遺産相続の当事者になると、どうしても葬儀やその他の忙しさで相続手続きは後回しにしてしまいがちかもしれません。
そうなると、遺産相続の時効が気になってくることでしょう。
遺産相続にも、いくつか関連する時効があります。
いくつかの手続きについては、時効までにおこなわなければもはやその手続きをおこなえなくなってしまうということもあります。
遺産相続の時効をしっかりと把握して、もれなく手続きをおこなうようにしましょう。
本記事では、遺産相続の時効について詳しく解説します。
時効とは、ある状態が長く続いた場合にその状態が法律的に正しいと言えなくても、その状態に関わる権利を認めることです。
たとえば、Aが所有者でないのに、ある土地を一定期間占有し続けたとしましょう。
この場合、長期的に占有し続けたという事実が尊重され、時効によりAにその土地の所有権があると認められるのです。
時効というと、刑事事件の逮捕を免れることができる刑事上の時効をイメージする方が多いでしょう。
実際には、民法上のさまざまな権利についても、時効が成立するケースがあるのです。
時効には、取得時効と消滅時効の2種類があります。
時効によって権利の取得を認めるものが取得時効、時効によって権利の喪失・消滅を認めるものが消滅時効です。
遺産相続の場面でも、時効が出てくる場面があります。
遺産相続で知っておくべき時効7つを紹介します。
遺産分割協議とは、遺産をどのように分けるのかを全ての相続人が話し合うことであり、この協議を求める権利を「遺産分割請求権」といいます。
遺産の共有状態が続いているうちは、相続人であればほかの相続人に対しいつでも遺産分割協議を請求できます。
いつまでに遺産分割協議をおこなわないといけない、という決まりもありません。
遺産分割請求権が、時効により消滅してしまうことはないのです。
とはいえ、あまりにも長い間遺産分割をしないまま放置していると、権利関係がわからなくなってトラブルが生じたり、相続権利者が亡くなってさらなる相続が発生したりなど、さまざまなトラブルが生じるおそれがあります。
遺産分割はなるべく速やかにおこなうようにしましょう。
(遺産の分割の協議又は審判)
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
相続回復請求権とは、相続人の地位を侵害している者に対して、財産を請求したり相続人としての地位の回復などを請求したりする権利のことです。
相続人の地位を侵害している者のことを「表見相続人」や「不真正相続人」といいます。
具体的には相続欠格にある者、廃除された者、虚偽の認知届による子どもなどが表見相続人の例としてあげられます。
相続回復請求権の時効は、「相続人が相続権を侵害された事実を知ったときから5年」または「相続開始のときから20年」です。
(相続回復請求権)
第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺留分侵害額請求権とは、遺留分が侵害されている場合に、侵害されている遺留分の額を請求できる権利のことです。
遺留分とは、一定の相続人に最低限保証された遺産の取得分を指します。
たとえば、被相続人が「財産の全てを第三者に遺贈により寄付する」という遺言を残していた場合、被相続人の配偶者はまったく財産をもらえなくなるわけではなく、自己の遺留分に相当する額をその遺贈を受けた者に請求できます。
遺留分侵害額請求権の時効は、「遺留分権利者が遺留分侵害の贈与・遺贈があったことを知ったときから1年」または「相続開始のときから10年」です。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
相続によって債権を取得することがあります。
たとえば、預金債権、貸金債権、売掛金債権などが相続によって取得し得る債権の一例です。
これらの債権にも、時効があります。
債権の時効は、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できるときから10年」です。
相続によって債権を取得した場合には、すでに消滅時効のカウントが始まっていることもあります。
できるだけ速やかに債権を行使するようにしましょう。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
相続税に関して更正または決定などの処分がなされる場合には、その時効は5年間(偽りその他不正の手段により税を免れた場合などについては7年間)とされています。
更正・決定処分とは、簡単にいうと納税者に誤りがある場合に、税務署長がそれを正すための手続きです。
これらの処分は申告書が提出されなかったり、税務署の指摘に応じず修正申告をしなかったりする場合におこなわれます。
税務署は更正・決定処分により正しく納税するよう促すと共に、重加算税などのペナルティを科すのです。
一方、賦課権とは国税債権を確定する権限であり、その権限には更正・決定処分をすることも含まれます。
つまり賦課権の時効が成立すると、税務署は更正・決定処分をおこなえなくなるわけです。
これは、税務署側が課税のための処分をしなければならない期限のことなので、相続人であるあなたが何かをしなければならない期限というわけではありません。
(国税の更正、決定等の期間制限)
第七十条 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年(第二号に規定する課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があつたものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)については、三年)を経過した日以後においては、することができない。
相続税の徴収権の時効は、5年(偽りその他の不正の行為により税を免れようとした場合には7年)とされています。
この時効は、相続税の申告期限から数え始めます。
相続税の申告期限は、相続開始があったことを知ったときから10ヵ月なので、相続税の申告期限は原則として相続開始があったことを知ったときから5年10ヵ月ということになります。
相続税を納めないまま、この時効期間が経過すると、もはや国は相続税を徴収することができなくなります。
このことから、「相続税を納めないまま5年を待てばいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、国はしっかりと相続税を徴収しようとしており、ほとんどのケースで5年以内に相続税を徴収するために動き始めます。
相続税を納めないまま5年を待つことで、相続税を逃れられるということはないと思っておいたほうがよいです。
(国税の徴収権の消滅時効)
第七十二条 国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(第七十条第三項(国税の更正、決定等の期間制限)の規定による更正若しくは賦課決定、同条第四項の規定による賦課決定、前条第一項第一号の規定による更正決定等、同項第三号の規定による更正若しくは賦課決定又は同項第四号の規定による更正決定等により納付すべきものについては、第七十条第三項若しくは前条第一項第一号若しくは第三号に規定する更正、第七十条第四項に規定する賦課決定、前条第一項第一号に規定する裁決等又は同項第四号に規定する更正決定等があつた日とし、還付請求申告書に係る還付金の額に相当する税額が過大であることにより納付すべきもの及び国税の滞納処分費については、これらにつき徴収権を行使することができる日とし、過怠税については、その納税義務の成立の日とする。次条第三項において同じ。)から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
相続税の還付請求権の時効は、相続税の申告期限から5年です。
還付請求権とは、納めすぎた税金を返してもらう権利のことです。
相続税の納めすぎを申告することにより、還付をしてもらうことができます。
相続税の納めすぎがわかったら、できるだけ放置しないですぐに還付請求をするようにしましょう。
(還付金等の消滅時効)
第七十四条 還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から五年間行使しないことによって、時効により消滅する。
遺産相続の時効に対しては、権利者と義務者がそれぞれおこなうべき対応があります。
遺産相続の時効について、権利者と義務者のそれぞれの対応を説明します。
権利者は、時効によって権利が消滅することを防ぐために、時効の完成猶予や時効の更新の効力がある法律上の行為をおこないます。
「時効の完成猶予」とは、時効の完成を一時的に防ぐ効力のある法律上の行為です。
時効の完成猶予の効力がある行為をおこなうことで、その間は時効の完成を防げます。
「時効の更新」とは、時効がリセットされて新たにゼロからカウントを始めるようになることです。
時効の完成猶予(更新)の効力がある主な行為には、次のようなものがあります。
裁判上の請求とは、訴訟を提起して権利に基づき相手方に請求をおこなうことです。
請求に関して、裁判を通さないで内容証明郵便で催告をするだけでは、6ヵ月間に限って時効の完成が猶予されるにとどまり、その間に裁判上の請求などをしなければ、時効の更新の効力はありません。
このように、時効が完成するまでに何をしなければならないかは、判断が難しいところがあります。
内容証明郵便を送ってそれでいいと思ってそのままにしていたら、時効の更新が認められないということもあり得ます。
時効が完成するまでにどうすればいいのかわからないと思ったら、弁護士のような専門家に相談するようにしましょう。
時効が問題となっている権利の義務者は、時効が完成したら時効の援用をおこなうようにしましょう。
時効の援用をおこなって初めて、確定的に時効の効果が生じます。
時効の援用とは、時効が完成することで利益がある者が、時効の完成を主張することです。
当事者が正しく時効の援用をおこなわない限り、時効による効果が発生しないとされています(民法145条)。
時効の援用も、簡単なように思えて、うまくおこなえていなければ権利者の持つ権利を消滅させることができないものであり、自分でうまくできるか心配だという場合には弁護士のような専門家に相談するようにしましょう。
時効のほかにも、遺産相続では確認しておくべき期限があります。
遺産相続で確認しておくべき期限4つを紹介します。
相続放棄は、熟慮期間が過ぎるまでにおこなわなければなりません。
相続放棄の熟慮期間は、相続の開始を知ったときから3ヵ月以内です。
相続の開始を知ったときから3ヵ月を超えると、原則として相続放棄をすることができなくなるので、注意しましょう。
もっとも、3ヵ月の期限を超えて相続放棄をしていなかった場合でも、事情によってはまだ相続放棄が許されることもあります。
裁判所が相続放棄を許すかは事情によりますし、その判断も専門家でないと難しいので、このような場合に相続放棄をしたいという場合には、弁護士に相談して対応してもらいましょう。
準確定申告とは、亡くなった方が確定申告の義務がある者であった場合に、亡くなった方のまだ終えていない分の確定申告を相続人が代わりにおこなうものです。
たとえば、亡くなった方が自営業者などである場合には、確定申告の義務がある可能性が高いです。
これに対して、亡くなった方がサラリーマンであって副業をせず申告が必要な控除をしていないといった場合は、基本的に確定申告の義務がありません。
準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月です。
この期限以内に準確定申告をおこなう必要があります。
相続の開始から(被相続人がなくなってから)4ヵ月というとまだ慌ただしさが残る時期かもしれませんが、納税にかかわる手続きなので、確実におこなうようにしましょう。
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月です。
このときまでに相続税の計算をしたうえで、申告・納税をしなければなりません。
期限内に申告をすませないと、加算税・延滞税といったペナルティを受け、税金を多く払うことになるので注意してください。
相続税の申告の前提として、どのように遺産を分けたかをはっきりさせなければならないので、相続税の申告期限までに遺産分割協議なども済ませておくのが望ましいといえます。
なお、遺産分割協議がなかなか終了せず、相続税の申告期限まで間に合わないことも多いでしょう。
その場合は、法定相続分で仮計算をして申告をおこないます。
そうしてあとから納め過ぎた分の還付請求などをすることによって、ペナルティを避けることが可能です。
相続登記はこれまでは義務とされていませんでしたが、2024年4月1日からは義務とされます。
相続登記が義務とされた後は、相続登記の期限は、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った時から3年です。
相続放棄とは、相続した不動産の名義を変更する手続きを指します。
基本的には、被相続人が亡くなったことを知った日から3年が相続登記の期限となることが多いです。
被相続人が亡くなったあとは、できる限りすみやかに相続登記を実行するようにしましょう。
なお、期限までに相続登記をしないと、ペナルティが科せられます。
相続登記の義務があるのに、期限までに相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科せられることがあります。
過料とは、金銭的なペナルティで、罰金に似ていますが刑罰ではなく行政的な制裁金です。
期限までに相続登記をせず、過料の制裁を言い渡された場合には、過料のお金を納めなければなりません。
相続登記はできるだけすみやかにおこなうようにしましょう。
遺産相続の時効について疑問点がある場合には、弁護士に相談・依頼しましょう。
弁護士に相談・依頼することには、次のようなメリットがあります。
弁護士に相談すれば、時効が成立しているかどうかの判断をしてくれます。
さまざまな条件で時効の完成が猶予されたり、更新されたりすることは前述したとおりです。
そのため、ほんとうに時効が成立しているか、当事者では判断が難しいことが少なくありません。
時効が成立しているかどうかがわかれば、そのことを前提に次にどのように行動すればいいかがわかります。
時効が成立しているかどうか自信がない場合には、弁護士に相談してみましょう。
弁護士は、トラブルの内容に応じた解決策を提案してくれます。
相続トラブルを多く扱う弁護士は適切なトラブル解決の方法をよくわかっているので、トラブルに対してどのように対応したらいいのかわからないときには弁護士に相談するとよいでしょう。
弁護士であれば、自分だけで考えるよりもより良い解決策を提案してくれます。
弁護士に依頼すれば、権利に基づく請求や時効の援用の手続きなどをあなたの代わりにおこなってくれます。
請求や時効の援用は自分ではどのようにおこなえばいいのかわからないという場合でも、弁護士に任せることで代わりにおこなってくれるので安心です。
自分でやろうとしてうまくいかないという場合には、すぐに弁護士に相談・依頼しましょう。
遺産相続に関する時効は、基本的には過ぎてしまうともはや権利が行使できなくなるものです。
しかし、相続放棄など一部の手続きについては、期限を過ぎてもまだ対応することができるものもあります。
遺産相続に関する時効の悩みがあるときは、弁護士に相談するようにしましょう。
適切な対処法を教えてくれます。
特に、時効が迫っている場合には、できるだけ速やかに手続きを進める必要がある場合も多いです。
少しでも「これってどうしたらいいのかな?」と思ったら、放置しないで弁護士に相談して手続きを進めるようにしましょう。
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