親が死亡して相続が発生したとき、預貯金の内容を調べてみると、相続開始の前後に多額の出金が行われているケースがあります。そのような場合、同居していた長男などが勝手に親の預貯金を使い込んでいる可能性があります。
長男の使い込みが明らかになったとき、ほかの相続人はこれを取り戻すことができるのでしょうか?
今回は、遺産相続の際、預貯金に使途不明金が発生する4つのパターンと、使い込まれた遺産を取り戻せる場合の方法について、解説します。
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この記事に記載の情報は2023年10月30日時点のものです
使途不明金を取り戻すことはできるのか?
まずはじめに、使途不明金は取り戻すことが可能なのかどうかについて、使途不明金の基礎情報と合わせて解説します。
使途不明金とは
使途不明金とは、相続開始前後に引き出された、その使途が不明な被相続人名義の預貯金のことを言います。
被相続人が入院して自分では使うことができなかったのに預貯金引出し履歴があるケースや、被相続人の死亡後に出金されているケースなどでは、明らかに本人が使用したものではないので『使途不明金』となります。
使途不明金が多くみられるのは、被相続人と同居しており、被相続人名義の通帳や印鑑、カードなどにアクセスできた相続人が使い込んだのではないかと疑われるケースです。
使途不明金を取り戻せるのか
使途不明金が発生している場合、取り戻せるケースと取り戻せないケースがあります。また、裁判で取り戻すためには「証拠」が必要です。
以下で、使途不明金が発生する4つのパターンと取り戻すための対処方法をご紹介します。
遺産相続の使途不明金4つのパターンとそれぞれの解決方法
使途不明金とひと言でいっても、どのような形で使途不明金となったのかによって解決方法が異なります。ここでは、それぞれのケースにおける解決方法を解説します。
①相続開始後の不正出金のケース
1つ目のパターンは、親が死亡した後、銀行口座が凍結される前に長男が預貯金をまとめて出金したケースです。
相続開始後、長男が遺産である預貯金を勝手に処分した場合は、ほかの相続人らに返還しなければなりません。相続開始後の出金なので「被相続人から贈与された」「被相続人のために使った」などと主張することも認められません。
長男が自己の相続分を超えて預貯金を出金した場合、相続人らは長男に対し、不当利得返還請求や不法行為にもとづく損害賠償請求として預貯金の返還請求をすることができます。長男は各相続人に対して法定相続割合に応じたお金を返す必要があります。
なお、長男も法定相続人なので、自分の法定相続分は、返還の必要はありません。
②相続開始前の特別受益のケース
2つ目の使途不明金のパターンとして、被相続人から特定の相続人に対し、生前贈与が行われるケースがあります。
生前贈与とは、被相続人が生きている間に被相続人と相続人との間で贈与契約を締結し、被相続人の財産を当該相続人に受け渡すことを言います。親と同居している長男などの相続人がいる場合、親がその長男などに対して、まとまった金額を贈与する例が多くみられます。
例えば長男が死亡した父親から生前贈与としてお金を受け取っていた場合、長男は法律上の理由に基づいてもらっているので、ほかの相続人は返還請求することができません。ただし、この場合には、遺産分割をする際に、「特別受益の持ち戻し計算」という計算方法を用いることで、長男の遺産取得分を減らし、ほかの相続人との間で利害を調整することができる場合があります。
一方、生前贈与が嘘で、長男が勝手に預貯金を出金しただけの場合には、以下の③④で紹介するように、当該出金に正当な理由があるか否かが問題となります。④のように、正当な理由がない場合には、ほかの相続人は長男に遺産の返還を請求できます。
③相続開始前、出金に正当な理由があるケース
次にように、相続人による出金に「正当な理由」がある場合もあります。正当な理由とは、例えば以下のようなものです。
- 被相続人が相続人から借りていたお金を返済した場合
- 相続人が被相続人の生活費や遊興費を出金して渡した場合
このようなケースでは相続人による使い込みはなく、不正出金とは言えないので、返還請求できません。
④相続開始前の使途不明金が不当利得、不法行為になるケース
4つ目が、相続開始前に正当な理由なく預貯金が出金された場合です。つまり同居していた相続人が勝手に預貯金を出金して自分のために費消・着服していた場合などです。
このように、出金に正当な理由が認められないケースでは、その出金は「不当利得」や「不法行為」となります。
不当利得とは、法律上の理由なく利益を受けることです。不当利得が成立した場合、不当利得によって損失を被った人は、利得を受けた者に対して不当利得分を返還請求することができます。預貯金が勝手に引き出された場合、出金者は法律上、正当な理由なく預貯金を取得しており、不当利得が成立します。
不法行為とは、故意や過失によって違法行為を行い、被害者に損害を発生させることです。この場合、不法行為者は被害者に損害を賠償をしなければなりません。預貯金が不正出金されたら被相続人やほかの相続人に「損害」が発生するので、ほかの相続人は勝手に出金した相続人に対し、不法行為にもとづく損害賠償請求ができます。
不当利得返還請求と不法行為にもとづく損害賠償請求は、法律構成は違いますが効果はほとんど同じです。そこで遺産を使い込んだ相続人に使途不明金の返還請求をするときには、不当利得と不法行為のどちらを理由としてもかまいません。
ただし不当利得返還請求件のほうが時効期間は長くなることが多いので、出金時から時間が経っていれば、不当利得返還請求のほうが有利になる場合があります。
使途不明金を追求するために必要な証拠
特定の相続人が勝手に被相続人の預貯金を出金して使途不明金となった場合、裁判で返還請求をするには「証拠」が必要です。以下でどのようなものが有効な証拠となるのか、説明します。
必要な証拠
使途不明金を取り戻すには、以下のような証拠が必要です。
被相続人名義の預貯金の取引履歴、残高証明書
まずは、預貯金が使い込まれていることの証拠が必要です。そのためには、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴や残高証明書などの資料が必要です。
取引履歴を見て、いついくらの出金があるのかを丁寧に検証しなければなりません。
通常、生活費程度の出金であれば「使途不明金」とは認められないので、ある程度以上大きな単位での出金記録を探す必要があります。
多額の引き出し・引き落とし、送金など不審な記録がないか、確認しましょう。
被相続人が当時自分で出金できなかったことを示すカルテや介護記録
次に、被相続人が入通院していた場合の病院のカルテや医師の診断書、介護を受けていた場合の介護記録なども重要です。要介護認定記録なども証拠にできます。
これらを集めるのは、被相続人本人が自分で出金できなかったことを証明するためです。
一般的に、銀行口座からの出金がある場合、基本的には本人による出金と考えられます。単に被相続人の口座から50万円、100万円などの出金があっただけでは、同居していた相続人から「知らない。父が自分で出金したのではないか?」などと言われると、それ以上追及できなくなってしまう恐れがあります。
そこで、カルテや介護記録などを取り寄せて、「本人はとても出金をする能力などなかった」という事実を証明する必要があります。そこまでして初めて「出金は同居していた相続人が勝手にやった」可能性が高いことが証明できます。
当時出金した相続人がお金を使った様子があれば、その資料
怪しい出金が行われた日時の直後に、相続人が大きなお金を使った様子があれば、そういった資料も有効です。例えば、100万円の出金が行われた後に同居の長男が車を買ったり家族で海外旅行に行ったりした場合、その写真やお土産などの資料が証拠になります。
周囲の人に聞いて、当時の状況を思い出してもらい、陳述書を作成する方法なども考えられます。
証拠の入手方法
証拠の入手方法には以下のようなものがあります。
銀行の取引履歴について
銀行口座の取引履歴については、銀行に直接問合せをして、相続人であることの資料(戸籍謄本等)を提示して取引履歴を出してもらいましょう。
各銀行によって書式や取扱いが異なるので、直接銀行に行って聞くとよいでしょう。履歴を何年遡れるかも銀行によって異なります。
弁護士に依頼し、23条照会をして取得する方法もあります。
カルテや介護記録について
医療カルテや介護記録については、病院や介護事業所へ照会をします。相続人が自分で照会しても出してもらえない場合は、弁護士に依頼して23条照会をしましょう。
介護認定に関する記録は、市区町村に問い合わせ、個人情報開示の手続きを行い、認定調査票や主治医意見書などの資料の写しを出してもらいます。
当時の資料について
出金した相続人がお金を使った資料については、昔の記録や写真などが有効です。周囲の人に陳述書をお願いしたり、相続人自身にクレジットカードの利用記録などの提出を求めたりすることも考えられます。
まとめ
遺産から不正出金されて使途不明金が発生したら、相続人間で大きなトラブルになるケースが多々あります。自分達だけで解決しようとすると困難な事態になりやすいので、お困りの際には相続問題が得意な弁護士に相談してみてください。
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