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事業承継とは|手続きの流れと後継者へ相続する際の手順

小杉・吉田法律事務所
吉田 圭二
監修記事
Baton
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事業承継(じぎょうしょうけい)とは、会社の事業を次の経営者へ承継させることをいいます。

個人事業主の場合は有形の事業用財産やノウハウのような無形の財産、株式会社であれば株式の全部または大部分を譲渡することをいいます。

中小企業は、社長の経営手腕が会社の強みや存立基盤になっているケースが多く、「社長が後継者として誰を指名し、どのように事業を引き継ぐのか」というのは重要なテーマとなります。

事業承継には、日本全体で7割を超えるといわれる中小企業の雇用確保のほか、会社の暖簾を守って優れた技術・技能の伝承をしていくことで、国家や社会の資産損失を防ぐという役割もあります。

自社株式を誰に引き継ぐのかという問題や、後継者の育成、株式譲渡の際の贈与税・相続税の問題などをスムーズに解決するためにも、適切な事業承継の計画を立てておく必要があります

この記事では、事業承継の方法や手順など、事業承継を検討している人が知っておくべき知識を解説します。

事業承継について、手続きや税金の面で不安を抱えているあなたへ

後継者に事業を継承させたいが、手続きや税金面に不安を感じていませんか?

事業継承は専門的な知識が必要なので、曖昧なままおこなうと今後の事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

税務上の問題や後継者の選定トラブルを避けて着実に事業継承をしたい場合、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

また、弁護士に相談することで以下のようなメリットを得ることができます。

  • 円滑に事業継承するためのアドバイスがもらえる
  • 会社の法務面を強化するためのアドバイスがもらえる
  • 依頼すれば、後継者に経営権を集中させるために動いてくれる
  • 依頼すれば、他の相続人の遺留分を侵害しないように事業継承を進めてくれる
  • 依頼すれば、M&A交渉を有利に進める手助けをしてもらえる

当サイトでは、事業継承をはじめとする相続問題を得意とする弁護士を地域別で検索することができます。

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この記事に記載の情報は2023年08月23日時点のものです
目次

事業承継とは

事業承継は経営者にとって最後の大仕事であり、会社の事業を後世に伝えるために必ず必要な手続きといえます。

会社が将来にわたって事業を継続するという前提のもと、株式・企業会計・税務・雇用関係といった企業の制度設計はおこなわれます。

経営者や経営層の交代は、どの企業にとっても必ず訪れる問題です。

なるべく早い段階から十分な準備を進めておくことが、事業承継を円滑に進めるためのコツといえます。

事業承継の目的

中小企業といわれる規模の会社は、企業数としては全体の9割以上で、従業員数としては全体の約7割にのぼります(中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来|中小企業庁)。

これらの企業がもつ技術をさらに高め、事業環境を整備して後世に承継していくことは、日本経済が継続的に発展を続けていくためにも必要不可欠であり、事業承継の大きな目的となっています。

何を事業承継するのか?

事業承継は、「ヒト(人)の承継」と「資産の承継」の2つに大別されます。

ヒト(人)の承継

ヒトの承継とは、経営者個人の知識や経験、企業理念といった無形財産を次の経営者に託すということです。

無形財産の例としては以下がありますが、特に中小企業では「現経営者=会社の顔」というケースが多く、無形財産を伝えることが事業存続のうえで重要なポイントです。

  • 会社の事業を継続するために必要な知識や経験
  • 人脈
  • リーダーシップ・経営に対する信条や価値観

ヒトの事業承継は、単純に後継者を決定することだけに留まらず、現経営者の資質・能力・マインドなどを承継するという側面もあります。

資産の承継

資産の承継とは、事業の有形財産を次の経営者に承継することをいいます。

その目的は、後継者の経営権や支配権の確立にあります。

そのためにも、自社株式や事業用の動産・不動産などを承継させるのです。

多くの中小企業では、現社長・オーナーの個人的な資産が少なからず事業に投入されています。

たとえば、経営者が大半の自社株式を所有していたり、土地などの個人資産を事業用に活用していたりする場合などがあります。

そのような場合、事業承継を始める際に財産の所有権と経営権の分離が大きな課題となります。

さらに、親族間での生前贈与・遺産相続や、自社株式の分散などの問題も同時に起こる恐れがあります。

たとえば、親族の一人を後継者にする場合、ほかの推定相続人に自社株式や事業用に活用していた財産が分散してしまう可能性があるのです。

そのような後継者以外への資産分散を防ぐには、多額の現金を用意しておくなどの準備が必要です。

事業承継をスムーズに進めるためには早期からの対応が必須

円滑に事業承継をおこなうには、後継者の選定や育成にはできるだけ早期から計画的に取り組み、親族への備えとして自社株式・事業用資産の買い取りや税務対策などの事前準備が重要です。

事業承継の必要性|中小企業における事業承継の問題点

事前準備が不十分で相続争いとなる場合もあれば、相続争いが発生せず後継者が円満に承継する場合もあります。

しかし、相続争いがなく事業承継できても、多額の相続税が課されることもあります。

また、現経営者が金融機関と締結している個人保証などでは、事業承継で後継者に大きな負担がかかることも多く、事業承継後の納税や資金繰りについても配慮して進めていくことが重要です。

1:経営者の平均年齢の上昇

国全体の平均年齢が高齢化しており、経営者の平均年齢も60代という状況であるにもかかわらず、経営者の多くは後継者を見つけて育てることに苦労しているというのが現状です(社長の平均年齢 過去最高の63.02歳 ~ 2022年「全国社長の年齢」調査 ~|東京商工リサーチ)。

このような状況のなか、中小企業の経営者の平均引退年齢が約67歳という調査結果も踏まえてみると、多くの中小企業が今後10年の間に何らかの対応を迫られることになるはずです(事業承継に関する現状と課題|中小企業庁)。

2:中小企業の多くが同族会社という実態

日本では、中小企業のほとんどが同族会社であるとされており、創業者一族と無関係に後継者が決まるケースは多くありません

その理由としては以下があります。

  1. ほかに後継者としてふさわしい人材がいない
  2. 社長が個人財産を事業のために提供している など

上記のように、「一族の財産が企業経営のなかに組み込まれていることで、必然的に後継者を親族のなかから選択しなくてはならない」などがあげられます。

3:積極的に取り組むきっかけや動機が欠けている

事業承継は重要な手続きですが、「事業承継に向けた計画的準備がなされていない」という場合もあります。

たとえば、「事業承継の重要性を認識していなかった」「事業承継の重要性はわかっていたが具体的な対策は取っていなかった」などが考えられます。

4:周りから言い出しにくい

現経営者から自発的に動くのが難しい以上に、周囲の人間が事業承継の進行を促せないという状況になることもあります。

特に同族会社の場合、事業承継は「社長の死」を連想させるため、従業員や家族では議論を避けられがちになり、新たなトラブルが生じる可能性もあります。

事業承継をおこなう3つの方法

まずは、どのような事業承継の方法があるのかを知っておきましょう。

親族に承継する場合

「経営者の子どもに会社の事業を継がせる」というのが、中小企業において最も多い事業承継のパターンです。

しかし、親族への承継が上手くいかないというケースもあります。

少子高齢化などの社会的要因に加えて「経済成長が見込めない」といった理由などから、親族が継ぎたがらないこともあります

事業承継では、現経営者と後継者の意思疎通が最も大変かつ重要であり、成功させるためには両者それぞれの努力が必要です。

親族内承継のメリット

  • 一般的に内外の関係者から受け入れられやすい
  • 後継者の早期決定ができる
  • 後継者教育のための準備期間が確保しやすい
  • 「事業承継税制」などの制度を利用して財産や株式を後継者に移転でき、所有と経営の分離を回避できる

親族内承継のデメリット

  • 必ずしも親族内に経営の資質と意欲をもつ後継者がいるとはかぎらない
  • 子どもが複数いる場合などは、後継者の決定や経営権の集中が難しいことがある

親族内承継は「将来的な経営の混乱を未然に回避できる」という点では効果がある一方、「後継者以外の親族に公平な財産分配ができるように配慮するのが難しい」ということも考えられます。

また、親族内承継が完了したあとに旧代表者が亡くなった場合、相続を想定して親族内承継をしていないと揉め事に発展する可能性があります。

そのようなリスクを最小限に抑えるために、どのような方法をとればよいかを弁護士などに相談しておくことをおすすめします。

従業員または外部の後継者に承継する場合

親族内承継以外の方法としては、社内の従業員や取引先・取引先金融機関などから出向してもらい、後継者として承継するケースが考えられます。

従業員や外部への承継のメリット

  • 会社の内外から幅広く候補者を求めることができる
  • 長期間勤務している従業員の場合、会社の文化を理解しており経営方針の一貫性を保ちやすい

従業員や外部への承継のデメリット

  • 候補者が経営への強い意志を示す場合もあるが、適任者がいない恐れもある
  • 候補者に株式取得などの資金力がない場合がある
  • 個人債務保証の引き継ぎなどの問題もある
  • 旧代表者の意向を汲んで大きな改革ができない など

M&Aをおこなう場合

M&Aとは、企業の合併・買収のことをいいます。

これまで中小企業にとってM&Aは馴染みの薄いものと思われがちでしたが、近年では非上場企業でもM&Aは増加傾向にあり、事業承継の方法のひとつとしても浸透しつつあります。

M&Aのメリット

  • 後継者として適任な人がいない場合に、幅広く候補者を求めることができる
  • 現経営者が会社売却の利益を獲得できる

M&Aのデメリット

  • 希望の条件を満たす買い手を見つけるのが困難
  • 経営の一体性を保つのが困難

M&AのWebマッチングサービスも登場している

事業承継にはさまざまな方法がありますが、近年ではM&Aを選択するケースも増えています。

M&Aの買収先をインターネットで探せるサービスなども登場しており、そのひとつが「ビズリーチサクシード」です。

登録は無料で、あなたの情報や条件などを細かく登録しておけば、閲覧した買収希望企業から連絡が入るという仕組みです。

ただし、交渉自体は自分で対応する必要があり、必要に応じて専門家に依頼しましょう。

実際に買収先企業と交渉を始めるまでは企業名を明かす必要がなく、登録時には審査があるので質の低い企業に買収されることもありません。

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事業承継を円滑に進めるための11の手順

ここでは、実際にどのような手順を踏めば事業承継が上手くいくのかを確認しましょう。

後継者に持たせる経営支配権の維持と確立をする

事業承継後の経営を安定させるには、「後継者に自社株式を集中させて経営権を確立すること」「後継者が事業用資産を自由に利用・処分できること」の2点が重要です。

自社株式を集中させる理由

自社株式を集中させて3分の2以上の議決権を保有することで、買収のリスクなどに備えることができます。

不動産などの事業用資産の場合、その大半が経営者自身の所有物となっているケースが多く、経営権と所有権が一致しているのが一般的です。

一般的に、中小企業は譲渡制限付株式を採用しており、第三者が知らない間に株主になるようなことは少ないでしょう。

しかし、「相続を繰り返すうちに、株式が親族間で分散してしまう」ということは起こりえます。

そのような場合、親族から株式を譲り受けたライバル会社が乗り込んできて、株式の名義書き換えを要求して経営陣の退陣を迫ったり、株式の買い取りを要求したりすることもありえます。

そのような事態を防ぐためにも、株式の集中は会社経営にとって重要です。

相続による資産分散を防ぐための対策が求められるほか、事業承継による税金対策も課題としてあるため、事業承継後も安定して経営できるよう、事業と経営支配権を維持して、節税をするという視点も欠かすことができません。

優秀な後継者の発見と育成

ここでは、事業承継の後継者についてケースごとに解説します。

親族内承継の場合

事業承継させたい親族が複数人いる場合、誰を後継者とするかを明確に決定しないと、親族内での紛争につながる恐れがあります。

能力・適性・経験・意欲・ステークホルダーからの信頼などを十分に考慮したうえで、なるべく早く後継者を決定することが望ましいのは確かです。

関係者への理解が必要

親族内承継では、経営が円滑におこなわれるための環境整備が重要です。

まずは、社内の役員や従業員・取引先・金融機関などの理解を得るために、事業承継計画を公表するなどして事前説明をするのがよいでしょう。

後継者教育に関して

経営者には現場を取り仕切る能力や知識が必要とされますが、短期間で習得するのは困難であるため、後継者を選定したあとは十分な教育をして備えるべきでしょう。

社内での教育

後継者には自社の各分野(営業・財務・労務など)を経験させることで、必要な知識を習得させることができます。

また、ある程度の地位に就けて権限を委譲し、意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与えることも重要です。

社内教育のメリットは、比較的自由な指導内容と、経営上のノウハウ・業界事情・経営理念の引き継ぎまでできるという点です。

社外での教育

社外教育とは、他社での勤務を経験させる手法です。

人脈の形成や経営手法の習得のためにおこなわれることが多く、自社の枠にとらわれずに新しいアイディアを獲得するためには有効な手法といえます。

従業員等へ承継する場合

親族内承継と比べて関係者の理解を得るのに時間がかかるため、後継者の経営環境の整備に留意する必要があります。

後継者をどのように選定するか

「従業員等への承継」としては、役員や従業員などの社内から後継者を選定する場合と、取引先や金融機関などの外部から後継者を招く場合に大別され、社内の後継者候補としては以下の4パターンがあります。

  1. 共同創業者
  2. 専務等番頭格の役員
  3. 優秀な若手経営陣
  4. 工場長等の従業員 など

なお、外部から後継者を招く場合、従業員などからの反発も予測されるため、選定時はより慎重な判断が必要でしょう。

後継者の教育に関して

基本的には親族内承継と同様で、必要に応じて社内のローテーションや経営幹部としての経営参画、他社での勤務、セミナーの参加などを実施するのが有効です。

国や商工会からサポートを受ける

事業承継については、国や商工会などからサポートを受けることもできます。

国(中小企業基盤整備機構)による支援

中小企業基盤整備機構とは、後継者問題で悩む中小企業のために「事業引継ぎ相談窓口」を各都道府県に設置している団体です。

なお、なかでも需要の多い地域については「事業引継ぎ支援センター」も設置されています。

各窓口・センターでは、後継者を求めている企業と人をマッチングさせ、専門家による具体的な支援がおこなわれています。

商工会議所による支援

各都道府県・市区町村に設置されている商工会議所では、後継者を探している企業と起業したい人とのマッチングや、事業譲渡をしたい企業と譲り受けたい企業とのマッチングなどをおこなっています。

生前贈与や遺言による相続対策

事業承継を検討している場合、生前贈与や遺言などを活用するのも有効です。

生前贈与の場合

生前贈与をすることで、経営者の生存中に権利の移転が実現するため、有効な方法のひとつと考えられます。

一方、自社株式や事業用資産を後継者に集中させる場合、ほかの推定相続人の権利を害することにもなりかねません。

権利を害している場合、旧代表者が亡くなったあとに相続人間で紛争が起きてしまいます。

したがって、事業承継をする際は「経営者の資産をどのように親族に渡すのか」といった遺産分割の方針をしっかり見据えておこなうことが重要です。

遺言の利用

遺言を作成することで、遺留分にさえ留意しておけば相続争いによる無駄な遺産分割協議を避けることができ、適切な利用によって自社株式や事業用資産を後継者へ集中させることもできます。

しかし、遺言内容は場合によってはいつでも撤回できるほか、「内容変更する予定だったところ不測の事態によって経営者が亡くなってしまった」ということもありえるため、生前贈与よりも後継者の地位が不安定になるリスクがあります。

任意後見制度の活用

現在の日本は、高齢者の約4人に1人が認知症または軽度認知障害であるといわれています(認知症施策の総合的な推進について(参考資料)|厚生労働省老健局)。

経営者の判断能力が低下すると事業承継にも支障が出てくるので、「任意後見制度」などを判断能力が十分にあるうちに検討しておくとよいでしょう。

会社や後継者による自社株の買い取りをする

事業承継の時点で、役員や従業員などに株式が分散している場合は、「可能なかぎり株式の買い取りを実施して経営者に集約させる」という方法があります。

この方法では後継者の経営支配権を確保すると同時に、後継者に反発する可能性のある人から株式を買い取っておくことで、経営に何らかの障害が生じる可能性を未然に防ぐことが期待できます。

具体的な方法としては、後継者または会社が自社株式を買い取る方法と、新株を発行して後継者にのみ割り当てるという方法があります。

経営支配権を確実なものにするためには、新株発行よりも後継者個人による買い取りのほうが望ましく、買い取り資金の工面が困難な場合などは会社が買い取っておく方法が有効です。

事業用資産・株式に遺留分を主張されない対策を立てる

後継者になった人は、一定の要件を満たしていれば、先代の経営者が生きているうちに遺留分をもつ人全員との間で、事業承継の対象となる事業用財産・株式を遺留分の計算から除くことの合意ができます。

そのためには、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要ですが、この手続きを済ませておけば、後継者が引き継いだ事業用財産・株式について、たとえ相続が発生しても後継者以外の相続人が遺留分を主張することはなくなります。

会社法の活用を積極的におこなう

株式を集中させることによる経営支配権の確保も重要ですが、株式の分散を阻止する対策を講じておくことも重要です。

後継者に株式を集中させる方法としては、生前贈与や相続時精算課税制度の活用・遺言書作成などに加えて、2006年に施行された会社法を活用するのも有効です。

  • 定款を変更して株式の譲渡制限規定を置き、これ以上株式を分散させない
  • 議決権制限株式を後継者でない株主に与え、後継者の経営権を安定させる
  • 種類株式(議決権制限株式、拒否権付株式)の活用

拒否権付株式とは、「株主総会や取締役会の決議について拒否できる権利」がついた株式です。

拒否権付株式が発行される場合、株主総会や取締役会の決議事項について、拒否権付株式の株主で構成される「種類株主総会」の決議が必要になり、このような株式を後継者に承継することで「より確実な経営権を後継者に残す」という目的で利用されます。

ただし、たった1株だけでも圧倒的な強さがあるので、後継者以外に渡らないよう、遺言で後継者に相続させるなどの配慮が必要です。

後継者の資金負担軽減と制度の活用

自社株式や事業用資産を後継者へ集中させる際、さまざまな制度を知って活用することも重要です。

そのひとつとして「経営承継円滑化法」がありますが、これは所定の手続きを経ることで、非上場株式に係る相続税・贈与税の納税が猶予されるというものです。

また、先に解説した「除外合意」や、生前贈与された自社株式の評価額を固定する「固定合意」などもあり、専門家のアドバイスを受けながら検討することをおすすめします。

相続税などの税金対策をしっかりおこなっておく

税金についてはさまざまな節税方法があり、上手く利用して後継者の納税負担が多くならないよう対策を練っておく必要もあります。

生前贈与と暦年贈与や相続時精算課税制度の選択

  • 暦年贈与:贈与税の基礎控除枠を利用して、年間110万円以下で贈与する方法
  • 相続時精算課制度:60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子ども・孫へ生前贈与する場合、2,500万円まで贈与税が非課税になる制度

たとえば、相続発生まで余裕がありそうなら暦年贈与が向いていますが、詳しくは専門家などのアドバイスをもらいながら決定することをおすすめします。

非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度

後継者が贈与を受けた場合、非上場株式に対応する贈与税の全額が猶予され、後継者が取得した非上場株式の課税価額の80%に対応する相続税の納税猶予を受けることができます。

小規模宅地等の特例

特定事業用宅地等を、相続人である後継者が取得して事業を継続する場合は、相続税評価額の計算で400㎡までの評価額が80%減額されます。

生命保険の活用

生命保険を活用することで、相続税の軽減・納税資金の準備・円満な財産分割が望めます。

死亡保険によって保険金を受け取る場合、「法定相続人の数×500万円」が非課税限度額となります。

たとえば、法定相続人が3人いれば合計1,500万円分を非課税枠として処理できます。

相続することで相続税が発生してしまう場合は、生命保険を活用して相続税の軽減ができます。

弁護士に相談して事業承継計画を作成する

事業承継する際は、弁護士などの事業承継に詳しいところに相談しましょう。

事業承継について知識や経験のあるところに相談して、一緒に会社の現状を見直すことで、事業承継の計画をスムーズに立てられます。

財務・税務に関するアドバイス・サポート

会社の収支・財産状態・自社株の評価などのほか、事業承継と並行して起こりうる相続問題なども見据えてくれて、節税対策も望めます。

法務に関するアドバイス・サポート

後継者が円滑に承継できるように定款や会社法務を改めて検討しましょう。

そして、事業承継に向けて遺言による相続対策を行うことで、後継者と相続人間の争いを未然に防ぐことが可能です。

中小企業診断士への相談

中小企業診断士への相談なども効果的で、後継者が企業を存続・発展できる体制を整えるためのアドバイスが望めます。

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事業承継計画の立て方|知っておくと便利な事業承継の6つの手順

次に、事業承継計画の立て方と手順を解説します。

以下で解説する内容は、中小企業庁が発表している「事業承継ガイドライン」を参考にしています。

具体的な内容については、弁護士などに相談しながら対応していきましょう。

1:後継者の選び方

まずは、後継者を誰にするのかを決定します。

会社にとって将来的にどの選択をすれば一番よいか」をよく考えて決めましょう。

2:現状の把握

事業承継計画を立てる際は、会社をとりまく各状況を正確に把握することが大切です。

「現状把握」というと簡単なように感じるかもしれませんが、実際はさまざまな視点から正しく認識しなければいけません。

①会社の経営資源の状況

②経営リスクの状況

③経営者の所有資産および負債の状況

従業員の数・年齢

資産の額・内容

キャッシュフローの現状と将来見込み など

会社の負債状況

会社の競争力についての現状と将来の見込み など

保有自社株式

個人名義の土地・建物

個人の負債

個人保証等の状況 など

④後継者候補の状況

⑤相続発生時に予想される問題点と解決方法の有無の状況

親族内で後継者になりうるものがいるかどうか

社内や取引先などに後継者になりうるものがいるかどうか

後継者候補の能力や適性(統率力・意思疎通能力・広い視野・忍耐力・行動力・柔軟性など)

後継者候補の年齢・経歴・会社経営に対する意欲 など

法定相続人および相互の人間関係・株式保有状況などの確認

相続財産の特定・相続税額の試算・納税方法の検討 など

上記のような観点から現状把握を十分にしなければ、関係者との意思疎通や事業承継の方法の確定はうまくいきません。

3:経営環境と課題解決の対応策

「2:現状の把握」で確認した内容をもとに、会社の永続的な発展のために今後の経営環境の予測をして、取り組むべき課題への対応策を検討します。

4:事業の方向性を検討する

明らかになった課題への対応策を「中期・長期」で経営ビジョンに落とし込みます

自社の事業領域を明確にし、組織・経営形態・設備投資などを目標数値から中長期の経営計画に織り込んでいくことで、事業承継の時期や方法も明確になっていきます。

5:実際に事業承継計画を立てる

新体制に向けて、課題整理・後継者の教育・経営体制の確立に向けた準備などの具体的な取り組みを検討します。

事業承継計画を的確かつスムーズに進めていくためには、経営者と後継者が十分に連携して、経営理念や会社の方向性などを共有することが大切です。

6:事業承継計画書の書き方

具体的な書き方やフォーマットが指定されているわけではありませんが、ここでは参考程度にサンプルを紹介します。

事業承継計画書|産創館」「記入例|産創館

例:N社社長中小喜多郎の事業承継計画

事業承継の概要

現経営者

中小 喜多郎(65歳)

後継者

中小 学(35歳):喜多郎の長男(現在、N社従業員)

承継方法

親族内承継

承継時期

7年目に社長交代

経営理念|事業の中長期目標

経営理念

とりあえず頑張る。

事業の方向性

雇用・設備・債務の適正規模化を図る。
現在の主力商品のマーケットシェアを一層拡大する。

将来の数値目標

  【現状】 【5年後】

【10年後】

売上高 5億円 10億円

15億円

経常利益 3,000万円 3,500万円

4,000万円

事業承継を円滑におこなうための対策・実施時期

(1)関係者の理解

 

①家族会議で、学を後継者とすることを決定(実施済)

②社内の役員・従業員に後継者とする旨を公表(実施日)

③金融機関・取引先企業に後継者とする旨を告知(実施日)

④取締役(1年目)、常務(3年目)、専務(5年目)、副社長(6年目)とし、段階的に権限委譲

⑤●●を取締役に抜擢し、◆に引退してもらうことで役員の世代交代を図る

⑥社長就任後、喜多郎は会長(7年目)、相談役(9年目)としてサポートを実施。10年目に完全引退

 

(2)後継者教育

 

①S社で他社勤務(実施済)

②社内での配置:Y工場(1年目)、Z工場(3年目)、本社営業(5年目)

③商工会議所・商工会への参加(2年目)

 

(3)株式・財産の分配

 

■1:基本方針

後継者以外の推定相続人の遺留分は、花子:4分の1、梅子:8分の1

株式価値の上昇を見込んで相続開始時の相続財産を4億円と仮定

・花子:自宅(1億円)

・梅子:預貯金5,000万円分

・学:株式(2億円)および預貯金5,000万円分

 

■2:具体的な対策

・相続人に対する売渡請求に関する定款変更をおこなう(1年目)

・財産の分配方法を記載した公正証書遺言を作成する(1年目)

・学の株式(80%)のうち、60%分は生前贈与

・学が過半数の株式を保有する7年目に、重要事項の拒否権を有する「黄金株」を発行して喜多郎に割り当てる(7年目)

・「黄金株」は喜多郎が引退する10年目に会社が取得し消却

・自己株式の取得:Cの株式5%(2年目)、Aの株式5%(Aが引退する3年目)

 

(4)その他

 

弁護士Dと任意後見契約を締結(5年目)

基本的には、上記のように作成するのがよいでしょう。

さらに具体的な内容については「こちらから」確認できます。

ただし、初めて事業承継に取り組む場合、「そもそも何から始めればよいかわからない」という人も多いでしょう。

そのような場合は、弁護士などにサポートしてもらいながら進めるのがよいでしょう。

事業承継計画を弁護士などの専門家に相談する場合に知っておくべきこと

事業承継をサポートしてくれる専門家はさまざまおり、ここではそれぞれの対応内容や費用などを解説します。

事業承継の相談先一覧と相談できる内容

まずは、各相談先の対応内容について解説します。

弁護士に相談できること

弁護士は事業承継に関して、主に法律が関わること全般をサポートできます。

事業承継に関して下記のような悩みや疑問がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。

  • 法的な紛争を回避するには?
  • 円滑な事業承継をするにはどうすればよいか?
  • 後継者に経営権を集中させたい
  • ほかの相続人の遺留分にも配慮したい
  • 遺言を活用して相続紛争の対策をしたい
  • 事業承継でトラブルが生じてしまったが、どのように対処すればよいか?
  • 定款の変更や議決権制限株式などでわからないことがある
  • 株式や相続人に対する売渡請求などの方法を知りたい
  • 会社法上の各種制度を利用するにはどうすればよいか?
  • 会社の法務面をしっかりさせたいがどうすればよいか?
  • M&Aはどのようにすればよいか?
  • 任意後見制度を利用するにはどうすればよいか?
  • 遺言書の書き方を相談したい など

ベンナビ相続では、相続問題を得意としている弁護士のみを掲載しており、初回相談無料のところもあります。

まずは下記のリンクより、近くの弁護士を探して相談してみましょう。

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税理士に相談できること

税理士は税務面をメインに対応していますが、企業経営に関する総合的なサポートもおこなっています。

事業承継に関して、下記のような悩みや疑問がある方は税理士に相談するとよいでしょう。

  • 相続税額を試算したいがどうすればよいか?
  • 暦年課税や相続時精算課税制度を利用したい
  • 計画的な生前贈与をおこないたいが、どうすればよいか?
  • 議決権制限株式や黄金株を利用したい
  • 税務上どのような点に注意すればよいか?
  • 自己株式の取得(金庫株)を実行した場合の税務上の注意点は?
  • 相続財産を売却して相続税を納税する場合のメリットはなにか?
  • 相続税について物納する場合のメリットやデメリットはなにか?
  • 相続税の申告期限が近づいている
  • 遺産が未分割の場合と遺産分割が完了した場合の相続税額は?
  • M&Aを検討しているがどのような点に注意すればよいか?
  • 事業承継時期も含めた長期の経営計画を策定したい など

公認会計士に相談できること

公認会計士は、経営・管理・財務面でのサポートをおこなっています。

  • 既存株主からの株式買い取りをおこないたいが、適正な買取価格はいくらか?
  • M&Aによる売却価額はおおよそいくらになるか?
  • 磨きあげをしたいが、どのような点を改善すればよいか?
  • 円滑な事業承継を実現するためには、どのようなことをすればよいか? など

司法書士に相談できること

司法書士は、裁判所への提出書類の作成や簡裁訴訟代理に対応しているほか、企業法務などに関する情報提供や書面作成に関するアドバイスもおこなっています。

中小企業診断士に相談できること

中小企業診断士は、中小企業が経営課題に対応するための診断や助言などをおこないます。

コンサルティング業務のほか、後継者育成に関する助言や、事業承継時期も踏まえた中長期の経営計画の策定支援などもおこなっています。

金融機関に相談できること

金融機関は資金調達面で密接な関わりがあることから、中小企業に対して資金面をはじめとする総合的なサポートをおこない、さまざまな勉強会や助言などの対応をしてくれます。

一口に金融機関といっても、信託業務を扱う信託銀行・M&AやMBOに関する資金調達を支援する投資会社・増資の際に安定株主として株式を引き受ける中小企業投資育成株式会社など、幅広い選択肢があるのが特徴です。

商工会議所(商工会)に相談できること

商工会議所・商工会などの中小企業関係団体は、中小・小規模企業の経営に関する、総合的な相談や指導・各種セミナーの実施・中小企業関連施策に関する情報提供などをおこなっています。

  • 事業承継はどのようなことから手をつければよいか?
  • 事業承継に関する専門家を紹介してもらいたい
  • 後継者を外部から雇い入れたいが、どうすればよいか?
  • M&Aを検討したいが情報を入手できないか?
  • 後継者育成に関するセミナーに参加したいがどうすればよいか? など

中小企業基盤整備機構に相談できること

中小企業基盤整備機構は、総合支援センターに専門家を配置して、法務・税務・企業実務などの相談を受け付けているほか、後継者教育も含めた各種研修プログラムなども実施しています。

中小企業庁に相談できること

中小企業庁は、中小企業の発展のための施策の企画・立案・実施、各種制度などの普及に向けた取り組みをおこなっています。

また、事業承継に関連する税制や会社法について解説したパンフレットの作成・配布などもおこなっています。

各専門家に相談した際の費用

相談だけであれば、無料で受け付けているところも多くあります。

特に弁護士や司法書士の場合、「初回相談無料」などの事務所が多くあります

中小企業診断士や公認会計士の場合は、相談料が1時間につき5,000円前後かかるのが一般的です。

中小企業庁・中小企業基盤整備機構・商工会議所などは、相談料無料ですが相談できる期間が限られており、総合的に考えると下記のような順番で利用するのがよいでしょう。

  1. 弁護士や司法書士の無料相談を活用する
  2. 事業承継に関する相談をしてみる
  3. さらに専門的な内容を聞きたい場合は、別の専門家を紹介してもらう

上記のような流れで相談すれば、費用を最小限に抑えることができるでしょう。

最後に

誰に事業を継いでもらうにしても、事業承継では専門的な知識が必要であり、曖昧なまま進めてしまうと今後の経営が破綻する可能性もあります。

そのような事態を防ぐためにも、弁護士などの専門家と相談しながら着実に進めていきましょう

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この記事の監修者
小杉・吉田法律事務所
吉田 圭二 (東京弁護士会)
都内に不動産をお持ちの方・事業主/経営者の方の相続対策に注力しています。事業承継・不動産にかかわる悩みなど相続に関するお悩みに対応します。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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