い時を繰り返しながら、徐々に認知機能が低下していきます。他に、パーキンソン症状や自立神経失調症など、身体面の症状が見られるケースもあります。

レビー小体型認知症は患者によって症状の現れ方がことなるため、正しく診断するのが難しいケースがあるとされています。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などによって脳の血管に障害が発生し、その周りの神経細胞がダメージを受けることを原因とする認知症です。認知機能障害や意欲、自発性が無くなるなどの心理症状、手足のまひといった神経症状、言語障害などが現れます。

脳梗塞や脳出血が発生した後一気に症状が発生し、その後も脳の血管に障害が発生するごとに段階的に症状が進行していくという特徴があります。

血管がつまったり破れたりすることを防ぐために、血圧のコントロールや高脂血症などを治療することが症状進行を防ぐ手段の1つとされています。また、不眠や昼夜逆転することも見られ、規則正しい生活習慣をすることも重要です。

認知症の疑いがある場合は早期対応を

認知症の疑いがある場合には早期の対応が必要になります。認知症と同様の症状が見られながらも、早急な治療が必要である他の疾患である可能性があるからです。また、早期に認知症であることが分かれば、治療や介護サービス等を受けることで進行を遅らせたり、その後の生活の質を高めたりすることも可能になります。

さらに、早期に認知症であることが分かれば、その後の治療や介護の方針、ご家族内での対応などを話し合うことも可能です。認知症ごとの対応をご家族が理解しておくことで、介護などの負担を減らすことにもつながるでしょう。

多くの自治体では、地域包括支援センターなどで認知症に対応してくれる医療機関情報をリストにしています。「ご家族が認知症かな」と思った際には問い合わせてみるとよいでしょう。

骨折や関節疾患

骨折によって要介護になる高齢者の方も少なくありません。高齢になると身体的な衰えから転倒し骨折してしまって、そのまま介護が必要な状態になってしまうのです。

特に、高齢者の場合では、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折などが多く見られます。いずれの骨折も原因のほとんどは転倒ですから、要介護を防ぐためにも日ごろから転倒防止に注力しておく必要があるといえるでしょう。

また、関節疾患から介護になってしまうケースも多く見られます。関節疾患とは、関節の変形などによって生じる病気のことで、変形性関節症、関節リウマチ、偽通風症などが挙げられます。

多くの関節疾患では、初期症状として立ったときや歩き出したときに痛みを感じます。進行していくと階段の上り下りや歩行自体が困難になるほどの痛みを感じるようになります。

【関連記事】家族介護で葛藤を抱いてしまう介護の現状と問題点とは?|中央大学天田教授に取材

糖尿病

糖尿病とは、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンが機能しなくなったりすることで、血糖値が上昇した状態が続く病気のことをいいます。

糖尿病の患者数は2017年では328万9,000人で、その半数が65歳以上の高齢者です。つまり、高齢者の糖尿病患者は150万人ほどいるということになります(※)。

糖尿病になると血管が障害されることで、認知症や失明などさまざまな合併症を招いてしまいます。高齢者のQOLを大きく低下させてしまう可能性がありますので、いかに早期発見、早期治療するかが重要なポイントです。

(※)参考:平成29年患者調査|厚生労働省

まとめ

平均寿命は延びているものの、高齢期の生き方を考えるためには、いかに健康寿命を延ばしていくかが重要です。そのためには、QOLを高めることが大切だといえるでしょう。

QOLとは、生活の質のことで、どうすれば高齢者が「よりよく生きるか」ということにフォーカスします。また、QOLを上げるには、高齢者本人らしい生活ができるように周囲の人がサポートすることも大切です。

QOLを下げる要因の多くは疾病です。たくさんのものがありますが、代表的なものとしては認知症、骨折・関節疾患、糖尿病などが挙げられます。

早期発見をすることで症状を遅らせたり、疾病を防いだりすることが可能ですので、普段からの対策が重要になります。

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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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