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公開日:2020.10.23  更新日:2023.3.27
取材記事

高齢者の転倒予防のために重要な運動とは|大東文化大学福島教授に取材

日本人の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳(2019年度|厚生労働省)となりましたが、健康でイキイキと生活するのに重要なのは、「健康寿命」ではないでしょうか。

 

健康寿命とは、支援や介護を受けるなど、日常生活を制限されることなく健康的に生活できる期間のことをいい、平均寿命より10年ほど短いとされています。

 

健康寿命を延ばすうえで重要になるものの1つに、転倒による骨折を避けることが挙げられます。

 

高齢者が骨折をすると、治療のために長期入院が必要となり、筋力や認知面など身体能力の低下からそのまま寝たきりになってしまうといったケースも少なくないからです。

 

この記事では、健康科学などを研究している大東文化大学の福島教授に、高齢者の方が転倒する原因や転倒の危険性、転倒を防ぐための運動などにについて解説していただきました。

 

転倒の原因は内因性のものが多い

アシロ取材班

転倒の原因にはどういったものがあるのでしょうか?

福島教授

転倒の原因には、廊下が滑りやすかった、障害物が置いてあったといった『外因性』のものと、筋力低下やバランス能力低下など、本人の身体が原因となる『内因性』の2つが考えられます。

 

どちらの原因が多いかを調べるために、直接675人の高齢者の方に聞き取り調査を行いました。

 

その結果、内因性を原因としているケースも少なくないことが分かったんです。

 

転倒場所は屋内が6割程度、屋外が3割程度なんですが、居間や廊下、台所といった障害物がなさそうなところでの転倒が、屋内での転倒の6割を占めているんです。

 

つまりこれは、内因性のものを原因として転倒していることを意味しています。


引用:第89回日本整形外科学会学術総会(2016)における発表資料より

 

屋内での転倒が多く見られる

アシロ取材班

そうだったんですね。イメージだと、屋外での転倒が多いのかと思っていました。


引用:第89回日本整形外科学会学術総会(2016)における発表資料より

 

福島教授

たしかに、意外な結果です。600人以上調べましたが、外因性での転倒、例えば階段で転倒したのは22人、お風呂場での転倒は3人しかいませんでした。

 

もっとも、歩行能力が低下している人は転倒しそうな場所には近づきませんし、本人や、要介護者の場合は介助者が気を付けるといったことも要因として挙げられるでしょう。

 

一方、居間では198人の方が転倒しています。

アシロ取材班

危ないときに注意しないから内因性のもので転倒してしまうんでしょうか?

福島教授

転倒の原因のうち、内因性のものが44%、外因性のものが42%ですが、内因性の転倒での85%が姿勢の崩れ、つまりよろけることを原因としています。

 

何も知らないうちに体が崩れてしまったということです。

 

これは筋力が足りなかったり、バランス能力が低下していたりといったことが考えられます。

 

一方で、外因性の方は段差と障害物が多いですね。外因性のうち約5割を占めています。

 

他には自転車がぶつかってきたといった不可抗力と言うのも見られます。これは77件見られます。

 

ただし、自転車が接近してきて、それに驚いて倒れたというのは、自転車の接近がなければ転倒しなかったわけですから、外因性にカウントしています。

 

もっとも、運動能力が高い人は自転車が迫ってきたときには避けられます。一方で運動能力が低い人は驚いてしまって倒れてしまいます。

 

つまり、不可抗力の中には実質的に内因性を原因に転倒してしまったというケースも考えらえます。

 

屋内や内因性での転倒の可能性は年齢とともに高まる

アシロ取材班

その他転倒に関する特徴はありますでしょうか?


引用:第89回日本整形外科学会学術総会(2016)における発表資料より

 

福島教授

屋内と内的要因で転倒する割合は年齢とともに増加しています。

 

さらに、散歩の時間も比べてみました。内的要因の場合はほとんど外にでないのに比べて、外的要因の場合は散歩をたくさんしていることがわかります。

 

連続歩行時間に関しても、内的要因の場合は0分(外出しない)が50%以上ですが、外的要因の場合は1時間以上が多く見られます。

引用:「環境整備だけでは高齢者の転倒は予防できない(大腿骨近位部骨折675例に対する聴き取り調査から)」整形外科第68巻5号(南江堂).2017

福島教授

さらに、もともと独歩が可能だった人のうち、内的要因と外的要因で転倒したケースを比べて、病院から退院するときにどういった状態だったかを見てみました。

 

すると、外的要因の場合は独歩・杖が50%近くあるのに対し、内的要因は25%しかないことがわかりました。

 

このことから、内因要因で転倒した人は相当ギリギリのところで歩行していたということが考えられるんです。

引用:「環境整備だけでは高齢者の転倒は予防できない(大腿骨近位部骨折675例に対する聴き取り調査から)」整形外科第68巻5号(南江堂).2017

 

福島教授

つまり、転倒予防のことを考えると、バリアフリー化という環境整備だけでは不十分なんじゃないか、場合によってはバリアフリー化は運動機能の低下に結びつくのではないかということが分かるわけです。

 

内因性の転倒の原因

アシロ取材班

内的要因のふらつきや姿勢が崩れるのは、筋力の低下が主な原因なんでしょうか

福島教授

筋力の低下ももちろんありますが、加齢によるバランス能力の低下だと考えています。

 

転倒予防にはバランス訓練も介入すべきなんです。

 

トレーニングに関しては後ほど説明しますが、実はウォーキングだけでは不十分です。

 

ウォーキングには心肺機能の向上や脳の血流を活性化させるといった効果がありますので、健康維持のためには推奨できますが、転倒の予防という観点では、ウォーキングだけでは不十分です。

 

加えて、転倒による骨折を防ぐには、骨密度を増加させる必要があります。

 

これは、高齢者の研究ではありませんが、大東文化大学の学生5000名の骨密度を調査したところ、ジャンプなどによって強くかかとを打ち付けることで骨密度が高くなることが分かっています

 

バスケットボールやハンドボールなど、高くジャンプする必要があるスポーツでは骨密度が高くなるのはそのためです。

 

運動で骨密度を増加させるにも、やはりウォーキングでは不十分で、ジョギングや坂道での歩行でないと効果は期待できないんです。

 

なお、ロコモティブシンドロームといって、日本整形外科学会が提唱しているものがあります。

 

これは、運動器(骨・関節・筋肉・神経)の機能低下により移動能力が低下した状態を指していて、要介護になるリスクが高い状態であるとされています。

 

チェック項目が7つあるんですが、1つでもあてはまると気をつけなければならないといったものです。これに該当する高齢者も少なくありません。

アシロ取材班

やはり運動能力が低下して車いすになってしまうとADL(生活の質)が低下するので、これを未然に防がなくてはならないということですよね。

福島教授

要介護になった原因を見てみても、運動器障害が1位になっています。

 

足腰の衰えから骨折とか転倒とかになってしまいます。

 

さらに、要介護の原因には脳卒中や認知症も挙げられますが、これにも運動習慣は絡んできます。

 

特に脳卒中は糖尿病や高血圧が因子になりますが、予防には運動が有効になります。

 

大腿骨骨折の危険性

アシロ取材班

だからこそ、運動ができる状態を保たなければならないというのが大きい課題と言うことになりますね。

福島教授

そうですね。特に大腿骨の骨折には注意が必要です。

 

大腿骨を骨折する人は年間に18万人ぐらいです。

 

大腿骨を骨折すると、1年以内に10%の方が亡くなってしまいます。寝たきりになる確率は15%~20%にも上ります。

アシロ取材班

けっこう深刻な骨折なんですね。

福島教授

大腿骨を骨折してしまうと、身体全体の筋力や認知機能も落ちてしまいますし、肺炎とか別の合併症にもかかってしまいやすくなります。

 

寝たきりになることで肺の換気能力がおちてしまうからです。

 

大腿骨骨折は非常に怖いんです。平均寿命は延びましたが、健康寿命はあまり伸びていない。大腿骨骨折は健康寿命を短くする要因のうちの一つです。

 

大腿骨骨折を防ぐには

福島教授

大腿骨骨折を予防する方法として、骨密度減少を抑えて、適切な運動をすることが挙げられます。

アシロ取材班

適切な骨密度を保つことも重要なのでしょうか?

福島教授

はい、骨密度を減少させないことは重要です。

 

しかし、大腿骨骨折を受傷する原因は、転倒です。

 

転倒のリスクを増加させる要因として筋力・バランス能力・視力の低下や認知症などが挙げられます。

 

実は、骨密度というのは、7割程度がおおよそ20代までに決まってしまいます。

 

たしかに骨密度を増加させるのも重要ですが、残念ですが中年以降では3割しか補えないという感じです。

 

そして、大腿骨骨折を防ぐには、骨密度と同じくらい転ばないための防御能力も重要だと考えています。

 

骨が丈夫であることはもちろん重要な要素ですが、それと同時に転ばないということも重要視した方がよいでしょう。

 

大腿骨骨折を防ぐための運動

アシロ取材班

散歩しかできないといった高齢の方が転倒、ひいては大腿骨骨折を防ぐために出来る運動にはどういったものがありますでしょうか

福島教授

1番はジャンプしてもらうことなんですが、それは危ないので、推奨している運動がいくつかあります。

 

まず1つ目はダイナミックフラミンゴ療法です。

 

これは1分間手すりにつかまってもらって、片足立ちで静止するというものです。

 

着地していない方の足は5センチほど上げます。

 

片足立ちだと大腿骨への負荷が多くかかります。

 

ウォーキングでいうと53分したときと同じ程度の負荷がかかり、骨密度増加に寄与します。筋力向上も見られますし、バランス能力の向上も見られますので、これはおすすめです。

引用:厚生労働省2006.8.29記事 阪本圭三

 

福島教授

この運動は骨密度増加だけでなく、転倒予防にも効果的です。

 

転倒する瞬間には必ず片足立ちになるわけです。

 

普段からダイナミックフラミンゴ療法を行い、片足立ちに慣れておくと、転倒しそうになったときに防げる可能性が高まります。

 

福島教授

2つ目は、またぐ動作です。

 

これは主に腸腰筋を鍛える運動です。

 

奥深くにある筋肉なので見えにくいですが、重要なもので、非常に落ちやすい筋肉とされています。

 

以前、腸腰筋の太さと寿命を比べた研究があったんですが、腸腰筋が太ければ寿命が長くなるという結果がわかっています。加えて歩行速度があがることも明らかになっています。

 

また、腸腰筋が弱くなってしまうと、ちょっとした段差でつまずいてしまうんです。

 

これは足がなかなか上がらなくなってしまうことが原因です。

 

したがって、腸腰筋を鍛えるために「またぐ」動作が重要になります。

 

腸腰筋は劣化のスピードが速く、知らず知らずのうちに退化してしまうということも少なくありません。

 

またぐ運動では、10~20センチのブロックを置いて、それをまたいでもらいます。高さが5ミリ程度のものにつまずいて転倒することが通常ですから、10センチもまたげれば十分だと思います。

 

またぐ動作をしないと、ずっと平坦な所で生活していれば、なかなか足が持ち上がらないといったことにもつながります。

 

普段から鍛える方法としては、階段を登るときに足を意識して持ち上げるという動作をお奨めします。

福島教授

3つ目は、『正しい歩き方』です。

 

高齢者の場合は、膝を伸ばし切らないで、歩幅が小さい状態で、つんのめるようにして歩いているケースを見かけるかと思いますが、これは転倒の可能性があるので危険です。


 

 

 


正しい歩き方は、膝を伸ばし切ったところで、かかとから着地します。

 

その後、足底の外側から母趾に向けて体重が順番にのっていき、最後に母趾を中心として足のゆびで蹴りだします。

 

膝を伸ばすことで大腿四頭筋を使いますし、母趾を中心に蹴り出さないと、他の「ゆび」も同時に蹴り出すことができないんですね。

 

なかなか考えながらこの『正しい歩き方』を実現するのは難しいかもしれませんが、前後の人に靴の裏を見せることを意識すると、イメージしやすいかもしれません。

 

健康寿命を延ばすことが重要

アシロ取材班

先ほどもお伺いしましたが、大腿骨骨折によって亡くなっている人がいるというのはおどろきでした。

福島教授

たしかに、骨折からそのまま亡くなってしまうというのは、意外な結果かもしれません。

アシロ取材班

また、骨折によってその後の人生を棒に振ってしまうということも少なくないと考えています。

 

たとえば介護ができない家だと、グループホームとか老人ホームに入らざるを得ない状況があると思うんです。そうなると金銭的にも負担がかかってしまう。

福島教授

そうですね。そのためには健康寿命を延ばすことが重要であるといえますね。

 

健康寿命を短くするものの1つには脳卒中などが挙げられます。

 

脳卒中の原因の1つが運動不足だと先程お伝えしましたが、やはりそれ以外にも血圧のコントロールや食事療法なども重要になってくるかと思います。

 

長野県では保健所を中心に啓蒙を行った結果、脳卒中の発生が少なくなりました。

 

しかし、自治体が中心に生活指導などの健康増進啓蒙活動などを行っても、効果が出るまでは長い期間がかかると言われているんです。

 

ただ、先程お伝えしたような運動によって、転倒を予防すれば、比較的短期で健康寿命を延ばす効果が見込まれます。

 

高齢の方の場合は、負荷の大きい筋トレは無理なので、日常的な動作から、先程お伝えしたような運動を取り入れてもらえればと思います。

この記事の取材協力
大東文化大学 スポーツ・健康科学部 スポーツ科学科
福島 斉 教授
大東文化大学スポーツ・健康科学部教授。整形外科専門医・日本臨床スポーツ医学会公認ドクターとしてスポーツ現場にもたずさわる傍ら、運動により健康寿命を延ばすための講演や地域での教室も行っている。

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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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