今回は大阪府立大学獣医臨床センターの今井泉先生に「ペットの終活」をテーマに取材させていただきました。
今井先生は主にグリーフケア(心のケア)を研究されており、セミナーや遺族向けのコミュニティでも活躍されています。
ペットの終活はいつ何をすればいいのか、そしてペットが亡くなった際にはどのようにケアをするといいのかじっくり聞いてきました。
(インタビュアー:ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部 酒井)
酒井:まずはペットの終活について、どのようなことをするのか教えてください。
今井:例えば、ペットに何か異変を感じて診察に来られたときに、お別れを意識する方は多いと思います。そういった場合、一緒に暮らしているペットへの気持ちを予め整理しておくことが終活になり得るかもしれません。ペットへの気持ちとは、具体的には次のようなことです。
ペットと暮らすことはあなたにとってどんな意味がありますか?
ペットに対してあなたはどうしてあげたいですか?
ペットのことをあなたはどう思っていますか?
お別れについて家族で話し合うことも大切ですが、自分の中で考えておくだけでも違ってくるでしょう。
酒井:悲しいことですが、病気が見つかるとお別れの時を意識せざるをえませんよね。
今井:きっかけとしては、腫瘍が見つかるケースや心音に雑音があるケースなど様々です。病気について獣医師の話を聞いたり情報を集めたりすることで、一緒に過ごせる時間におおよその見当がつきます。そういったことを知っておくことが、良いお見送りに繋がるのではないでしょうか。
酒井:最期の時間を大切に過ごすためには正しい情報と判断が必要ということですね。終活を始めるべきタイミングはありますか?
今井:ペットの寿命は伸びてきていますし、不慮の事故で亡くなることもありますので「この歳に終活を始めるべき」と一概に断定することはできません。しかし、加齢に伴う変化を感じたときにお別れを意識してもよいのかもしれませんね。
例えば、猫であれば高いところに登れなくなったり、便や尿の様子が違ったりとわかりやすい変化が見受けられるでしょう。終活を意識して形式的になるよりも、日常生活の変化の中でお別れを意識していくとよいかもしれません。
酒井:ペットが亡くなったときには大きな精神的ダメージを受けると思いますが、そのダメージを抑えるためにできることはありますか?
今井:死別に対して精神的・身体的な悲嘆反応が出ることをグリーフといいます。お別れの事実を受け止められない状態に陥ってから、「あぁすればよかった」「こうすればよかった」と後悔が出てきます。
精神的ダメージを抑えるためにも、事前に病気の情報やお見送りの方法などについて念入りに調べておくとよいでしょう。病気を患うペットにどのようなことをしてあげられるのか、どのくらいの時間が残されているのかなどを知ることで後悔が少なくなる可能性があります。また、お見送りした後になって他の方法で送ってやるべきだったと後悔することもあります。実際に「最後ぐらいお家に連れて帰ってあげればよかった」と後悔されていたケースもありました。お辛い気持ちは痛いほどわかります。お見送りについては後回しにしがちですが、まだ元気なうちに考えをまとめておいた方がよいかもしれません。
酒井:「最適な方法があったかもしれない」「もっと知識があれば良くしてやれたのに」と考えはつきませんよね。具体的にはどのようなことを検討しておけばよいのでしょうか?
今井:ペットが亡くなったとき、どのようにお見送りするか把握しておくとよいかもしれません。例えば病院で亡くなった場合、エンジェルケアといって体を可能な限りきれいにしてくれます。希望される方には、多くの病院は段ボール製の棺が用意されており、そこにご遺体を入れて帰宅される場合が多いです。
ご遺体のお見送り方法として、主に行政に引き取ってもらい火葬してもらう方法と動物霊園で行う方法があります。行政の場合は、お骨は拾えず、その時に行政が扱っている動物のご遺体と一緒に火葬され行政にある供養塔に収められます。動物霊園の場合は、霊園によって様々ですので調べてみることをおすすめします。
また、自分がペットに対してどのような気持ちを持って生活していたか、どのような気持ちでお世話をしていたかを明確にすることも大切です。そこを踏まえてお見送り方法を考えることで「だからこそこうやって送ってやりたい」といった気持ちが生まれ、選択への確信が増すはずです。
酒井:続いてグリーフケアについて教えてください。
今井:グリーフケアというと、援助している人がグリーフ状態にある人を手当てするイメージがあるかもしれません。しかし、実際にはケアされる当事者自身の力でグリーフをケアしていきます。このようなケアの方法をセルフヘルプといいます。私が担当する「くぅくぅの会」は、ペットを亡くされた方が集まりお互いの話を聞き合う場なのですが、死別に後悔を持つ方の価値観が変わっていくシーンが多く見受けられました。
酒井:具体的にはどのようにグリーフ状態から回復していくのでしょうか?
今井:亡くなった後悔ばかりに目を向けていたが、一緒に暮らした思い出に価値を見出せるようになったとか、心の中にペットがいてくれることに価値を見出せるようになったとか。皆さんペットと過ごした大切な日々に意識を向けています。また、中には死別の悲しみを親戚などの身近な人に相談しづらいという方もいらっしゃいます。その方は、「くぅくぅの会」で似た体験をした仲間に出会い、何年も抱えている思いを打ち明けることで、やっと気が楽になったと仰っていました。
酒井:悲しみを共有することでグリーフから回復していくのですね。まずはどんな方に相談するのがいいでしょうか?
今井:闘病を共に戦った担当医に相談するとよいかもしれません。専門のカウンセラーを紹介してくれる場合もあるでしょう。
酒井:ペットと死別してペットロスの状態になった場合、悲しみを癒すために新しいペットを飼うケースもありますよね。新しいペットを迎えるにあたって気をつけるべきことはありますか?
今井:新しい子と死別した子を比べてしまうケースが多いようです。飼い主が落ち込んでいるからと気を遣い、周りが「新しい子を飼ってみたら?」と勧める場合があるかもしれません。しかし、新しい子の飼育を進めることで、かえって酷く傷つく方もいらっしゃいますので注意が必要ですね。
酒井:新しい子を迎えることが良い選択肢であるとは一概には言えないということですね。
今井:また、家族で死別を体験した場合には新しいペットを迎えるタイミングは慎重になるべきでしょう。例えば、お父様が死別した子に対して気持ちの整理を済ませていたとしても、お母様はまだまだ時間がかかるというケースもあります。
酒井:なるほど。それぞれの気持ちを大切にすることが、新しいペットのためにもなりそうです。ちなみに、死別後に新しいペットを飼う方の中には、ペットショップで購入するよりも保護犬を引き取るケースが多いようですね。
今井:そうなんです。皆さんネットで保護犬や保護猫の情報を拝見しているようで「うちの子の小さい頃に似ている」などと親近感を持ち、里親になられると聞いたことはあります。ただし、保護犬や保護猫には保護されるまでに様々は飼育放棄に至る事情や飼育環境に問題がある場合があります。様々な生い立ちがあることを覚えておいてください。躾が全くできていない子もいますから、飼うにあたっては期待通りにいかないこともあると知っておきましょう。
酒井:最後に、現在つらい思いをされている方にメッセージをいただけますでしょうか。
今井:「くぅくぅの会」のように、ペットを亡くした方が集まる会は非常に少なく、出向くのは大変かもしれませんけど、まずはそういったところへ行って話をしてみるのがよいかと思います。
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【くぅくぅの会】
少人数で動物の喪失や死別の想いを語り合う場です。スピリチュアルケアの専門家が進行役を努めているため、安心して語り合う環境が整えられています。
開催地:大阪
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お問い合わせ:inochinocare.apply@gmail.com
【ペットラヴァーズ・ミーティング】
ペットラヴァーズ・ミーティングはペットを亡くした家族のためにセルフヘルプ・グループです。3ヶ月に1度の「ミーティング」で、悲嘆の中にいる方たちが互いに支え合う場を提供しています。
開催地:東京
URL:https://www.ddtune.com/plm/
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