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公開日:2020.10.20  更新日:2023.3.27

健康寿命を延ばすチャンプルースタディとは?|琉球大学等々力英美先生にインタビュー

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日本人の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳となりましたが、問題となるのは健康寿命ではないでしょうか。

健康寿命とは、支援や介護を受けるなど日常生活を制限されることなく、健康的に生活できる期間のことをいい、平均寿命より10年ほど短いとされています。

健康寿命を延ばす方法はたくさんありますが、その1つが「チャンプルースタディ」と呼ばれるもの。

チャンプルースタディとは、沖縄野菜が主な食材となっている伝統的な沖縄食を基にして現代的なメニューを開発し、それを対象者に食べてもらい、その健康への影響を評価する食事介入研究です。

今回は、チャンプルースタディの提唱者であり、2016年まで琉球大学大学院で公衆衛生学を研究されていた等々力英美准教授(現放送大学客員教授)にインタビューを行いました。チャンプルースタディに着目した経緯のほか、チャンプルースタディにどういった効果があるかについてまとめています。

等々力先生の研究内容

(インタビュアー:ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部 酒井)

酒井:まずチャンプルースタディに着目されたきっかけやタイミングについて教えてください。

等々力:もともと私は公衆衛生学の中の疫学を研究していました。疫学では健康がキーワードになるわけですが、その中でも主に病気にならないようにするにはどうするかという点に着目しています。

健康であるためには、住んでいる環境などさまざまな要素がありますが、食事もその1つです。そして食べ物の中でも、現在、80歳代の沖縄の長寿高齢者が食していた伝統的な沖縄食の組み合わせ(食事パターン)には長寿性があることが10年ほど前からデータによって明らかになっていました。実際に、沖縄の85歳以上の方の平均余命に関して言えば、全国でトップクラスです。

ただし、50、60歳になりますと、平均余命の全国ランキングが下がってしまうのですが、これには何かしらの原因があるわけです。その原因を解明しようという中でいろいろ調べていくうちに、80歳以上の方が沖縄の伝統的な食事をとってらっしゃるので、食事が影響している可能性があるという仮説を立てたんです。

その仮説を証明するために、まずは今の80歳以前の方がどういった食事をしていたのかを調べました。約70年前、沖縄は米国の統治下にありましたが、食料がなかった現状を知るために米軍が食事調査をしていたんです。そのデータがワシントンDCのアメリカ公文書館にある文献に記録として残っていて、今の80歳以上の方が若い時にどういった食事をとっていたか判明しました。

当時の食事は主に芋や汁物を中心としたもので、これを「沖縄型の伝統的な食事パターン」と呼んでいます。あまりにもシンプルで若い世代の人がそのまま食べるのは困難ですから、普段の食事に取り入れやすい形にして食べてもらうことで、血圧が下がる、体重が減少するといった健康にプラスの効果があることが分かれば、当時の伝統的な食事が長寿の要因になりうるだろうということが分かるわけです。

チャンプルースタディの実施内容

酒井:どのようにその仮説を検証しましたか?

等々力:検証するために、介入研究を行いました。介入研究というのは、健康と因果関係があると推測される要因、それは今回のケースで言えば食事ですが、それを集団に一定期間適用して観察し、健康に対して影響があるかを実験的に確かめる方法です。

ただ、先程もお伝えした通り、沖縄の伝統的な食事パターンというのはあまりにもシンプルですから、一定期間食べてもらうのも難しい側面があります。そこで若い人にも食べてもらえるような内容で、健康が改善する可能性が高いであろうと予測されるメニューを、料理研究家の方々と共同で考えました。

そして、那覇市を中心とした小学校や沖縄のご家庭のほか、民族や住んでいるところが違う人にも効果がでるか判断するために、沖縄に在住しているアメリカ人の方に加えて、東京や横浜に住んでいる方にも食べてもらいました。その結果、健康にプラスの影響が出たことが分かりました。これがチャンプルースタディの1つの成果です。

酒井:通常の食事と、チャンプルースタディでの食事では、調味料が違うのでしょうか、それとも、食材そのものが違うのでしょうか

等々力:「ゴーヤは1日何グラムぐらい摂らなければならない」といった細かいメニューが決まっているわけではありません。

チャンプルースタディには、1食当たりの野菜の量を250g摂るといったガイドラインがあります。人の食事は毎日同じものではありませんし、それを実際に作るのは各家庭のお母さんですから、細かいメニューを作ったら長続きしません。そのため、ガイドラインはとても簡単なものにしています。決めてあるのは、野菜の量やカツオ出汁を多くすること、食塩の摂取量上限や、お豆腐を一定量摂るとか、そういったものです。

チャンプルースタディの主なテーマは食事パターンを変更することにあります。例えば日本食であれば、お味噌やお醤油を使うのが主な食事パターンです。イタリアやスペインといった地中海食でいえば、オリーブオイルやトマトなどが挙げられるでしょう。

つまり、決まったメニューではなく、パターン化された食事の内容があるわけです。それと同じようにチャンプルースタディでも、沖縄の伝統的な食事パターンを現在の人も食べられるようなメニューにして、そのガイドラインを守って食べてもらえば、体重や血圧などが改善したという結果が分かったんです。

酒井:では、伝統的な沖縄型の食事パターンを守れば、日本のどこにいる人でも同じような効果が得られるということでしょうか?

等々力:基本的にはそうなのですが、公衆衛生では集団としてどうかと言うことを考えます。例えば、ある1人に沖縄の伝統的な食事パターンを摂ってもらっても健康が改善しない可能性もあります。一方、集団100人のうち、8割以上の人で改善が見られれば、効果があるだろうと考えるわけです。例えば、たばこを吸うと肺がんになる確率が高くなる可能性がありますが、毎日たばこを吸っていても肺がんにならない人もいます。しかし、確率的にはたばこを吸うと肺がんになる確率が高いということで、たばこと肺がんの因果関係が分かるわけです。

チャンプルースタディを自分の食事に取り入れる方法

酒井:それでは、これからチャンプルースタディを自分の食事に取り入れたいという人は、どういったところから始めればよいんでしょうか?

等々力:ガイドラインを守った食事をしていただくということです。しかし、ガイドラインといってもそんなに難しいことではありません。1週間の平均で一食あたりの塩分を2.5g以内にして、抗酸化作用や食物繊維の多い沖縄野菜を1食250g食べて、カツオ出汁を取ってもらうのが基本です。さらに言うなれば、魚や食物繊維が多いサツマイモを食べたり、豆腐も摂ってもらったりするとよいでしょう。

酒井:チャンプルースタディの中で、実際にどのようなメニューが考案されましたか?

等々力:ウンジャナーの白和えとか、冬瓜を蒸したものなんかがあります。ただし重要なのは食事の組み合わせです。1つのメニューだけで健康に影響するとは言えません。人間は毎日違うメニューを食べるわけですが、その食事の組み合わせが健康にプラスになるかマイナスになるかという考え方が重要です。先程お伝えしたように、チャンプルースタディのガイドラインに沿って、沖縄の野菜を中心とした食事をとってもらえればと思います。

【チャンプルースタディについてもっと詳しく知る】

チャンプルースタディとは

チャンプルースタディのメニュー

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ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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