宮崎県都城市おくやみ窓口を担当されている佐藤さんにインタビューをさせて頂きました。都城市の終活に関する取り組みを中心に、終活に注力する経緯や市民の反響などを伺います。
(インタビュアー:ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部 酒井)
酒井:本日はインタビューの機会を頂きありがとうございます。まず初めに、佐藤さんに自己紹介をお願いします。
佐藤:よろしくお願い致します。私は都城市総合政策課の佐藤泰格と申します。都城市では「おくやみ窓口」というものを設置しておりまして、死亡手続きの相談やサポートを実施しています。
酒井:都城市では終活に関する取り組みに力を入れているそうですね。都城市ではどのような取り組みをしていますか?
佐藤:都城市では「おくやみ」というイベントを広範囲でサポートしております。死亡に関する手続きに着目して窓口を設け、相談者様の状況を一つ一つイメージしながら手続きを進めております。どこまでを終活と捉えるかという部分はありますが、複雑で大変な死亡手続きを簡易的にすることを目的としたサポート、と捉えて頂ければと思います。
酒井:市が全面的にサポートしてくれると安心感がありそうですね。具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
佐藤:活動のコアとなる部分としては、マイナンバーカードを活用したシステムによる手続きの簡素化を図るとともに、一元的な相談を担っています。
酒井:都城市は終活を先進的にサポートしているのですね。実際に終活をしている方に寄り添う姿勢が素晴らしいです。
酒井:ちなみに、自治体によって終活の定義は若干異なるようですが、都城市では終活の定義付けはしていますか?
佐藤:終活について定義付けはしていませんね。都城市では「おくやみ」というイベントに対して全面的なサポートを行うことを目的としています。市民からのニーズがあれば改善・検討していきます。
酒井:おくやみ窓口を設置した経緯を教えて頂けますか?
佐藤:実は死亡時の市役所手続きに関して、議員さんも含め、「非常にわかりにくい」「大変だ」とのお声を多くの方に頂きました。
酒井:確かに、死んだ本人でなければ難しい手続きもありそうです。
佐藤:死んだ本人でなければ状況がわからない場合も多々あります。また、多ければ10以上の死亡手続きを行わなくてはならないこともあります。手続きの度になくなった人の名前を書き続けるわけですから、尚更大変です。
酒井:死亡した場合の手続きは種類が多いのですね。
佐藤:最初に保険の部署に行って手続きを済ませ、住宅の部署に行って手続きを済ませ、また他の部署に行って手続きを済ませ…を繰り返すことになります。さらに言うと部署を訪れる度に「私は亡くなった人とこういった関係です」と一から説明しなくてはなりません。
酒井:なるほど、、それは手続きをする側の人はもちろん、市役所の人も大変ですね。
佐藤:亡くなった人についてお話を何度も話したり書いたりすることは遺族の負担になりますし、市役所としても効率化を促すべきであるとの考えがありました。また、市長が、住民に寄り添った次世代の窓口を構築すべきと考えていましたので、大日本印刷株式会社さんとの実証事業で、本人からのヒアリングで必要な手続きを特定し、申請書を出力するシステムを構築しています。お名前などが打ち出された状態で手続きを行えますので、相当の負担軽減がなされていると感じます。
酒井:それは素晴らしいですね。死亡手続きの簡素化など、実務的な終活サポートは珍しいように感じます。
佐藤:実はマイナンバーカードを活用した窓口は全国初めての取り組みです。おくやみ窓口では市役所で必要な死亡手続きに関してほとんど網羅をしています。ただ、市役所の窓口で市役所内の手続きを完了した方が再び市役所に戻ってこられるパターンがありまして。民間の手続き、いわゆる銀行などで証明書が必要だよと言われて、取りに戻られるようなケースも結構多くございました。
酒井:死亡手続きは市役所の手続きだけではないのですね。民間の手続きを取るために、二度手間になってしまう方も多いのかもしれません。
佐藤:その通りです。なので、市役所の縦割りをなくしてオール都城で死亡手続きをサポートできるように励んでいます。地元の企業ですが、地銀さんとか、JAさん。他には電力会社さんとか、ガス会社さん。こういったところに協力を頂きまして、死亡の際に必要な手続きと必要なものをそれぞれ伺いました。それらの情報を一冊にまとめて「おくやみハンドブック」を作成しています。
酒井:おくやみハンドブックを読んでおくことで、手続きを効率的に進められますね。ネット上では「亡くなった人の携帯を解約したい」という声がたまに見受けられますが、おくやみハンドブックには銀行や電気会社の他にも手続きに関する情報は載っているのでしょうか。
佐藤:おくやみハンドブックには携帯会社さんの情報も入っていますよ。亡くなった人の携帯を解約するために必要な書類を予め確認することが可能です。死亡に関する主要な手続きを網羅するとともに、粗大ゴミの問い合わせはこちらにしてくださいとか、空き家に関してはこういう制度があるのでご活用くださいとか、様々な方面の情報を掲載しています。ゴミ対策であるとか空き家対策であるとか、死亡に際して市が抱える課題を解決するようにもなっています。
酒井:都城市では終活の一環として、終活ノートも作成していますよね。終活ノートを作成した経緯を教えて頂けますか?
佐藤:実は、おくやみ窓口開設後、利用者のうち20%弱の方が「死んだ時に迷惑をかけたくないから、事前に諸々の申請書を作成してほしい」であるとか、「死亡手続に備えて何をすれば良いのか」等の相談のみの方でした。申請書は亡くなった際の状況に応じて作成するものなのでお断りさせて頂くのですが、多くの方が亡くなってからのことに不安を感じているのだと驚きました。
酒井:なるほど。皆さん終活を意識しているのですね。
佐藤:実際におくやみ窓口には非常に高齢の方が相談にいらっしゃることもあります。高齢者が若い方と一緒に住む時代ではなくなりましたので、外から戻ってきたお子さんが手続きにいらっしゃるケースも増えました。そういった状況に鑑みて、市としてはその方の情報や想いなんかをしたためるものが必要であるのではないかと考えました。
酒井:現場で相談者様の状況を把握しているからこそのご意見ですね。情報だけでなく想いが形として残ることで遺された側も気持ちの整理ができそうです。
佐藤:作成の流れとしましては、都城市と包括連携協定を結んでいた第一生命さんが既に終活ノートを作成されておりまして、そちらを自治体向けに一部変更して終活ノートとしてリリース致しました。終活ノートには、問い合わせ先として第一生命さんの相続コンサルタントの情報も掲載していますよ。
酒井:相続に関する情報は終活する側にも遺される側にも役立ちそうです。終活に興味を持った方だけでなく、実際に亡くなった場合の手続きまで全てサポートするという方針なのですね。
佐藤:終活に興味がある方や手続きを取る方に寄り添ったサポートを目指しています。また、空き家や土地の名義変更など死亡に伴って自治体に起きうる不利益や、休眠口座など経済に対する不利益なども改善していくように心がけています。
酒井:終活ノートを作る上で、工夫した部分はありますか?
佐藤:基本的には第一生命さんのご協力を頂いておりますので、過度なオリジナリティを入れたわけではありません。第一生命さんの案として、財産の情報など事務的な部分だけでなく、気持ちを伝える部分が既に作られていました。自治体としても是非使っていきたいと感じた部分ですね。
酒井:終活ノートの反響はどうでしたか?
佐藤:都城市では、今年4月末に配布開始し、おおよそ4,000冊ほど配布をさせて頂きました。最初の1ヶ月で2,000冊ぐらいがはけましたので、かなり人気を博しているかなと思います。
酒井:おお!かなりの反響があったようですね。何かきっかけがあったのでしょうか?
佐藤:新聞で紹介されたことが大きなきっかけとなりました。市内だけではなくて、市外の方からも反響があり、終活ノートを送って欲しいというお問い合わせが数多くありました。市民向けとしているため、市外にお送りすることはできないのですが、社会から求められていると感じました。
酒井:他県にまで反響があったんですね!しかし、都城市ほど終活に精力的な自治体はまだまだ少ないように思います。
佐藤:そうですね。死亡手続きや相続関係に重点を置いた終活は近隣では見かけません。
酒井:都城市は終活をかなり先進的に注力しているようですが、取り組むきっかけなどはありましたか?
佐藤:死亡に関する手続きで多くの方が悩んでいることに気づいたことが取り組むきっかけの一つです。ちなみに、都城市はマイナンバー取得率が40%と全国市区1位です。以前からマイナンバーを使った電子母子手帳サービスをやっておりまして、マイナンバーカード関係のパネルディスカッションでそちらを市長が紹介致しました。その際に「以前、死亡手続きに時間がかかって大変だった。子育て世代と同じように介護世代の手続きもマイナンバーカードで簡易に済む仕組みを作って欲しい。」とコメントを参加者から頂きました。そのコメントがずっと頭に残っていましたので、そこも合わせて、おくやみ窓口の開設や終活ノートの作成に至りました。
酒井:おくやみ窓口の開設によって多くの方が終活の悩みを解決したのでしょうね!画期的なサポート体制ではありますが、考えついても行動に移すことは簡単ではありませんよね。組織として先進的な取り組みができる特別な理由があるのでしょうか?
佐藤:市長が積極的にチャレンジしていく志を持っていることが理由かもしれません。行政のサービスは税金で賄われていますから、守りに入ってしまいがちです。しかし、市長は「実際に市民が求めているサービスは現状維持ではなく現状改善である」と常日頃から職員に発信しています。例えば、おくやみ窓口に関しても形式的に設置するのではなく、おもてなしの心を持ちながら、おくやみブックであったり、終活のための準備であったりと内容を充実させるために取り組んでいくことが特徴になっていると思います。
酒井:市民のことを第一に考えて積極的にチャレンジしているのですね。
佐藤:終活とは少し違う話になりますが、都城市はSPI試験(適性テスト)をオンラインで受けることができるようにしていることに加え、デジタル面接、就職説明会、インターンシップなども次々とオンラインで実施しています。課題解決のために、大小様々な解決策を積み重ねていくことが都城市の課題解決の手法の一つとなっています。
酒井:終活ノートの活用状況について教えてください。
佐藤:例えば、「終活ノートが財産について話し合うきっかけになった」「子供が帰ってくるから終活ノートをもらいに来ました」という声を頂きましたね。
酒井:なるほど。親子が話すきっかけの一つとしても活用されているのですね。特に財産について話を持ちかけることは難しいですもんね。
佐藤:現代は核家族化が進んでいることもありますし、お子さんに財産の情報を伝える機会が少ないように思えます。実際に情報を共有していないケースでは「親の口座がわからないから教えて欲しい」とご遺族の方からご相談を頂くことがあります。市役所での対応は出来かねますが、そういった相談が多いことから、財産について話し合う機会が少ない状況であると窺えますよね。都城市では、財産情報を伝えるためのコミュニケーションツールとしてもおくやみ窓口や終活ノートなどを使って頂けているようです。
酒井:以前、終活ノートを書ききるのは全体の1〜5%しかいないと話を聞いたことがあるのですが、都城市ではどうでしょうか?
佐藤:実際に調査を行なっているわけではないのですが、実感としては、通常の配布に比べるとしっかり書かれているのではないかと思います。市役所の職員の家族でも既に書ききっている方が何人かいらっしゃいますし、終活ノートの書き方の指導をしてほしい等の要望も頂いています。
酒井:それは素晴らしいですね。おくやみ窓口の設置などから、終活の問い合わせは増えているのでしょうか?
佐藤:以前は終活の問い合わせはほぼ皆無でしたが、やはりおくやみ窓口を設置してからは増えていますね。
酒井:それだけ多くの方が「おくやみ窓口」のような終活サポートを待っていたということですね。
酒井:以前、終活専門家の方から伺ったのですが、比較的お金を持っている人が終活しやすい一方で、苦しい状況の人は終活を進めることが難しく、自治体がやるしかない、または自治体が対応してくれないという状況もあるそうです。経済格差については都城市ではどのように対応していますか?
佐藤:終活に関しては専門家に相談できる方はそこまで多くはないと思います。それは終活するにあたって精神的なハードルもありますし、場合によっては金銭的なハードルもありますし。そのような問題がある中でも、自治体を通して終活のことを手軽に確認して頂けるよう環境を整えています。連携している第一生命さんからも協力を頂いています。
酒井:今後さらに取り込んでみたいことはありますか?
佐藤:現代ではご高齢の方でも社会参画されています。社会の様々な組織に属している方が亡くなられた場合、死亡した時に必要な場所に連絡することができるようになれば、より良い形に繋がるのではないでしょうか。民間企業などの情報も含めて、情報銀行のように連携する仕組みがあると一層好ましいでしょう。
酒井:それは素晴らしいですね。既にそういったシステムを望んでいる方も多そうです。
佐藤:あとは、終活ノートに関するセミナーを開催してほしいというお声も頂いているのですけれども、コロナの関係で開催が難しくなっています。
酒井:最近ではzoomによるセミナーも増えてきていますが、ご高齢の方だと中々難しいですよね…
酒井:最後に終活を検討している方へメッセージをお願いします。
佐藤:高齢者の方も含めて市民の皆さんが人生を心置きなく楽しみ、悔いなき最後を迎えて頂くためには次の世代に繋げる準備が大切です。我々自治体の取り組みをきっかけに、より深く終活について考えて頂ければ非常にありがたいと思っております。