笑顔相続コンサルティング株式会社代表取締役の一橋香織さんにインタビューをさせていただきました。
一橋さんはその他にも、笑顔相続サロン®本部代表や全国相続診断士会会長など様々な肩書きを持っておられ、相続・終活の第一線で活躍されています。
今回は、相続・終活どちらにも精通されているからこそできるお話をたくさん聞いてきました。
特に、多くの方が悩みがちな「両親に終活・相続の話を上手に切り出す方法」も具体的に教えていただけましたので、今悩んでいる方は必見です!
(インタビュアー:ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部 酒井)
酒井:本日はよろしくお願いいたします!
一橋:よろしくお願いいたします。
酒井:まず初めに笑顔相続サロン様のご紹介をしていただいてもよろしいでしょうか?
一橋:笑顔相続サロンというのは、笑顔相続コンサルティング株式会社が母体となって運営しているサロンです。「お客様が気軽にサロンに遊びに来るような感じで終活・相続の相談ができるように」ということで、笑顔相続サロンという名前にしています。
私の弟子が全国に120人ほどいて、その中から15人ほどがのれん分けしまして、全国15か所で開所しているという状況ですね。ゆくゆくは47都道府県すべてに笑顔相続サロンを設置する予定です。
酒井:現在のような体制となっているのは、終活というものが世間に浸透してきたという影響もあるのでしょうか?
一橋:むしろ終活というよりは相続ですね。そもそも一般の方というのは、どこまでが終活でどこまでが相続かというのは理解されていなくて。また終活と相続って複雑に絡み合っているので、「ここからが終活でここまでが相続」っていうように、うまく区切りのついているものではないんですよ。どちらかというと重なり合いながら進んでいっているようなイメージですね。
酒井:そもそも終活とはどのようなことを言うのでしょうか?
一橋:終活というのは「終わる活動」と書きますよね。ただ「終わる活動」とは言いますけども、「今までの人生を振り返って、これからの人生をより良く生きていくための活動」が終活、というふうな捉え方を我々終活カウンセラーではしていますね。
ちなみに私の友人であり、終活カウンセラー協会の代表理事を務める武藤頼胡(むとうよりこ)さんが「終活」という言葉を世の中に広めた第一人者です。
酒井:なるほど。ちなみに今では終活関連の資格がさまざまありますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
一橋:それは、それぞれの団体が自分の好きな名前を付けているというような感じですね。ただ色んな資格がありますけども、なかでも「終活カウンセラー」は2万人を超えていて、終活系では一番メジャーで有名な団体ですね。
酒井:そんなに大規模な団体なんですね!少し話は変わりますが、終活は相続とどのような関係があるのでしょうか?
一橋:人の死亡率は100%ですので、亡くならない方はいらっしゃらないわけですよね。今は多死社会と言われているように色んな選択肢が増えてきて、昔のように「人が亡くなるとお家でお葬式をあげて先祖代々のお墓に入る」という時代ではなくなってしまっていて。お葬式ひとつとっても、密葬だったり家族葬だったり、それこそ葬式そのものをしないで偲ぶ会しかしない、ということもありますよね。
そのような現状もあって「自分が亡くなったときに一体誰を葬儀に呼ぶのか」「お葬式そのものをするのかしないのか」「費用はいくらかけるのか」などを生前のうちにしっかりと決めておかないと、残された子供さん達がどうしたらいいのか分からないということになるわけです。
多死社会になってきて、選択肢が多いということはそれだけ「自分がどういうふうにするか」っていうことも決めていかないといけないということで。終活というものもしっかり考えなきゃいけない、という状況にもなってきたと考えています。
酒井:笑顔相続サロン様では、特に「笑顔」というものを強調されている印象を受けたのですが、どのような理由があるのでしょうか?
一橋:元々うちは「相続診断士事務所笑顔相続サロン」なんですね。相続診断士という相続の資格がありまして、今全国で4万人を超える方が取得しているんですけど、私は相続診断士のトップとして全国相続診断士会の会長を務めています。
この相続診断士という資格で笑顔相続というものを掲げているんです。こちら商標登録もしています。一般社団法人相続診断協会で代表理事を務める小川先生が、この笑顔相続というのを最初に言われた方でして、「笑顔で私たち相続診断士は日本から争う相続を一件でも減らし、笑顔相続を普及していく」というのを理念としています。この「笑顔相続サロン」という名前も小川先生に命名していただきました。
酒井:そのような背景があったんですね!ちなみに、実際に相談される方は争いに関する悩みが多いのでしょうか?
一橋:以前は揉めてから来られる方が非常に多かったですね。揉めてから来られる場合、これは弁護士さんの役目になるんですね。うちは士業と業務提携していますので、仲良くさせていただいているグループの弁護士の先生にお願いして、私と弁護士の先生とで一緒に問題解決するという形で取り組むようにしています。
ただ最近は、揉めてから来る方よりも「揉めるかもしれない」「このままだとうちの家は揉めるかもしれないので、なんとか揉めないようにしたいんです」というご相談が非常に増えてきて。昔はどちらかというと7:3で揉めている方が多かったんですけども、今は揉める前にご相談に来られる方が6割、揉めてから来られる方が4割と、逆転してきましたね。
酒井:相談状況が変わってきているというのは意外でした。そこにはどのような背景があると考えられますか?
一橋:マスコミの力ってすごく大きいと思うんですよ。私もテレビでパネラーとしてお話しさせていただいたりしているんですけど、そういうふうにテレビで非常に取り上げるようになってきて。さらに雑誌の取材なども毎年のように受けておりまして、必ずそういう話題で取材が来るんですね。
マスコミやテレビの力によって、「相続って他人ごとではなく、親が生前にしっかり考えていかないと自分達の子供が揉めてしまうんだよね」っていうことが、一般の方にも徐々に浸透してきているからじゃないのかなと思うんです。
今回の取材も「揉める前にしっかりと親が対策をしてほしい」ということを一般の方に知っていただきたくて、広く発信したいという思いから受けさせていただきました。
酒井:貴重な機会をいただきありがとうございます。
酒井:終活については「親の終活をきっかけに始めた」という声が多いように感じるのですが、笑顔相続サロン様の方でもそのような実感はありますか?
一橋:私はセミナー講師として年間60~100本ぐらい講演を行っているんですけども、必ず親御さんが来ているかというとそうではなくて、どちらかというと「自分の親にやってもらいたいから聞きに来た」というお子さんが多いですね。
ただこれはすごく難しくて、お子さんから親御さんへ終活の話・相続の話を切り出す場合、普通にやるとすべて失敗に終わります。親からすると、子供に自分が死んだ時の話をされるって非常に気分が悪いんですよね。
なので私はセミナーでも必ず伝えているんですが、「伝え方さえ間違えなければ親御さんも聞く耳をもってくれるので、言い方を工夫するだけで結果が変わってくるよ」という話をしています。そこさえしっかり分かっていれば、そうそうおかしなことにはならないんじゃないかなと思っています。
酒井:「伝え方一つで結果が変わる」というのは確かにそうだと思いました。トラブルを避けるための伝え方としては、例えばどのようなものがありますか?
一橋:例えば、エンディングノートというものがありますよね。エンディングという名前なので、一見よくないように聞こえるかもしれません。ただ「エン」を「縁」と捉えて、「終わるノートではなく縁が続いていくノートだよ」と親御さんに説明してあげるとか。
あとは、親御さんに「書いて」とただ頼むのではなく「一緒に書こう」と言うことですね。「俺の名前はなんで○○って名付けたの?」「親父の名前は誰が付けてくれたの?」とか親御さんに色んなことを質問して一緒にワイワイ言いながら書けば、それを嫌だと思う親御さんってあんまりいないと思うんですね。
あと日本人って遺書と遺言をはき違えていて、遺書は「亡くなる方が亡くなることを前提に書くもの」であり、遺言は「15歳以上の判断能力がしっかりしている人が書くことができるもの」とそれぞれ違うものなんです。なので「遺言は亡くなる方が書くものではない」ということを親御さんに理解してもらう、というのも大切です。
あともう一つ、親御さんに対して感謝の言葉を述べましょうと話しています。「今まで育ててくれてありがとう」「俺が今幸せなのはお袋と親父のおかげだよ」と伝えてから、「だからこそ弟とはうまくやっていきたいけど、このままだと争いになって親不孝になるかもしれないので、親父にもしっかり考えてもらいたいと思っているんだ」というように切り出せば、親御さんも気分を害さないと思います。
酒井:なるほど、ありがとうございます。ちなみにエンディングノートについては「書ききるのが難しい」という声もありますが、実際のところはどうでしょうか?
一橋:日本人ってすごく真面目な民族なので、みんな最初のページから書き始めるんですね。すると必ず書けないページが出てくるわけですよ。どんなエンディングノートを買っても。
例えば私の場合、子供がいないので「お子さんのことを書きましょう」というページがくると「子供がいないからそもそも書けない」となるわけですよね。今の80代・90代の方だと「中学・高校・大学の時のこと」というページが出てくると「そもそも行っていない。書けないところばっかりじゃないか」と言って書かなくなっちゃうわけですよ。
なので、私は「書けないページはどんどん飛ばし、書きたいところや興味があるところから書いてくださいね」と教えています。そもそも書きたくないページや書けないページを書こうと思っても無理ですし、それを「書かなきゃいけない」と思うからしんどくなってしまうわけですからね。
あとは、いつまでに書かなきゃいけないということはありませんので、「一気に書き上げようとせず、何ヶ月かかっても何年かかっても構わないんですよ」ということも伝えています。こういうことを言うと、「あぁ気が楽になったわ」なんて言って書き始める方がいらっしゃいますね。
酒井:確かに、そういうふうに考えられると気も楽になりますよね。また、もし終活をする方が身体を壊してしまった場合、終活を続けることは難しいのでしょうか?
一橋:やはり続けるのは難しいんじゃないですかね。うちの母親の話でいうと、余命宣告されてしまったんですね。余命宣告された人って、日々死の恐怖と戦わなければいけないわけですよ。そういう場合、よほどの精神力がある方であればできるかもしれないけど、普通の方は無理だと思うんですよね。結果、母が亡くなったあと私は非常に困ったんですけども。「聞いておけばよかった」ということはいっぱいあったものの、聞くに聞けなかったんです。
だから「絶対」という言葉は私は使いたくないんです。本音で言わせてもらうと絶対書いてほしいんですけども、それによってハードルを上げてしまうので、あえて私は使いたくなくて。なので「元気なうちにちょっとでも書き進めておいた方が皆さん達のお子さんが困らなくて済むと思うので、やっておいた方がいいと思うわよ」というような感じですね。
あと、これはお子さん達に勧めているんですけど、お母さんやお父さんが筆圧が弱ってきていて書くのが億劫な場合には、ヒアリングをして代わりに書いてあげるのもいいと思います。別に自筆証書遺言を書けといっているわけではないので、代筆してあげてもいいわけじゃないですか。エンディングノートには法的効力もありませんし。
酒井:終活をするには、まずはエンディングノートを書くところから始めればよいのでしょうか?
一橋:エンディングノートから始めるというよりも、私の場合は「まずは家族でコミュニケーションを取るところから始めてください」と伝えています。「何のために、そして誰のためにそのノートを書くんですか?」ということですよね。そもそも家族の仲が疎遠で、エンディングノートを書いていることさえ伝えていないというような状況では、書く意味がなくなってしまうということになるわけですよ。
例えば、遠くに住んでいて1年に1回も会わないし電話で声を聞くこともほとんどない、というのであれば、「まずは家族でコミュニケーションを取るところから始めてみませんか?」「先祖に感謝するところから始めてみませんか?」と伝えたいですね。
十代遡ると、1024人のご先祖様がいるわけです。地震・津波・飢餓・疫病・世界大戦のなか死なずに生き残ってくれたからこそ、命が繋がって今ここにあなたが生きているということにまず感謝すること。「ご先祖様がいたから今自分がここにいるんだ」と感謝して、家族でコミュニケーションを取ることを始めれば、終活をやろうという気になると思います。
酒井:なるほど、ただ書けばいいというものではないですからね。実際に「終活を始めたことで家族のコミュニケーションが増えた」という声も多いですか?
一橋:多いですね。私はエンディングノートの書き方セミナーでは必ずそれを言っているので、私のセミナーを受けた方は「家族とものすごく向き合う時間が増えました」「疎遠だった息子が戻ってきてお墓参りしてくれてすごく嬉しかった」とか、そういった声がありますね。
酒井:士業の先生とチームを組んでいる笑顔相続サロン様ならではの強みを教えてください。
一橋:うちの場合は、終活・相続の専門家の士業の先生なんですね。少なくとも私は相続診断士の資格を持っている方としかお付き合いをしないんです。相続診断士の資格を持っている方でないと笑顔相続の理念を共有できませんし、士業の先生によってはクライアントの方を金儲けの手段としか見ていない方もいらっしゃるので。
私が相続の仕事をし始めたのは今から12年前になりますが、これまで3,000件以上の相談に乗っていて、多分この業界ではそこそこ知られていると思います。それと私の弟子は相続診断士のなかでも特に優れたエリートで、120人のなかには弁護士・税理士・公認会計士・行政書士・司法書士など、さまざまな職種の方がいます。基本、私は自分の弟子と組んで仕事をしているので、まずお客様が困らないというか。
弟子には共通理念として「お客様に本当に喜んでいただいて『ありがとう』と言われてからお金を取りなさい」と徹底的に教えているので、そういう意味で他の事務所とは格段に違うかなと思います。お客様からは「値段が安い」ともよく言われますね。遺言執行報酬なんかも信託銀行さんなどに比べて全然安いと思いますよ。
結局、相続の仕事って士業の先生と組まないとできないんですよ。「揉める」という文言が出たら弁護士、相続税であれば税理士、相続登記であれば司法書士の先生方の力が必要になるわけです。うちはプロフェッショナル中のプロフェッショナルの先生方と組んでやっているので、「生前から死後まで終活・相続すべてにおいてワンストップでそれぞれの道の専門家がやれる」というのが強みかなと思います。
酒井:これで質問は以上となりますが、なにか強調して伝えたいことがあればお願いします。
一橋:強調して言いたいところは、日本人として大切な今までのしきたりなどを是非お子さん達に継いでいってほしいということです。お墓参りの大切さや先祖を供養することの大切さなどを教えていくことで、家族の絆を深めることにもなりますしね。
家族の絆が深くてしっかりコミュニケーションを取れている家というのは、それこそ「絶対に揉めることはない」と私は信じています。「ご先祖様や親を大事しない兄弟は他人の始まり」というように、しっかりとした絆がなくコミュニケーションが取れていないお家というのは、どうしてもやっぱり揉めやすいかなというふうに思います。
なので終活をやるにはまずはそこから取り掛かっていただき、そのあとにエンディングノートに取り掛かっていただければ、必ず笑顔で相続を迎えられて、家族が仲良く子々孫々まで暮らしていけるようなご家庭になるのではないでしょうか。
酒井:それでは最後に終活を検討している方にメッセージをお願いします。
一橋:これから終活を検討されているというのが何歳か分かりませんが、30歳であろうが20歳であろうが自分が検討された時がやりどきだと思うんですよ。実際に私のお客様でも、20歳で終活をやってらっしゃる方もいらっしゃいます。
だから年齢は関係ないと思うので、「これからやろう」と思ったその瞬間から取り掛かるということですね。特に今はコロナという問題があって、岡江久美子さんや志村けんさんの例のように、ご家族に言葉をかけることもできずに、御遺骨になるまで家に戻ってくることができないこともあるわけですよね。そのときに「あの時ごめんなさいと言っておけばよかった」「ありがとうと伝えればよかった」「あなたと暮らせて幸せな一生だったと言えばよかった」と思っても、もう遅いわけですよ。
人生、何がいつどこで起こるかわからない。まさかと思うことが起こるかもしれない。こういうご時世ですから、なおのこと「やらなきゃ」と思ったこの瞬間から是非取り掛かっていただければと思います。